【インタビュー前編】「あなたの字は絶滅危惧種なんだよ!」【恵美さん】
家にある硯は良い品なのかなぁ?
書道教室に通いたいんだけど、どこにしよう?
書道の先生って、何を考えながら指導してるの?
そんな疑問をお持ちの方も、そうでない方も、大変お待たせしました!
SNS、ブログ、ポッドキャスト等で大活躍、御著書の『書くと心が洗われる 美文字レッスン帳』も大絶賛発売中の恵美さんがご登場!
2021年2月、ZOOM上でインタビューが奇跡的に大実現したよ!
激アツ最新硯ニュースから、書道教育に込める想い&将来挑戦したいことまで、縦横無尽に伺いました!!
前編となる今回は、①最新硯ニュースと②恵美流指導術についてです。
※本記事の題字及びイラストは、恵美さんが書いてくださいました。この場を借りて、御礼申し上げます。
※後編も完成しました!ぜひ!!
「【インタビュー後編】『わたしを束ねないで』【恵美さん】」
※恵美さんのイベントにもお邪魔しました!ぜひ!!
「【体験レポート】初めて書道の先生に習ったよ! 」
恵美さん基本情報
東京都出身
「仮想ひらがな選考委員長。書き順フェチ。硯コレクター。縦書きにする会代表。」(Twitter: @emiemi815books より)
Instagram(yogai888emi) (取り消し線がついてますが、誤表記です)
※通信講座およびお教室のお問い合わせは、メール( emiemi88888888@gmail.com )にてお願いします 。お月謝についても、お気軽にお尋ね下さい。
「使ってあげないと可愛そうですね」
ー恵美さんは「硯マニア」として、とても有名ですね。そこで身の回りで起きた、最新硯ニュースをまずは教えて下さい。
はい!最近、知り合いに「硯を見て欲しい」って言われることが多いんです。ご家族が亡くなって、そのご遺品の中に硯があったんでしょうね。
遺族の方は、その硯がどういった品なのか知りたいと思われて。それて私に声をかけていただいて、拝見させていただくことが何度かあったんですよ。
ーそこでどういった硯に出会ったんですか?
見せていただいた硯の多くが、端渓(たんけい)という石を使って、雲龍彫(うんりゅうぼり)っていう派手な彫刻が施されているものだったのです。
「どこでこの硯を買われたんですか」って聞くと、ほとんどの方が1972年の日中国交正常化を記念して中国を旅行した時に手に入れたそうなんですよ。
硯って1個3万円位するし結構大きくて重いのに、「老後の趣味で書道を始めてみるか」と一念発起されたみたいで。
ーみなさんが同時期に似たような硯を購入していたんですね。面白い!
すごい偶然ですよね!そのお話を聞かせてもらって、私の中の中国に対する期待値がすごく上がったんです。
ーどうしてですか?
だって、今まで書道に縁もゆかりも無かった人に「書道を始めてみたい」と思わせるのみならず、「重くてもいいから、硯を買いたい!」と思わせる国って、どんなところなんだろうって。
私はまだ中国に一度も行ったことないんですけど、いつか足を運んでみたいな。
ー中国には、僕らの知らない魅力がまだまだありそうですね!
それと、もう一つ感じたことがあるんです。
ーどんなことですか?
硯を見せてくださった方が、「この石は良い石なんですか?」ってよく訊かれるんです。
その時に「はい。とっても良い石ですよ。端渓という石でできていて、硯の王様です。」と私が答えると、「そんなに良い石なら、使ってあげないと可愛そうですね」って仰る方が多いんです。
この言葉を耳にして、「本質を突いた良い言葉だなぁ…」って。
ーどういうことでしょうか??
「使ってあげないと可愛そうですね」っていう言葉には、3つの敬意が込められていると感じたのです。
まずは、石ないしは硯に対する敬意。私、物を人のように扱う表現が多いという点で、日本語は特異だと思うんです。「使ってあげないと可愛そうですね」という言葉の中にも、硯を単なる石以上の存在として扱う心が感じ取れるんですよね。
次に、職人さんに対する敬意も込められているのかなと。硯一つとっても、「墨を磨る」という本来の用途のために、職人さんがものすごい年月をかけて凄まじい工夫を重ねてきたわけです。
硯を本来の用途で正しく使うことで、昔日の職人さん達の努力に敬意を払うことになるのではないか、と思っています。
最後に、その硯をずっと保存していた故人への敬意ですね。故人が大切にしていた硯をゴミとして処分するのではなく、これからも大切にしていきたいという思いが「使ってあげないと可愛そうですね」に込められているのではないでしょうか。
これらの敬意が、「使ってあげないと可愛そうですね」に含まれていると感じられて、「いい言葉だなぁ」としみじみ思ったわけです。
ー日常の些細な言葉の内から、深い意味を感じ取られている点が、すごく恵美さんらしいと思います!
