大人の対応
男は鬼滅の刃に全くハマらなかった。なぜ大ヒットしているのかも理解できなかった。
しかし、社会現象に対する興味と好奇心から近所の図書館まで自転車で約1時間掛けて行き、漫画を少しずつ読んでいた。
ある時受付カウンターで「鬼滅の刃」の漫画を借りようとして、「鬼滅の刃の19巻から21巻ををお願いします」とビニール越しに職員に声を掛けたたときに後方からこんな声が聞こえてきた。
「鬼滅は他の人に借りられたから少し待ってからね」
男が後ろを振り返るとお母さんと小学校低学年位の女の子がいた。
状況から考えて女の子は鬼滅を読みたかったが不運にもオッサンに先を越されてしまったことは明らかだった。
男は両目が全く笑っていない精一杯の作り笑いを浮かべて「お先にどうぞ」と女の子に漫画を譲った。
「ありがとうございます」と女の子はお礼を言った後に漫画を受け取りその場を立ち去った。
男は精一杯の作り笑いを浮かべたまま漫画を持って子供用の読書席へ小走りで歩いていく女の子を見届けてから分類記号146.8 エッセー・随筆コーナーから下園壮太の「大人の心の鍛え方」を選び出し、女の子からは少し離れた2階の閲覧室で読み始めた。
「大人なんだし、とても大人な対応ができた」と本人は思っていた。
下園壮太の本にはストレスを和らげ平常心を保つための呼吸法が分かりやすく説明されていたが男には水の呼吸や風の呼吸が気になって本の内容が全く頭の中に全く入って来なかった。
童磨と実弥と玄弥が頭の中で大暴れしているそんな気分だった。
そのときに頭の中のパタリロが男にささやき掛けた「ユーリ、僕はなんでも知っているんだよ。おまえはもう鬼滅にハマっている。」
男はそのときに初めていつの間にか鬼滅にハマっていることに気づいた。
~オマケ~
缶コーヒーにプリントされているキャラクターとコメントにビミョーな違和感を覚えてこんな文章を書いてみました。