見出し画像

【OAK】エステウリー・ルイーズを信じたい

エステウリー・ルイーズ(Esteury Ruiz)は、OAKが22年オフにショーン・マーフィーのトレードで獲得し、23年から主力CFとしてプレーすることが予定されている24歳の若手外野手です。

現在OAKのCFとして誰に期待すべきか、ルイーズか、パチェか、はたまたカル・スティーブンソンか、ごく一部のファンの間で熱い議論が起こっています。私はルイーズ信者として、このnoteで彼への期待を述べていきます。

まずルイーズがどんな選手か紹介した後、一部から彼の評価が低い理由を挙げます。続いて、ネガティブ要素を打ち消しルイーズを信じられる理由を挙げます。最後に、根拠は一切ないがルイーズを信じたくなる理由を挙げて締めます。

どんな選手か?

ドミニカ共和国出身のルイーズは、2016年にロイヤルズ(KC)傘下でプロデビューを果たすと、17年にトレバー・ケーヒル、マット・ストラムらの絡むトレードでパドレス(SD)傘下に移籍します。

守備位置はもともと内野手(2Bメイン)でしたが、21年からは外野起用(CFも含む)になります。22年には選球眼が向上して大ブレーク、7月10日までにAAとAAA合わせて77試合に出場し、打率.333、出塁率.467、13HR、OPS1.028、60盗塁を叩き出しました。活躍が買われて短期間メジャー昇格も果たしました。

8月1日には、SDがジョシュ・ヘイダーを獲得したトレードでブルワーズ(MIL)へ移籍します(ちなみに私はこのとき初めて彼を知ってロマンあるなと思っていました)。移籍後も傘下AAAで好成績を出し続けました。

結局この年のマイナー通算では114試合に出場し、打率.332、出塁率.447、16HR、OPS.974、wRC+156、BB%12.2、85盗塁(!)を記録。優れた選球眼と出塁力、驚きの盗塁数を稼いだ韋駄天ぶりに加え、この手の選手にしては一定の長打力も発揮しました。

文句なしの成績を残したルイーズは、オフの12月にOAK・MIL・ATL間で行われたショーン・マーフィーの絡む三角トレードによって、OAKへ移籍しました。OAKフロントは他球団とのマーフィートレード交渉で無謀なまでの高い要求を突きつけていたものの、ルイーズを獲得できると聞いて前向きになったとされ、彼への高い評価が伺えます。

なぜ一部からの評価が低いのか

ルイーズは昨年、衝撃的な盗塁力、優れた選球眼に基づく高出塁率を示し、長打も一定数放ちました。今春のオープン戦でも打席での粘り強さと異常な俊足が目立ちます。守備でもCFや2Bなどセンターラインに置けます。

にも関わらず、一部からの評価は高くありません。マーフィーのトレード対価に彼が含まれていた際も、OAKの大負けとの声が目立ちました。考えられる理由を挙げていきます。

1. 盗塁はセイバー的に重視されない

ルイーズの盗塁能力は頭抜けており、メジャーでも通用するでしょう。しかしセイバーメトリクス的な考え方では盗塁はリスクの高い行為で、得点期待値的な面から重視されません。

2. メジャーでの成績が悪い

昨年のルイーズはSDとMILの2チームで、計17試合メジャーでプレーしました。しかし36打席で打率.171、出塁率.194、OPS.452と結果を残せていません。

3. マイナーで打高環境の恩恵を受けている

ルイーズがプレーしていたSD傘下AAA級のエルパソ・チワワズは、乾燥した高地にある典型的な打高球場がホームです。ルイーズの好成績に対しても「エルパソで盛ったスタッツ」と懐疑の目が向けられています。

またエルパソ以外でも、ルイーズが昨年最初にプレーしたSD傘下AA級サンアントニオ・ミッションズは、所属するテキサスリーグが22年全体的に打高だった説があるようです。

4. 打球速度が遅い

ルイーズは打球速度(exit velocity)の指標が悪いです。メジャーでの平均打球速度(average exit velocity)は73.0マイル、最高打球速度(max exit velocity)は100.2マイルで、MLB規定打席到達者のデータと比べると最下位レベルに位置しています。

MLB規定到達者のmax exit velocityランキング最下位付近。出典:baseball savant

また、マイナーリーグにおいてもルイーズの打球速度はかなり厳しいという指摘があります。全くホームランや長打で貢献できないのではという懸念はありうるでしょう。

ルイーズを信じられる理由

ルイーズの評価が低い4つの理由に対し、それぞれ対抗材料を挙げていきます。

1. 盗塁力が新ルールと環境変化に適合

従来の野球においては盗塁の価値は高くなかったかもしれません。しかし現在のMLBにおいては、試合の時短とインプレー増加をめざしルール変更が進んでおり、ゲームバランス変化があり得ます。

