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戦争で日本は良いことをした 愛国者学園物語 第242話

第1回目の討論会から一週間後、

2回目の討論会の日

になった。「愛国砲弾」のスタジオでは、その周囲を右翼団体が取り囲み、拡声器で抗議の声をあげていた。だが、番組の制作者が、これから収録するので静かにして欲しいとの、メッセージをSNSに投稿すると静かになった。そう、彼らが大声で非難しているのは、美鈴と根津の組だ。それは彼らが美鈴たちを気に食わないからそうしているのだが、その言葉には暴力の匂いがした。現に、美鈴の殺害をほのめかして、逮捕された若者が2人いたぐらいだ。話し合いよりも暴力、冷静さよりも実力行使の時代になりつつあるのかもしれなかった。


今日はテーマが「戦争」

なので、対する強矢(すねや)たちは自分たちの得意な話題を話せるというので、士気も高かった。それで、司会のゴーサインが出ると、制限時間ギリギリまで話し続けた。一人が一度に話せるのは5分が限度なのだ。

そこで強矢たちは、大日本帝国による日露戦争のバルチック艦隊撃滅について話し、それが世界を沸かせたことを付け加えた。その話をする時の強矢は、うっとりとした表情になり、まるで愛しい人がスポーツかなにかで高得点を得た時のような高揚感が漂っていた。

美鈴はそんな彼女に

「強矢さんにとっては、旧日本軍は英雄なのね」

と冷たい声で言うと、

強矢は

「ええ、素晴らしい人たちですから」

と言って自己陶酔に浸った。それが美鈴の嫌味だということに気が付かずに。


強矢たちは続けた。大日本帝国による太平洋戦争は、

結果として、欧米の植民地支配に終止符を打った。

特に東南アジア諸国がそうだ。そして、それは世界に日本人の偉大さを見せつけた。

戦争の結果だけではない。日本には優れた軍事技術があった。戦艦大和にゼロ戦、世界最大級の潜水艦・伊号潜水艦……。それは、小型の偵察機を3機運用出来る潜水空母とでも呼べる潜水艦だった。戦後、米国はそれを徹底的に調べた後でハワイ近海に沈めたが、その理由はソ連に伊号潜水艦を利用させないためだった。このエピソードは、いかにその潜水艦が優れていたかを物語っている……。


美鈴はそれを聞き終わってから、あなた方が「優れた」を繰り返すので、聞き飽きましたと言って、吉沢を怒らせた。彼は

「日本は優れているんだ、昔も今も! 偉大な祖国だ!」

と叫んでから、拳で机を叩いた。


美鈴は言った。

「ではなぜ世界一の戦闘機であったはずのゼロ戦が、大戦末期には見るも無惨に無力だったのかしら。

なぜ1万機も作られたのに、日本はB-29の爆撃から祖国を守れなかったのかしら。

1万機ですよ、1万機! 大変な数だけど、それでも間に合わなかったのかしら。あなた方は零戦の欠陥を知らないわけではないでしょうに?」

美鈴は付け加えた。零戦には安全装備がなく、敵に撃たれるとすぐに炎上したこと。安全装備は太平洋戦争後期にも

ろくに装備されなかったこと。米軍は軽快な零戦に対抗する戦闘術を編み出していたこと。またVT信管と呼ばれる、飛行機に近づいただけで爆発する信管を使用したことにより、多数の零戦が撃墜されたこと。それらにより、零戦の優位は崩れたこと、など。

「零戦はB-29の編隊を撃墜したぞ。知らないのか?」

吉沢が弁護した。

「零戦は日本に飛来したB-29のうち、3割を撃墜したらしいことは知っています。でも、7割を逃したのです」

「君は知らんだろうが、紫電改(シデンカイ)とか雷電はああいう飛行機の撃墜を目的に製造されたのだ」

「でも、東京大空襲も、広島も長崎も防げませんでしたね。零戦があってもです」

「そんなのは卑劣な米英のせいです。彼らは卑劣な手段で大日本帝国を破壊したのです」

強矢が割って入った。

続く
これは小説です。

次回第243話 太平洋戦争では多くの犠牲が出ました。強矢たち、美鈴たちはそれぞれ、その犠牲の意味を考えます。そして美鈴が口にした言葉とは? 次回もお楽しみに!

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