ちなみに、恵美さんは紙粘土で硯を作っていましたね。あの硯の本来の用途は何ですか?墨は磨れないと思うのですが…。
もちろん墨は磨れませんよ!あの紙粘土硯の本来の用途は、「製作すること自体」です。
ー何をおっしゃっているのですか?
※マニアフェスタに出展されている※むらたぬきさんが、狸を紙粘土で作られていたことに影響を受けて作ったんです。
「私も硯を紙粘土で作って愛情を示そう」と思って!だからあの紙粘土硯は「こねて固めて色塗って、ニス塗って車輪付けて、愛情を示すこと」が本来の用途なんですよ!
マニアフェスタ
合同会社別視点が開催している展示即売イベント。ニコニコ超会議内で開催される「マニアフェスタ Vol.7」が、2023年4月29、30日(土、日)に幕張メッセで行われる。
公式HP:https://maniafesta.jp/
Twitter: @maniafesta55
ーほあ。ではあの紙粘土硯は、本来の役目を終えて土に還ったんですか?
紙粘土が土に還るわけないじゃないですか!今は私の机に置いてあって、心が荒んだ時にコロコロして癒やされています❤(ӦvӦ。)
ー心温まるなあ!
「学びたい人に、常に門は開かれていないといけない」
ー次に恵美さんが講師をされている、書道教室について教えてもらえますか?
現在、会議室等を借りて行う対面形式と、通信講座でお教室を開講しています。対面形式のお教室に通われている生徒さんの数は、80名弱です。年齢的には小学4年生から、上は85歳の方がいらっしゃいますよ。
ー開講の日時は、どのくらいなんでしょうか?
お教室の時間は11時から13時です。新型コロナが流行る前は、毎週日曜日と、月1で木曜日と金曜日に開講していました。でも今は日曜日2回と木曜日1回の、月3回くらいに絞っています。
また以前は、一度に8人の生徒さんにいらしてもらえたのですが、距離を保つために現在では4人までに制限させてもらっている状況です。
ーそれでは、教室に入れない生徒さんもいるんじゃないですか?
残念ながら、そうなんです。私のお教室では参加日を事前に予約してもらっているのですが、キャンセル待ちの方がどうしても出てしまいます。
そこで私のお教室では、1人でもキャンセル待ちの方が出たら、その日の別の時間に場所を確保して、再度お教室を開講しています。なぜかというと、私の運営方針は「学びたい人に、常に門は開かれていないといけない」だからです。
正直なところ、場所代を払ったら赤字になってしまう日もあります…。それでも、「学びたい人に門を閉ざしてしまうこと」への罪悪感が強いので、開けているのです。
ー「学びたい人に学んでもらいたい」という熱い気持ちが、教室運営に反映されているんですね!「恵美さんの指導を受けてみたい!」という方は、どうしたらよいのでしょうか?
まずはメール( emiemi88888888@gmail.com )にてご連絡いただけたらと思います。
また、ご興味を持ってくださった方には「道具を新しく買わないでください」と、必ずお伝えしています。既にお持ちの道具で十分に字の練習ができますので。
それに、道具を揃えて満足してしまうのを避けたいことも理由です。まずは、「続ける準備」だけしていただけたらと思います。
恵美流指導術①:できること8割できないこと2割
ー恵美さんがお教室で指導する際に、心がけていることを教えてください。
一番意識していることは、「できること8割できないこと2割」。
例えば、生徒さんが全部で10画の字を書いたとします。その10画の内、7画に指摘すべき点があったとしましょう。その場合は7画全部じゃなくて、最も効果が大きい2画だけを指摘しています。
最も効果が大きいというのは、「そこを直せば、字全体のバランスが途端に改善される」という意味です。あと、「そこを直せば、他の修正点に生徒さん自身で気づける」という点も指摘するようにしています。
ーどうして指摘するポイントを絞るんですか?
まず、一度にたくさん指摘すると、生徒さんの自信がなくなって、やる気も下がると思うからです。「7画全部気をつけよう!」と言われるより、「この2画だけ頑張ってみようよ!」って言われた方が、みなさんもやる気になるのではないですか。
それに他の修正点に自分で気づけると、生徒さんも嬉しいと思うんですよ。私に「よく自分で気づけたね!えらい!!」って褒められたりして。嬉しくなって楽しくなって、「もっと文字を書きたい!」と思ってもらえるわけです。
恵美流指導術②:「進歩を認める」
指導する時に気を付けていることの2つ目は、「進歩を認める」ことです。というのも、どんなに字が上手く書けても、それだけでは不十分だから。
現状に留まらず、進歩を続けることこそが、褒めるに値すると思うんですよ。
このように考える背景には、小学校時代から通っている書道教室のご指導があります。そこでは1日の最後に書いた字に、先生が「よくできました」等のハンコを押してくれるんです。
そのハンコの最上級が、「進歩を認める」。
当時は子供でしたし、一番良いハンコをもらいたくて「今日1日で、自分はどれだけ進歩できるだろうか」をモットーに一生懸命、字を練習していました。
ーなるほど。恵美さんの幼少時代の経験に根ざした指導術なんですね。
あと、この「進歩を認める」を特に意識するようになった経緯もお話します。
私の教室に通ってくれる生徒さんには、みんな楽しい気持ちで帰ってもらいたいと常々思っているんです。
でも、いつも落ち込んで帰る生徒さんがいて…。「今日も先生にたくさん直されちゃったなぁ…」等と、思ってしまっていたみたいなんです…。
そこで、「どうしたらその子にも、楽しく帰ってもらえるか」を考えたんです。
ーどうしたら良いのでしょうか?
