Unlucky(抄・30首)
ある賞に応募して落選した50首連作より、抄出して再構成したものです。完全版はまたどこかで形にする予定です。
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Unlucky 丸田洋渡
遠雷がもっと遠くへ逃げていく嘘つきがいる新生児室
捻挫した子どもを囲む子どもたち柏葉あじさいの陰の奥に
行かないでその木陰には平成のバスガイドが三人もいるから
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夏の雲は自動的に流れて行ったすみれ色の果物籠の上
野薊が揺れる 未来で訪れるはずだった蝶がさっき死んだ
将棋将棋アイス将棋将棋将棋アイス なのに今普通に働いてるっていうね
母校への近道が無くなっている 肥大する満月の凹凸
珊瑚礁イン・マイ・ハート嫌なこと全部絡みついて離れない
お隣が殺人鬼ならどうしよう どうしよう どうしよう どうしよう
真っ白の紙が刷られて落ちてくる。私が何も打たなかったからだ。
麒麟より高いところにいる鴉 ここに麒麟は居ないというのに
生活が懸かっていると言っていい思いもよらなかった居眠りも
全員がイヤホンの車両の中でできる数少ない悪いこと
Mint Blue 恋愛は声変わりする Pale Blue 歌える歌が減る
ボーカルがベースの肩に触れるときドラムはたまらなく嫌だった
Unlucky 空き巣も夏の暑さには勝てずに買った アイス はずれ
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使用期限を過ぎている戦争兵器 Pupils 砂漠色のハート
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生活が生活でくもりはじめる重さで垂れてくる百日紅
銭湯はオオミズアオの色をして形をして路地裏に留まった
梨の季節の市民プールは何故かしら人が浮かびやすい気がするの
ボーリング場を住処とする虫がピンを登ることもあるだろう
何万人も踊ったホール(そのうちの数人を殺したシャンデリア)
椿原 心臓が透けて見えたら防げた/あるいは増えた殺人
戦闘機の煙のショーを首曲げて見上げて Happily Ever After
桃色の気球がのぼり点になる 帰りのドライブ 色を思い出す
明日は、今日と全く同じになる 複写紙にかけていく筆圧
思い立って買っていたうずらの卵生きるには理由などなくても
遅すぎる光が眼球に入る毒の小瓶の髑髏のマーク
しずかに、人は減っていく しずかに、雨になっていく亜昏迷の雪
砲台は雪が詰まってだめだった 野次馬は帰れ 雪の中帰れ
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