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4℃が好きだった
東京原宿のキャットストリートに突如あらわれた謎のジュエリーショップ、その名も『匿名宝飾店』
その正体は、『ヨンドシー 4℃』
販売員による接客もない。
買わなきゃいけないプレッシャーもない。
触って試着して撮影してもいい。
「映え」のためのフォトスペースもある。
最近はブランドとして目立つ感じではないなと思っていたが、こうして挑戦とも取れる大きな仕掛けをする。
もちろん賛否両論あるのだけれど、さすが大手ブランドらしく戦略的で、時代によく合っていると思った。
誤解がないよう先に書くけれども…
私は一個人として、4℃のジュエリーが大好きだった!
10代の頃は冴え冴えとしたデザインを見るだけで楽しくて、20代の初め頃は自分で自分に、バイト代をつぎ込んでいくつも買った。年相応に2万円くらいまでのシルバーばかりで18金にはまだ手が届かなかったが、当時の4℃は可愛いというよりクールで切れ味よくかっこいい印象だった。
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「好きだった」と過去形になってしまうのは単なる好みの問題で、やはり現行の細身のデザインは私には華奢すぎるし好みではない。もう積極的に買い集めることはしないだろう。
それでも、製品自体の作りやブランドの世界観を崩さないところ、店員さんがガツガツしていないところや、決して値引きやセールをしないところも信頼に繋がる大事な部分なので、好ましいと思っている。
ところが世間では(というか、SNSの世界では、と言うべきか)「プロポーズやクリスマスプレゼントに関する自分の価値観を語るためのネタ」として、4℃が引き合いに出されているようだ。
「若い子向けブランドを30代に贈るなんて、センスがちょっと…」
「中身が何であれ、気持ちがこもっていればOKでしょ?」
「ティファニーのオープンハートと4℃だけは無し!」
「王道のブランドを選ぶなんて、逆にダサすぎる〜」
…といった感じに。
しかし、よくよく考えてみれば、良くも悪くも定期的にこれだけ話題に上るとは、たとえネタだとしても凄いことじゃないだろうか。
しかも、世界的ブランドのティファニーと並んだり比較されたりする日本発のジュエリーブランドなんて、そうそう他には思いつかない。
![](https://assets.st-note.com/img/1695520085246-B6ziev8pcT.jpg?width=1200)
私がジュエリーデザイン・制作の仕事を始めた頃、すでにバブル崩壊から10年以上が過ぎ、ジュエリーがなかなか売れない時代に突入していた。
そんな中でも、4℃は「売れていて勢いのある若いブランド」だった。
「どうせシルバーの安物のアクセサリー屋だろう、あんなのブランドじゃない」
「いい場所に出店してるから売れるってだけだろう?奇妙な名前をつけて、ウケ狙いだろうなぁ」
…と、年齢層高めの上司や取引先の人々はあからさまに批判的だったが、それは単なるやっかみにしか聞こえなくて、まだ年若い私は内心呆れ返っていた。
私はその頃、制作者としてまだまだ修行中。
有名ブランドの定番デザインを真似て作ってみたり雑誌の写真から立体の型を起こすなどして、自分なりに制作のトレーニングをしていた。
これは、いわば名画の模写をするのと同じ、今から思えばとても有効な練習方法だった。
仕事では18金やプラチナを扱っていたが、練習では安価なシルバーを使う。
実際に手を動かし作ってみて、個人的に美しいなと感じたのは、シルバージュエリーだと『ジョージジェンセン』や、スペインのブランド『ホアキンべラオ』の造形、それから『カルティエ』の動物など具象モチーフをリアル過ぎずジュエリーに落とし込むところも絶妙だと思った。
そんな中、ふと思いついて手持ちの4℃のシルバーリングを眺めながら、いくつかの型を実際に削って作ってみた。
すると、全体にバランスが良くどの角度からも美しく見えたり、シンプルでも安っぽく見えないような工夫がよく伝わってきた。
(あくまでも個人の感想です!)
経験を積んだ今でも、4℃はアリか無しかと訊かれれば私はアリだと答える。
製品は綺麗で仕上がりのバラつきなどもないようだし(そんなことはブランドなら当然だけれど)、仕事があまり丁寧でない職人の一点ものを買うくらいなら、4℃の量産ジュエリーを買ったほうが良いとさえ思う。
「あんなアクセサリー屋、たいしたことないよ」と決めつけていた周囲の大人たちの声よりも、自分で見て触れて感じたことを信じようと決めた、若き日の私。
『4℃』のブランド名は、そんな記憶を呼び起こしてくれる、今でも懐かしくて気分を上げてくれて心に響く、大好きな名前だ。
※このnoteは過去にShortNoteに投稿した記事に「匿名宝飾店」の情報を加えて加筆修正したものです。
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