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【創作帯付レコード Vol.4】星野源 / YELLOW DANCER

 個人的なプロジェクトとして、アナログレコードの帯を自分で新たにデザインする、創作帯活動をしています。レコード帯とはなんぞや?という方のために簡単に説明します。




レコード帯とは?


 レコード帯とは本来、レコード屋などでアルバムの特徴を説明する広報の補助媒体として1950年代後半からぐるりとタテに巻いて、アーティスト名やアルバム名、収録曲や特徴を説明するものとして付録されてきました。いかに買ってオトクかというのを、レコード会社の広報部デザイナーがレタリングに凝ったり、コピーにこだわったりと、四苦八苦して販売していた形跡が当時の雰囲気を伝える側面と、現代までそれが残されているものは逆にレコードの保存状態の高さを表すものとして、高いレアリティを有無側面もあり、国内だけでなく海外でも高い人気を誇っています。


創作帯:星野源 / YELLOW DANCER


「新たなJ-POPの担い手、星野源のクリヤーでつややかな知性と感性が結晶したはりつめたリリシズム!!」
斜めからのショット
ジャケット内側



レコードショップに並ばないレコードに帯はいるのか?


 第4回目に取り上げるのは、「星野源 / Yellow Dancer」。
 2015年にリリースされ、本作からは「SUN」「桜の森」など、ラジオからもよく流れるほど、これまでより世間に星野源の名前を知らしめるきっかけとなった作品となった。その後、翌年にLPとしてアナログ盤が追って発売となり、2019年に2枚組仕様でリイシューされた。

 その最新型である2019年リリースの2枚組レコードは、見開きジャケット仕様、歌詞カードとインナースリーブが付属。レコードは厚手の透明ビニール製の外袋に格納され、ジャケットの左上に三角形のステッカーが貼られた形でリリース。ステッカーには「重量盤・2枚組   星野源 Yellow Dancer (プラリサイクルマーク) VIJL-60198~9」と書かれ、金の地色で仕上げられている、シンプルで高級感が漂っている。私が買ったのはこのバージョン。

 近年のアナログ盤の新リリース時にこのあたりは作品によって適宜変えられていて、①帯もステッカーもなし ②シュリンクラップのみ ③帯付き ④シュリンクラップにステッカー ⑤帯付きに外袋+ステッカー など、様々なオプションで販売されている。
 昭和のレコードショップや、中古レコード屋のような腰くらいの高さの棚にズラリとレコードが並んだ陳列だと、帯は1枚ずつ捲っていくうえで、誰のどんなアルバムかがわかりやすいのでその役目を果たしていた。
 しかし現在のような、ネット通販が大半を占めて、陳列での目立ちやすさよりも、配送時のつぶれにくさなどの利点から見れば、帯なんてあっても傷ついたり折れやすいし、商品ページに掲載されもしないので何のメリットもない。むしろ帯巻きは最後の工程になるので、シュリンクもされず、ジャケットが傷つく恐れすらある。

 なのに、近作の新作・リイシューものなどふくめて帯付というのは、一定の層からの支持があり、効率からの淘汰の対象となってさえいない。ある程度のニーズを集めてさえいる。現代においても。

 そこに帯の面白みがあると感じている。

星野源とカンタベリー・ミュージックをつなぐもの


 今回の帯は、70年代中期のヴァージン・レコードより発売されたデザインを模したイメージで制作。(それっぽいヴァージンのロゴに似せたスピードスターのロゴ部分は、女体でSとPを表現…って言わないと気づかれなさそう)
 その当時のヴァージンといえば、パンク前夜、プログレッシヴ・ロック、特にイギリスはカンタベリー地方出身のバンドを多く取り揃えたレーベルだった。

 なぜそのイメージを持ってきたのか?話は長くなるが、それは私がまだ幼い小学生の頃の話・・・・・・、とは関係なく、このアルバムの印象から説明したいと思う。


星野源の本分どこにあり?


 星野源本人が解説で各曲の思い出や背景を記している。そこには、影響を受けてきたソウル、ブルース、パンク、細野晴臣、日常や希望について語られていて、とてもまっすぐに、そして真剣に曲作りや音楽に向かっていく姿勢が描かれていて、思わず引き寄せられるものがある。ジーンとくる。
 かと思ったら、大胆な構成から一気に吸い込まれていく「地獄でなぜ悪い」のような変な曲が突然現れる、ひねくれポップスの一面もあり一筋縄でいかない。いや、むしろ彼のオールナイトニッポンを聴いていると、こっちが本筋なんじゃないかとすら思えてくる。

