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U字型投資モデル
1. はじめに:50年前から伝わる「成長株投資の極意」
50年前、ある伝説的な投資家が、成長株投資の極意を説いた著書を世に出しました。その中で、彼は 「U字投資法」 と呼ばれる、成長株を最も安く買うための投資法について解説しています。
驚くべきことに、半世紀以上経った今でも、この投資法は色褪せることなく、現代の市場でも十分に通用する普遍的な真理を示しています。しかし、多くの投資家は、目先の利益に囚われ、この教えを無視し、高値掴みの罠にはまってしまいます。
本記事では、この「U字投資法」を、現代の投資環境に合わせて分かりやすく解説します。特に、アップルやサムスン電子などの具体的な事例を挙げながら、この投資法の有効性を検証していきます。
2. なぜ、今「U字投資法」が注目されるのか?:過熱する市場が生む歪み
近年、AI、電気自動車(EV)、メタバースなど、将来有望とされる成長分野に資金が集中し、関連銘柄の株価が急騰するケースが頻繁に見られます。しかし、これらの銘柄の多くは、赤字経営であったり、売上規模に対して株価が過大評価されていたりする場合が少なくありません。
投資家は、産業の将来性にばかり目を奪われ、「赤字であること」「売上が少ないこと」 といった事実を軽視し、熱狂的に資金を投じてしまいます。株価が上がれば上がるほど、「自分の判断は正しかった」と過信し、さらに投資を加速させる… まさに 「ユーフォリア(陶酔)」 とも呼べる状態です。
しかし、このような熱狂はいつまでも続きません。市場の関心が薄れたり、外部環境の変化によって、株価は急落します。事業の将来性とは無関係に、投資家の熱狂と失望によって、株価は乱高下を繰り返すのです。
「U字投資法」は、このような市場の歪みを利用し、成長株を安値で仕込むための投資法です。
3. アップル株で実証!「U字投資法」の威力
「U字投資法」の有効性を、アップル株の歴史を振り返りながら検証してみましょう。
3-1. 1980年代:上場、そしてジョブズ解雇…激動の時代
1981年:アップルコンピュータとして上場。当時の株価は0.26ドル。
1982年:株価は0.05ドルまで下落。わずか1年で3分の1以下に。
1983年:株価は0.28ドルまで回復。(1年で約5倍)
1984年:マッキントッシュを発表。
1985年:スティーブ・ジョブズ解雇。株価は再び0.07ドルまで下落。
教訓:革新的な製品を発表しても、市場が評価するとは限らない。「先見の明」がありすぎても、投資で成功できるわけではない。
3-2. 1990年代:iMacの成功とドットコムバブル崩壊
1998年:iMacがヒットし、同年末の株価は0.38ドル。
2000年:ドットコムバブルで株価は1.34ドルまで上昇。しかし、バブル崩壊により、年末には0.27ドルまで急落。
教訓:1998年末の株価は、10年前とほとんど変わらず。外部環境によって、株価は大きく変動する。
3-3. 2000年代:iPod、iPhone… 飛躍の10年
2001年~2007年:iPodやiTunesのヒット、iPhoneの発表により、株価は急上昇。2007年末には7.2ドルに到達。(2001年比で約26倍)
2008年:リーマンショックによる世界的な金融危機。株価は年末に2.8ドルまで下落。
教訓:スマートフォン時代の幕開けという、大きな成長機会の前でさえ、外部環境の悪化によって株価は大きく下落する。
3-4. 2010年代以降:市場の評価が一変、そしてウォーレン・バフェットの参入
2009年:株価は2.8ドルでスタート。
2011年:スティーブ・ジョブズ死去。
2012年:株価は25ドル到達。(2009年比で約9倍)
2013年:株価は一時14ドルまで下落。
2015年:株価は34ドルまで上昇。
2016年:米国の利上げ懸念で株価下落。
2019年:米中貿易摩擦の影響で、株価は36ドルに。この時点で、PER(株価収益率)はわずか12倍。
2021年:株価は148ドルまで上昇。PERは42倍に。
2016年~2019年:ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイが、アップル株を大量に取得。
