ワト舎フリーペーパー第0号/ 作家さんとお手紙交換
個展に際して、ワト舎店主ジェローム・シャントルウから岩田さんへ、
岩田さんからジェロームへ、お互いに気になることを質問し合ってみました。
ジェローム・シャントルウ → 岩田圭音さん
Q: ブローチと原板のセットという珍しい形の岩田さんの作品に至るまでの経緯は?
原板であるブローチを使って版画を多くても二、三枚しか刷らないという贅沢な作品は素晴らしいです。
僕だったら何枚も何枚も刷りたくなってしまいそうですが、岩田さんはどうやってそれを我慢できますか?
A: 作品作りの契機となったのは、ヨーロッパのアンティークブローチです。文様ではなく絵画的な女性の肖像画が、小さな装身具になっていることに感動しました。
「絵」を装身具にしてみたいという思いから、好きで学んでいた銅版画の技術を応用して、真鍮にエッチングを施し、ブローチに仕立ててみたのが始まりです。
とはいえ、銅版画とは異なるので、原版ブローチと版画をセットで展示できるようになるまで、3年以上かかりました。
私の作品は、原版ブローチあっての版画作品だと思うので、敢えて数枚しか刷っていません。
ブローチに加工する作業に思いのほか時間がかかるので、たくさん刷りたくても刷っている時間がない!…ということもあります(笑。
Q: フランスの文化や文学に興味を持ったきっかけは何ですか?
岩田さんにとってのフランス文学の魅力とは?
A: 「レ・ミゼラブル」の児童文学版・「ああ無情」が、私のフランス文学の最初の記憶です。小学生の時、ちょっと厚めの文字ばかりの本を読み、図書館で泣いてしまった自分に驚きました(笑。
そして、「ビクトル・ユゴーって、すごいな!」と、素直に感動しました。そこから何となくフランスの小説に好印象をもって、読んでいたのだと思います。
美術も文学も、私はヨーロッパのものが好きなので、単純にフランスに憧れがあるのかもしれません。
Q: 原板であるブローチの図柄と版画の図柄、どちらが鏡の中の世界?
A: 通常の版画作品だと、「鏡の中の世界」は原版だと思いますが私の作品は原版ブローチが主役なので、版画が「鏡の中の世界」になると思います。
岩田圭音さん → ジェローム・シャントルウ
Q: 「ピカビア」というと、画家であり詩人であったフランシス・ピカビアの名前が浮かびます。ジェロームさんの「ピカビア」は、フランシス・
ピカビアと関係がありますか?
A: 関係ないと言えば関係ないですが、勝手に彼の名前を借りた
以上、関係ができてしまいましたね。
一本線で人の顔を描いてみた時に出来たのがこの不審者。その時にピカビアの名前が浮かんだのはなぜだろう?ダダイスムの時代に憧れがありながら、今までフランシス・ピカビアを特別に意識したことはありませんでした。彼の名前がたまたま僕の頭に浮かんだことは彼からのメッセージだったのかもしれません。
Q: DMに「書画」とあります。ジェロームさんの作品には、よく篆刻のような印が押されていますね。きっと日本の「書」を意識されているのではないかと思いますが、ジェロームさんにとって「書」の魅力とはどのようなものでしょう?
A: 平凡な日本好きな外国人らしく、やっぱりはんこが好き、日本語の文字が好きです。僕自身はとてもおとなしい人間ですが、ピカビアはおしゃべりなので、今回の作品はどっちかと言えば絵でもなければ書とも言えない、ただの愚者の自己満足の作文と言った方が正しいかもしれません。
Q: ピカビアからは離れますが、ジェロームさんの好きな作家は誰ですか(文学でもアートでもその他の分野でも)?
A: この歳になって、若いときのことをよく思い出します。そのせいだと思いますが、岩田さんの質問を読んで最初に頭に浮かんだのは:当時とても貴重だった100フラン札に書かれていたドラクロワ、学生の時に読んでいたブローティガンの文庫本の表紙に載ってたエドワード・ホッパー...
学生の時に喜多川歌麿の美人画の復刻版を買ったのはドラクロワ10枚分の1000フラン超え。踏ん張った高い買い物でした!しかし今は歌川国芳の方が好きです。
その他の日本人のアーティストで言えば、僕がまだ携帯電話を持ってた時にずっと待ち受け画面にしていた福田平八郎の瓦や竹の絵が好きです。