見出し画像

コナン好きの友達のこと。

 こないだ、職場で休憩中に雑談していたら、たまたま名探偵コナンの話になった。
 言わずと知れた国民的人気の長寿アニメだが、あれは実は私が中学生のときにアニメ放送が始まったのだ。懐かしいな、と思いながら、私は当時仲良しだったとある同級生のことを思い出した。

 彼女は、コナンが好きだった。仮にアイちゃん、とでも呼ぶことにする。アイちゃんとは小学校から中学まで同じで、仲が良かった。おっとりした性格で、背が高くて色白。運動神経はイマイチだったが、すごく頭が良かった。私と同じく漫画やアニメ、読書が好きで、同じく運動神経イマイチな私とは気が合った。
 アイちゃんには、二つ下の弟がいた。障害児でアイちゃんは「まーくん」と呼んでいた。同じ小学校に通っていて、アイちゃんは弟の面倒をよく見ていたように思う。
 そんな彼女の口癖は「わたし、高校出たら安定した公務員になって弟の面倒みるんだ。うち、お金ないから大学行けないよ、てお母さんに言われてるから」だった。
 数十年も前なのに私がはっきり覚えているくらいだから、いつも言っていたんだろうな、と思う。当時の私は「さすがアイちゃん、将来しっかり考えてるな」と単純に尊敬していた。

 ただ、自分が親になったいまなら分かる。

 アイちゃんの親は、ずっと呪いのようにそう言って諭していたんだろうな、と。
 なるべく健常者の娘を手元に置いて、アイちゃんが地元を離れないようにして、障害児の弟の面倒を、ずっと見させたかったに違いない。
 お金がない、とかも嘘だと思う。両親は公務員だったし、私の母に言わせれば「うちよりよっぽどお金ある家」らしい。田舎だから、人様の家の事情はわりと近所に筒抜けだ。

 アイちゃんは頭が良かったし、行こうと思えば大学にも行けただろう。けれど、アイちゃんは地元の公立進学高に行き、親が言うとおりにそこを卒業して県職員になった。
 私は地元から少し遠い私立高に進学したので、アイちゃんとはそれから疎遠になった。いま何をしているかは知らない。結婚してるのか子どもがいるのか、一人なのか、それすら知らない。実家にはいないようだが、弟の「まーくん」はアイちゃんの両親と今でも住んでるらしい。

 うちは、上の娘がASD(自閉スペクトラム)で障害児だ。下にはまだ幼い息子がいる。
 アイちゃんの親のやっていたことは、想像が当たっていればかなり気分が悪い。だが、似たような状況である自分に照らし合わせると、安易に責める気分にもなれなかった。

 アイちゃん自身はどうしたかったのかな、と今でも疑問に思う。
 遠くの大学に進学したり、もしくは都会に就職したりとか、ほんとうはそういう希望があったんだろうか。
 または、私の心配なんか大きなお世話で、地元にずっといて、弟の面倒を見て家族の近くにいるのが幸せだと思っていたかもしれない。

 真意は分からない。だかとりあえず、もしアイちゃんに会えたら、好きな漫画や本の話でまた盛り上がれたらいいな、と思った。

 アイちゃん、まだコナンが好きかな、とか考えながら、今夜も私はワインを呑んでいる。ただし、長生きしてなるべく子ども達といたいので、今夜は量を控えめにしようと思った。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?