今シーズンからは、ベースの一辺の長さが3インチ大きくなりました。ピッチクロックの導入投手がプレートを外す回数制限も行われました。さらにシフト禁止により、内野手の間を抜けるシングルヒットが生まれやすくなりました。

いずれも盗塁に有利になると共に、盗塁の価値が大いに高まりそうなルール変更です。特にピッチクロックが打者不利(先日のオープン戦でシャーザーが試したように)・かつ走者有利のルールに落ち着いた場合、ルイーズの韋駄天ぶりが新時代の野球にドンピシャになるかもしれません。

2. 22年のメジャー成績は鵜呑みに出来ない

昨年メジャーで成績を残せなかったルイーズですが、少ないサンプル(35打席、飛ばした打球は28球)を実力と受け取って良いかは不明です。

メジャー出場の大半を占めたSDで彼が置かれていた立場も考える必要があります。22年夏のSDはプレーオフ進出へ、組織を挙げたオールイン体制を急いで整えていました。トレードデッドラインが間近に迫る中、マイナーで圧倒的成績を残し足も使えるルイーズを、ロースターの弱点にハマる便利屋として戦力化しようと試していました。初のメジャーに加え、起用への適応も必要な状況で、本領発揮する時間がなかったと考えることも可能でしょう。

今年のOAKでは一定の打席数をじっくりもらうので、そこで初めて彼の真価を判断しても遅くないはずです。

3.打高環境以外でも好成績

確かにSDのAAA級エルパソ・チワワズと、所属するパシフィックコーストリーグ(PCL)は打高環境ですが、彼がプレーしたのは114試合中28試合に過ぎません(ちなみに打率.315、OPS.935、4HR、wRC+145でした)。

ルイーズは、同じく打高説があるSDのAA級サンアントニオ・ミッションズでの49試合で打率.344、OPS1.085、9HR、wRC+177と爆発しており、これが彼の成績を押し上げています。

ということで37試合をプレーしたMILのAAA級ナッシュビル・サウンズでの成績が気になりますが、打率.329、出塁率.402、OPS.861、3HR、wRC+134です。特に打高という話は聞かないここで好成績を出せている以上、ルイーズの成績が完全にフロックとは判断できないでしょう。

4.打球速度の遅さを、打球角度で補えるかも

(この節だけ長大なので、いったん飛ばす/流し読みすることをお勧めします)

平均打球速度が遅くても、打球に角度をつけて長打やホームランを稼ぐ選手は少数います。代表例がCLEの主軸打者ホセ・ラミレスで、少ない強い打球に高精度で角度をつける技術により、ホームランを安定して量産していると言われます。

ラミレスはavg exit velocityやhard hit %は下位だが、優秀なmax exit velocity、平均20°の打球角度、強い引っ張り傾向でホームラン数を増やしている
出典:baseball savant

他には、ラミレスより最高打球速度が遅いながらも、TEXマーカス・セミエン、COLクリス・ブライアント、ここ2年のHOUアレックス・ブレグマンらも、打球を引っ張り方向に高く打ち上げてホームランを増やしている印象です。

セミエン。avg exit velocityやhard hit %は下位で、max exit velocityも中位だったものの、barrel%では中位に食い込み、26HRを放った(22年は不調もあり多少極端だったが)
出典:baseball savant

さてルイーズに話を戻すと、アプローチを優先するあまり、詰まり気味なソフトフライ、トップスピンのかかったライナーでのシングルヒット狙いを多く見かけます。平均打球速度が遅いのもうなずけます。ただホームランや長打の映像を見ると、普段のスイングとは違い、甘いボールを高々と引っ張る強いスイングをしています。ローパワーもありそうです。

ルイーズの最高打球速度はセミエンらと比べても遅そうですが、打球角度をつける能力で、打球速度の遅さを多少補えないでしょうか?

ここまで述べてきたことを、baseball savantで収集できたマイナーリーグにおけるStatcast データを使って確かめました。PCLの球場の一部にはstatcastが設置されているので、ルイーズのSD傘下AAA級エルパソ・チワワズ所属時の142打席、89球の打球データを集めました(サンプル数がやはり少ないこと、なぜかMLB pipelineレポーターのツイートより7球減ったこと、PCLが打高環境であることは残念ながら念頭に置くべきかと思います…)。その結果が以下の、偽baseball savant風percentile rakingと、打球速度ヒストグラムです。

percentile rankingの算出は2022年のMLBのデータを使用しています。
MLBとPCLで環境が違うデータの直接比較には問題もありそうなので、あくまで目安です。
縦軸は打球数、横軸は打球速度(マイル)

ルイーズの打球速度はあらゆる面で揺るぎないワーストレベルです。単純平均より洗練された集計方法に基づく、2つの打球速度指標(best speedとescape)でも同じ結果でした。打球速度ヒストグラムも全体に遅く、極端なソフトヒットが目立ちます。

