公務員の特別待遇 ―なぜ公務員犯罪は守られるのか― 前編
前編 「処分の実情」
2023年。希望と不安が混在した新年を迎え1ヶ月が経とうとした1月30日、ある女性にとって新たな戦いが始まった。陸上自衛隊勤務中に性暴力被害を受け、告発した五ノ井里奈さんが、国と加害者の元隊員5人を相手取り、損害賠償を求める訴訟を起こしたのである。
提訴した当日、五ノ井さんは自身のTwitterで今回の訴訟について報告している。Twitterでは、全く彼女と関係のない他人たちが、五ノ井さんがある政党と結託しているなどと関係のない写真をそれらしく掲載し、混乱させていた。
しかし、コメントの多くは彼女の勇気ある行動を称賛する応援の声である。それはそうだ。五ノ井さんは苦しんだ結果、自ら命を殺める寸前までに追い込まれたにも関わらず、加害した相手たちは、謝罪と懲戒免職で事なきを得ている。いくら国家公務員法や地方公務員法で定められているとはいえ、懲戒処分だけで済むのはどう考えても不公平ではないか。
日本では、公務員の処罰は刑事訴追よりも懲戒処分になることが多く、懲戒免職でも退職金が出る場合がある。また、犯罪を犯した公務員の名前は、その家族や地域社会に恥や不名誉を与えないよう、マスメディアでは大概報道されない。
これは、一般市民が犯罪を犯した場合は軽微な犯罪であっても犯罪内容や実名が報道され、その上で刑事訴追を受けることとは対照的な扱いである。
公務員が犯罪行為に関連した事例
先述した自衛隊員の事件の他にも、公務員の犯罪は数えきれないほど存在し、多くの場合が懲戒処分となっている。ここ数年間に起こり、世の中に出ているだけでも数百件とあるのだから、実際の数字は言い知れない。ここでは例として、以下の4件を挙げる。
千葉県教委、教員ら6人に懲戒処分 性的不祥事、今年度既に12件
-2021年2月
千葉県教育委員会は、教員ら6人の懲戒処分を発表した。このうち県立高校の教諭は、校内で生徒1人にわいせつな行為をしたとして懲戒免職処分。
元警察官に二審も死刑判決 福岡の母子3人殺害、無罪主張退ける
-2021年9月
福岡県で2017年、妻と2人の子どもを殺害したとして殺人罪に問われた元福岡県警巡査部長の控訴審で、福岡高裁は死刑を言い渡した一審・福岡地裁での裁判員裁判の判決を支持し、弁護側の控訴を棄却した。量刑について高裁は、「3人を殺害した結果は誠に重大。死刑選択はやむを得ない」と述べた。被告は起訴後に懲戒免職処分を受けている。
「特定秘密」初の漏えい疑い、1佐ら捜査 防衛省が懲戒へ
-2022年12月
海上自衛隊1等海佐が特定秘密保護法で定められた「特定秘密」を外部に故意に漏えいした疑いが発覚し、自衛隊の捜査機関である警務隊が同法違反容疑で捜査。海上自衛隊の1等海佐は懲戒免職の処分を受け、特定秘密保護法違反などの疑いで書類送検されている。
違反行為、次々発覚 勾留男性死亡、4日で1カ月―署員らの立件視野・愛知県警
-2023年1月
愛知県の留置場の保護室で勾留されていた男性が長時間、拘束されるなどしたあと死亡した問題。県警が内規で定める必要最低限での戒具の使用時間を大幅に超え、連続110時間の装着や、署員が男性を足で転がしたり引きずったりする様子が監視カメラにより明らかになっている。また、男性には持病があることを把握しながらも、投薬や専用の医療施設への移送を怠った。現在、県警は立件も視野に入れ、調査を進めている。
懲戒処分が重視される背景
今回、100件以上の公務員関連の事件から抜粋した以上の4件は、特に近年の社会のムードを表している。それら4件の事件から、公務員の犯罪時に特別待遇が施される背景を考えてみる。
教職員や県職員によるわいせつ、セクハラなど、比較的軽微な性犯罪が後を絶たない。2023年に入ってまだ3カ月にも満たないが、ネット上で検索するだけでも、痴漢や女子高生にキスをするなど、日本全国の最近の事件がこれでもかと出てくる。中には複数回逮捕されている教職員もいるのだが、処分内容が出てこない。盗撮や痴漢は略式起訴の対象であり、逮捕されても罰金を支払うことで実刑は免れる。
福岡県の元巡査部長による母子殺害事件に関しては、顔写真と実名も公開されている。さすがに、現職警官(当時)による自らの家族3人を殺害という残虐な犯罪では、懲戒処分や10年やそこらの実刑とはいかない。しかも皮肉なことにこの元巡査部長は、冤罪を訴えていたというから、警察側としても早急に証拠を揃えたかったのは容易に想像できる。
海上自衛隊による漏えい問題は、まだ数カ月ほど前のことなので進展が見られないが、今のところマスメディアによって実名は報道されていない。特定秘密保護法では、「特定秘密」を漏えいした公務員らに対し、最高で懲役10年、漏えいを誘導した者にも5年以下の懲役が科される。初の漏えい事件である今回を機に相当の処分がなされなければ、法の存在意義や自衛隊の体質が見直されることは困難である。
警察官の犯罪は性犯罪も多いが、警察内部での同僚や部下または被疑者への暴行や嫌がらせなど、集団で個人の人権を大きく無視したケースが目立つ。自身より身分が低い立場と認識した相手には、躾の範囲内と主張し弱者いじめを行ってきた古くからの体質が問題である。
この記事では、あえて公務員の被疑者の実名を記述することは控えている。しかし、実際のニュースでは、懲戒処分と略式命令での罰金刑で罪を償っているケースがほとんどであり、実名を公開していない。
一方で、同様の罪を犯した一般人が実名や顔の公開をされるのは、懲戒処分の代替えの罰なのだろうか。公務員の犯罪に対しては、刑事司法制度による処罰よりも、組織内での責任追及に重点が置かれるということは、和を保ち、世間に恥をかかせないことを重視する日本の文化が、行政措置に及んでいると言えよう。
(後編へ続く)
こちらの記事は、本文中のリンクの他に下記のリンク元を参考にしております。
NetIB-NEWS【小郡母子殺害事件】説得力を欠いた元警官の冤罪主張~裁判傍聴記
NEWS ONE 葛藤綴られる…警察署の留置場で死亡した男性 父親も知らなかった『メモ』存在明らかに 警察対応の問題点は
読者の皆さまへ
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。あなたの「スキ」とフォローをいただけましたら、投稿の励みになります!
私たち【Japan's Elephant in the Room】のTwitter @JerProjectでは、不祥事のみならず、もっと短く(当然ですが)、さまざまな事について呟いていたり絡ませていただいています。こちらもフォローで応援よろしくお願いします。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?