教訓:バフェットは、「U字」の底、つまりPERが最も低い水準で、アップル株への投資を開始した。これは、「U字投資法」を提唱したベンジャミン・グレアム(バフェットの師)の教えを忠実に実践した結果と言える。
4. サムスン電子に見る「U字」の軌跡
アップルと同様に、サムスン電子の株価も、過去数十年間で大きな「U字」を描いてきました。
1993年:株価は302ウォン(現在の株価基準に調整後)。
1995年:2年で株価は7倍以上の2283ウォンに。
1997年:アジア通貨危機で株価は630ウォンまで下落。(2年で約72%下落)
2000年:ドットコムバブルで、株価は7800ウォンまで上昇。
2001年:バブル崩壊で、株価は2400ウォンまで急落。(1年で約70%下落)
2004年:株価は1万2760ウォンまで回復。(3年で約5倍)
2008年:リーマンショックで株価は再び大きく下落。
注目すべきは、1997年、2001年、2008年といった、世界的な経済危機や市場の混乱期に、サムスン電子の株価は大きく下落している点です。しかし、これらの危機は、長期的な視点で見れば、絶好の「買い場」であったと言えます。
5. U字投資法:3つのフェーズを理解する
「U字投資法」では、株価の変動を以下の3つのフェーズに分けて考えます。
第1フェーズ:期待と熱狂
新興産業や革新的な技術への期待から、投資家の注目が集まり、株価は急騰します。
多くの場合、企業は赤字経営であったり、売上規模に対して株価が割高であったりします。
PERは極めて高い水準まで上昇します。
第2フェーズ:失望と売り
市場の関心が薄れたり、外部環境が悪化したりすることで、株価は下落します。
企業は成長を続け、業績も安定しているにもかかわらず、株価は大きく下落するケースが多々あります。
PERは低い水準まで低下し、配当利回りは高くなります。
「U字」の底、つまり「買い場」はこのフェーズで訪れます。
第3フェーズ:再評価と上昇
企業の成長が市場に再評価され、株価は再び上昇に転じます。
企業は市場での独占的な地位を確立し、新規事業への進出など、さらなる成長への期待が高まります。
PERは再び高くなり、配当利回りは低下します。
「U字投資法」では、第2フェーズ、つまり「U」の底で投資することが推奨されます。
6. 10年に一度のチャンスを掴む:長期視点と忍耐力
「U字」の底で投資するためには、長期的な視点と忍耐力が必要です。
特定の銘柄に固執するのではなく、複数の有望なセクターや銘柄を常にウォッチし、それぞれの「U字」のタイミングを見極めることが重要です。
鉄鋼、自動車、化学、銀行など、あらゆるセクターが「U字」を描く可能性があります。1つのセクターや銘柄が「U」の底に到達するまでには、数年、場合によっては10年以上かかることもあります。
しかし、その「U」の底で投資することができれば、10年で10倍、生涯で3回の「U」を捉えることができれば、資産を1000倍にすることも、理論上は不可能ではありません。
「U字」の底で投資するためには、以下の3点が重要です。
有望なセクターや銘柄を事前にリサーチしておくこと。
市場のセンチメント(投資家心理)を冷静に分析すること。
十分な資金を準備し、「買い場」を逃さないこと。
7. 「U」の例外:テスラの急成長
「U字投資法」は多くの成長株に当てはまりますが、例外も存在します。その代表例がテスラです。
テスラは、上場後数年間は株価が低迷していましたが、その後、EV市場の拡大とともに、株価は「J字」を描くように急上昇しました。これは、テスラがEV市場において圧倒的な先行者利益を享受し、市場の期待を遥かに上回るスピードで成長を遂げたことが要因と考えられます。
しかし、このような「例外」に惑わされてはいけません。 テスラのような急成長は稀であり、「U字」を描くことなく上昇し続ける銘柄を見つけることは、至難の業です。
8. まとめ:賢明な投資家への道
「U字投資法」は、50年以上前に提唱された投資法ですが、現代の市場でも十分に通用する、普遍的な真理を示しています。
市場の熱狂に踊らされず、冷静に「U」の底を見極め、長期的な視点で投資する。
これこそが、「U字投資法」 の真髄であり、賢明な投資家への道と言えるでしょう。
本記事が、皆様の投資の成功への一助となることを心より願っております。