「あなたは進歩していますよ」と、ハッキリ伝えること。このことが一番大事だと考え至りました。
進歩って、自分ではなかなか気づきにくいものなので。十分にこのことを伝えていなかったのは、指導者である私の言葉不足でした…。
今では、「こんなに速く書けるようになったね!」とか「 何も見なくても綺麗に書けるようになったね!」のように、一人ひとりの進歩を言葉にして何度でも伝えるようにしています。
「くどいなぁ」とか「しつこいなぁ」と思われても良いんです!
それと、「この字のどこに進歩があるかな」と考えるようになってから、生徒さんの字に対する見方も変化したんです。
ーどういった変化ですか?
それまでは自分の中にあるセオリーに当てはめて、字を見ていたんです。
ーセオリー?
綺麗な字の書き方って何百通りもあるんですけど、その中でも自分の好きな書き方っていうのがあるんです。従来はその好きな書き方の範囲でしか、字を見ていなかったきらいがあります。
でも今では、生徒さんの字のバランスを活かすために、「もしかしたら、自分のセオリー以外の書き方の方が、字をより綺麗にできるのではないか」と、必要に応じてセオリーを疑うようになりました。
それに「生徒さんに最短距離で字を上手くなって
ほしい」とも思っているので、私のセオリーで指導すると却って遠回りになる場合は、柔軟に考えるようにしていますよ。
恵美流指導術③:「あなたの字は絶滅危惧種なんだよ!」
「生徒さんの字のバランスを活かす」につながるんですけど、「その人の字そのものが、そのまま向上する」ようにも気をつけて指導しています。
ー※少年Bさんとのラジオでもおっしゃってましたね!
そうなんです!背景には、「1人1人の字が絶滅危惧種なんだ」という思いがありまして。
気づいていないかもですけど、少なくとも義務教育を受けた人は、全員が字を書くプロなんですよ。
例えるなら、無免許だけど車が運転できるみたいな。つまり一人ひとりの字が持つバランス、というのが必ず存在するんです。生徒さんにもよく言います。「あなたが絶滅危惧種であるように、あなたの字も言葉も絶滅危惧種なんだよ」って。
だから、お手本の真似をゴールにすることは、絶対にありません。
だって、いざ結婚式に行って芳名帳に名前を書く時に、罫線が引かれていたり、お手本が用意されていますか?絶対にないでしょ!
だから、「お手本がなくても自分の字で綺麗に書けるようになる」ことが大切なのです。
ー実際に字を書く場面に即した指導をされているんですね!ではお手本を見ながら書くことは、一切しないんですか?
もちろん最初のうちは、お手本を見ながら書くという指導もしますよ。けど見ながら書けるようになったら、お手本を取り上げて、何も見ずに書いてもらいます。書けたら、生徒さんに自分が書いた字をセルフチェックしてもらうんです。
その時、私からどんどん質問を投げかけて、生徒さんに考えてもらっています。
例えば「この辺、ちょっとバランスが良くないと思うんだけど、どうしたらいい?」とか「この字のチェックポイントって何だっけ?」みたいに。
そんな感じでやっているから、2時間後には全員ヘトヘトみたいですよ!
ー一人ひとりに丁寧に指導していると、恵美さんも疲労困憊になりそうですね。
疲れている暇なんてないです!お教室が終わった後、生徒さん一人ひとりの特徴を忘れないように情報をファイルにまとめてまして!
ーそうか!どういった情報をまとめているんですか?
「進歩した点」、「苦手な点」とか、毎回必ず一つは出している「宿題」等です。お教室が終わってからファイルをまとめていると、大体夜になっているんですよ!(笑)
その人の字がそのまま向上する
前編では恵美さんに①最新硯ニュースと、②恵美流指導術について伺いました。
後編では、①書道教育に込めた思いと、②今後挑戦したいことについてお話を聞く予定です。恵美さんが生涯で一番愛する詩も紹介予定!
※後編が完成しました!
「【インタビュー後編】『わたしを束ねないで』【恵美さん】」
なお、恵美さんの通信講座およびお教室のお問い合わせはメール( emiemi88888888@gmail.com )にてお願いいたします 。
恵美さんのイベントにもお邪魔しました!ぜひ!!
「【体験レポート】初めて書道の先生に習ったよ! 」