ベイビーブローカー
先日是枝裕和監督の最新作「ベイビーブローカー」を見てきました。
ジーンとなったり、色々考えさせられた映画だったので、備忘録としてnoteに残したいと思います。
(#ネタバレが少しありますので、これから映画を見る方はご注意ください。)
是枝裕和監督の映画を見るのは今回で4作目。一作目は『誰も知らない』、2作目はカンヌ国際映画祭の会場で見た『そして父になる』、3作目は『海街diary』。そして今回の『ベイビーブローカー』です。
どの作品も「どこか歪なんだけど、それでも家族」をテーマにした作品だと思います。
今回のベイビーブローカーは、教会のベビーボックスに入れられた赤ちゃんを、不正に子供のいない夫婦に売る仕事をしている男たちと、赤ちゃんの母親が軸となり物語が動き出します。
ベビーボックスと聞いてまず私が思い浮かべたのは、熊本県にある慈恵病院のこうのとりのゆりかごでした。
慈恵病院では、2007年の開設からこれまで161人の赤ちゃんが預けられたそうです。そして同病院は、予期せぬ妊娠をした母親が病院の特定部署にだけ身元を明かして出産する「内密出産」の導入に踏み切りました。
世間では痛ましい子供の虐待事件や、一人で出産し、そのまま我が子を遺棄してしまう事件が絶えません。
「安易な育児放棄につながる」「子どもの出自を知る権利が奪われる」と批判もあったようですが、予期せぬ妊娠や貧困に悩む女性たちにとって、大切なセイフティーネットであることを新聞記事を通して知りました。
今回の映画の舞台である韓国にもベビーボックスがあります。2009年の設置以来、日本の約10倍以上の赤ちゃんが救われているそうです。
韓国と日本の違いは、その支援の対象です。日本はどちらかというと赤ちゃんの命を救うことを優先されますが、韓国では一貫して女性支援に重きを置かれています。
貧困や幼さゆえに子供を育てられないなど、様々な理由を持つ女性たち。映画では赤ちゃんの父親の影はあまりにも薄いです。現実で起こっていることもおそらくそうで、なぜか女性の自己責任ばかりが追求されます。妊娠は一人では絶対できないものなのに、妊娠、出産期を一人で乗り越えなければならない母親たちのことを思うと心が痛みます。
少子化を改善しようと色々と策を講じている政府ですが、今生まれている命に対してはどこか消極的に見えるのは私だけでしょうか?
先に紹介した西日本新聞の記事のタイトルは、劇中でも出てきます。
「捨てたんじゃない。守ったんだ。」
この言葉は、出産をした母親の自責の念を和らげ、生まれてきた赤ちゃんに対しても「あなたは守られた大切な存在」と、尊厳を守るものであると感じました。
どんな人も望まれて生まれてきたのだと思いたい。
生まれてくれてありがとう。
登場人物それぞれが家族に恵まれずに生きてきて、それでも血のつながらない他人同士が助け合い、想い合うこのセリフには、胸が熱くなりました。
映画の中には、ブローカーの男たちと母親を追う二人の女性刑事が出てきます。私はなぜかこの二人のうちの先輩に感情移入してしまいました。彼女は夫との間に子供がいない人として描かれていますが、最後には売られそうになっていた赤ちゃんを引き取って育てるんです。
赤ちゃんを産んで捨てる女性に対し複雑な感情を見せつつ、それでも殺人犯の子供を愛情豊かに育てる姿に共感しました。
是枝監督の作品は、血のつながりを超えた家族の形や愛があるということを、普遍的に伝えているような気がします。
また今回の作品では、あなたが産んだ命でも、社会のみんなが責任を持って育てていこうよ、みたいなメッセージが奥にあるのかなぁと感じました。
今回是枝監督が韓国の俳優さんやスタッフと仕事をしたことばかりが大きく取り上げられていましたが、それ以上に映画が持つメッセージ性がもっと注目されたらと思います。
久しぶりに映画館に足を運びました。そして非常に良い映画を見ることができてよかったです。機会があればもう一度見に行こうかなと思っています。
7月4日追記:noteから嬉しいお知らせが届きました!
そしてもう一個。