 そう考え出すと、もう弾き語り一本の曲なんかよりこっちが本分なんだろうという気がしてきてならない。ソウルとかクレイジーキャッツとか言いながら、めちゃめちゃニッチな70年代あたりのパワー・ポップのB面とか、辺境プログレを匂わせきてるんじゃないだろうか。想像は妄想を超える。


 その仮説が頭をよぎろうとしてA-1をかけたときに浮かんだのは、Hatfield & The NorthのThe Rotter's Clubだった。


 プログレ好きにはあまりにベタなこのジャケットも印象的なアルバムは、デイヴ・スチュワートらから成る、ハットフィールド・アンド・ザ・ノースの2ndアルバム。ジャズとロックをかけ合わせたようなサウンドに、エレピやシンセで「まろやか」に、それでいてスリリングな独特のアプローチ。
(同じ音楽性を志向したバンドにソフト・マシーン、ゴングなどのバンドがおり、それらが発生した地域名から「カンタベリー・ミュージック」と呼ばれる。)
 
 しかし、星野源とプログレ、特にカンタベリー・ミュージックとのつながりを感じられる文脈や発言は見つからず、そうか検証失敗かと思われたそのとき!我々はアルバムに参加する、あるミュージシャンの名前を見つけることで仮説が正しかったと結論づけることが出来た!

 そのミュージシャンとは、 石橋英子(Syn, Key)である。


石橋英子のプログレがもたらすブリティッシュ感


 このアルバムで、石橋英子はアナログ・シンセサイザーで5曲ほど参加している。彼女の名前は、コアな音楽ファンだけでなく最近では、アカデミー国際長編映画賞を受賞した、濱口竜介監督「ドライブ・マイ・カー」の音楽担当でも一躍名前を知られることとなった日本を代表する音楽家。
 彼女は過去作"Imitation of Life"を「ダイナミックなプログレッシブ・ポップアルバム」と謳って発表しており、また雑誌のインタビューでも、自身とプログレのつながりについてこう語っている。

石橋:私はプログレッシヴという言葉をほんとうの意味で考えると、ジェネシスがやろうとしていたことなんかがそうだと思うんですよ。枠組みから抜けだそうとして、曲として強いものをつくって、歌詞でも壮大な物語をつくる。形式ではなくて。形式を乗り越えることがプログレッシヴだと思うんです。

https://www.ele-king.net/interviews/002213/index-2.php


 彼女が星野源のバンドメンバーとなったのが2014年頃、つまりこのアルバムのレコーディング時期と重なり、ほんとに微量の少なからずの影響が合った可能性は十分に考えられるのです。(仮説では、石橋英子自身が、極度のプログレ好きであるような誤解を誘発するつもりではありません。ご容赦ください。)


帯はジャンルの垣根を超える


ハットフィールド&ザ・ノース / ザ・ロッターズ・クラブ 国内盤帯付レコード

 音楽好きの中には、特定のジャンルにこだわり聴くタイプと、ジャンル隔たりなく聴く人が存在する。特にプログレのように、趣向が特殊なジャンルにおいては、その中でもさらに細分化されていて、ハードロック寄りのプログレ・ジャズロック・フォーク寄りのプログレ・カンタベリーミュージックなどが挙げられる。もっぱらこういったマニアックな音楽を聴いている人にとっては星野源のようなJ-POPの棚に並んだ音楽は視界に入ってきづらい。

 その逆もまたしかり、星野源のライヴに来た人に「ヘンリー・カウって知ってる?」と聞いても、知ってる人の割合はきっと1%にも満たないだろう。それほど、ジャンルというのは壁を作る。ただその壁で守られるものも当然ある。
 かつてレコード帯は、そういったジャンルを形成し、多くの人にわかりやすく紹介するためのツールでもあった。「この音楽は◯◯ロックの頂点だ!」みたいな決めつけがまかり通って、知らない人はそれで心の奥底まで擦り付けて記憶に残されてきた。

 しかし店頭からレコードが消え、音楽をネットで手にする時代が来て、ジャンルの壁を超えて情報を得ることが逆に難しくなってきたように思う。過去に聴いていた音楽から、自動でオススメされるプレイリストが形成される時代だ。
 
 そんな時にふと「星野源はプログレだ」という嘘・ハッタリ・極論めいた図像に出会うことで「プログレってどんな音楽なんだろう?」と思う人が一人でも出てきたら、きっと裾野は広がり、それこそ多様性の世の中なんじゃないかとさえ思う。(なんて大風呂敷広げた話だ…)

 もちろん、本当にジャンルを超えるのは、帯でもジャケットでもなく、音楽そのものであり、それ自体にジャンルなんて後付で、本来存在すらしないのだから、雲を掴むような話に違いはないのだが……


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