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停電と蝋燭と私

『部屋とYシャツと私』みたいなタイトルになってしまった。わざとです。


学生で一人暮らしをしていた頃、その地域に台風が直撃し、約一週間の停電に見舞われた経験がある。
地域一帯の停電ではなく、住んでいたマンション付近で電柱がぽっきりと折れたため、ピンポイントで復旧に時間がかかったのだ。

お気楽で雑貨に囲まれた一人暮らしだったので、どうにでも対処できた。

停電だ、ロウソクつけなきゃ…
アロマキャンドルならある!でも非喫煙者だしライターを持ってないんだった。どうしよう、どうしよう。
…そうだ、ガスコンロが点くんだった!

そんな程度のノリだった。
歩いて10分のコンビニで買い物はできたし、シャワーも使えた。阪神淡路大震災のときとは違って、ライフラインはまだ繋がっている。テレビが見られないなら本を読めばいい。
一人だから、どうにでもできた。


夜、私の部屋の窓にぼんやりロウソクの明かりが灯るのを見て、隣のマンションに住む顔見知りの女子が困り果ててやってきた。
それまでは あまり一対一で話したことのない、学部の違う子だった。


「アロマキャンドルまだあるから持って帰っていいよ!せっかくだし、ちょっと上がっていく?」
「じゃあ、実はね、発泡酒とかジンもあるの。彼氏が来れなくなったから。持ってきていい?」
「あはは、ちょうどいいね!冷蔵庫にトマトあるから切るよ。モッツァレラチーズもさっきローソンで買ったの。」

そんなきっかけで、少しだけ距離が近くなった。

小さな子どもがいたり猛暑での大規模停電となれば、こんなにもお気楽ではいられないだろう。


それから数年後。2007年前後だったかな…
夏になると街のあちこちでキャンドルを大量に並べるイベントを見かけるようになった。
ネットで調べてみたら「100万人のキャンドルナイト」というものだった。

2011年には東日本大震災があり、その年の夏にもキャンドルナイトが行われていたが、職場や業界では一気に省エネと自粛ムード。ジュエリーは生活に直結しない贅沢品扱いなので、なおさら自粛ムードだった。

当時の私はデザインの他、店舗ブログや会社のコラムを担当していて、苦し紛れに、

昔、夜になるとロウソクやランプの灯りしかなかった頃、宝石も現代とは違った見え方をしていた。
マリー・アントワネットの時代には、アクアマリンは夜の照明で魅力的に輝くため、夜の女王と呼ばれ、夜会用のジュエリーに多く使われていた。

…なんていう話題を、こじつけのように、むりやり書いていた。

20歳頃のマリー・アントワネット
胸を飾るのはアクアマリンだろうか


古い時代の宝石こそ、ロウソクの灯りで楽しんでみたい。これは今でも思うことだ。
アンティークで見られるダイアモンドは、原石の形を活かしたり、面が少なく味わいのあるカットがなされている。「アンティークなんて雑な感じがするし光らないから好きじゃない」なんて言う人もいる。
でも、そんなことはない。

綺麗なものは本当によく輝いて迫力があるし、輝きよりも透明感が際立っているものもあって、現代のちょっと無個性なエンゲージリングよりも楽しい。
どんな時代の宝石も、その時代の灯りのもとで見るのが、きっと一番美しいのだ。


ロウソクの明かりを灯せば、思い出がよみがえる。
自分らしい思い出ばかりだけれど、幸い、大きな被害を受けずに済んできた。

でもこの先は…。
大雨はゲリラ豪雨となり、南海トラフ大地震の可能性もあるこの国で、子どもを複数抱えるようになった今…。
無事ではいられないかもしれない。
それでも、何が起きても自分を見失わず乗り越えたいと思っている。



参考サイト
100万人のキャンドルナイト
http://www.candle-night.org/jp/


※この記事は過去にShort Noteに投稿したものに加筆修正したものです。


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