一方で打球角度については、平均打球角度は約13°だったものの、「Swsp%」という指標が約41%とかなり優れていました。Swsp%は、打球角度8°〜32°の打球(スイートスポット打球)の割合を示しています。21年のMLB全体で、スイートスポット打球は打率.592、長打率1.101、wOBA.699を記録しており、バレル打球ほど強力ではないものの有用な指標です。どうしても打球を上げられず苦しむ選手は一定数いること、メジャー昇格時も打球は比較的上がっていたことを考えるとポジティブな兆候でしょう。

以上のように、最悪の打球速度指標と、良い打球角度指標が合わさった結果、ルイーズの全打球におけるバレル打球率は意外にも中の下程度まで改善されています。「打球角度をつける技術で打球速度の遅さを補える」との考えは的外れではなさそうです。

では現在もしくは将来、ルイーズにはメジャーで何本くらいのホームランが期待できるでしょうか?

ルイーズの打った長打の打球速度、角度、飛距離一覧

まずAAAでのルイーズの長打を、上の表で確認しました。90〜105マイルと爆速でない打球でも角度をつけて飛ばしています。バレル打球ではないホームランもありました。

続いてルイーズのスペックを元に、打球速度105マイル以下のホームラン/打球速度100マイル以下のホームラン/バレル打球ではないホームランについて、2022年のMLBで誰がそのようなホームランを何本打ったかを、baseball savantのstatcast searchで調べてみました。

打球速度105マイル以下のホームランランキング。セミエン2位、ブレグマン3位
出典:baseball savant statcast search
打球速度100マイル以下のホームランランキング。ブレグマン4位、セミエン5位、ラミレス12位
出典:baseball savant statcast search
バレル打球でないホームランランキング。ブレグマン2位、セミエン4位、ラミレス6位
出典:baseball savant statcast search

打球が105マイル以下でも20本近く、100マイル以下でもシーズン10本近く、ホームランを放てる選手が多くいました。またセミエンら先ほど挙げた選手のランクインは、打球速度が遅めでも低速度ホームランをここまで積み上げられるという希望を示しています。ルイーズより速い最高打球速度を出せる選手ばかりですからいきなりここまでは上手くいかないでしょうが…。

ルイーズが23年に最低限上回るべきノルマは、22年のロビー・グロスマンの成績(477打席で打率.209、出塁率.310、OPS.621、7HR)ではないかと思います。BB%11.7の優秀な選球眼、メジャー最下位近い打球速度(最高打球速度105.8マイル)、平均打球角度21.1°、Swsp%38.5という角度の上げ方など、ルイーズと似ています。速度95.3マイル、角度37°のホームラン映像を埋め込んでおきます。

グロスマンが7本なので、ルイーズは現状でもシーズン10HRを見込んでよいのではないでしょうか?まだ若いですし成長すれば、先ほどの低速度ホームランランキングとも合わせ、マイナー同様シーズン15〜20本も射程圏内でしょう。

ルイーズを信じたくなる個人的理由

最後に何の根拠もないですが、彼の成功を信じたくなる個人的理由について述べていきます。

a. リッキー・ヘンダーソンとの類似

一部OAKファンによりルイーズは、MLB史上最多の通算盗塁数を誇るOAKのレジェンド、リッキー・ヘンダーソンを彷彿とさせると指摘されています。

1972年から74年にワールドシリーズ3連覇を達成したアスレチックス。しかし主力の流出と共に暗黒期へ突入し、79年にはオークランド移転後初の100敗を喫しました。その年に昇格してきたのが、前年にマイナーで81盗塁を記録したリッキー・ヘンダーソンでした。

ヘンダーソンは最初非力なアベレージヒッターでしたが走力は非凡で、初年度に33盗塁すると、翌年には100盗塁で盗塁王に輝きました。その後は走力と高出塁率を維持しつつ長打力も伸ばしていき、シーズン20本前後のHRを狙える最高のリードオフへと成長していきました。ついには89年にOAKを久々のワールドシリーズ制覇に導くのです。

翻って2022年シーズン、主力の大放出によりOAKは79年以来久々の100敗を喫しました。そこにヘンダーソンと同じく前年にマイナーで80盗塁したルイーズがやってきました。fangraphsの予想(Zips DC)では、23年ルイーズは30盗塁すると予測されています。初年度ヘンダーソンと近い数字です。まだ長打が期待されていない点も同じです。今後のキャリアも〜盗塁王、長打力の伸び、そしてOAKをチャンピオンに導くところまで〜似たルートをたどってほしいと妄想を膨らませたくなります。

b. OAK首脳陣の新方針の象徴

OAKは21年オフ以降再建を進めてきました。しかしその内容は独特で、数々の謎と賛否両論を呼んでいます。

  • 今すぐメジャーでプレーできるプロスペクトばかり受け取っている

  • メジャーレベル先発投手を異常に(10人前後)ストックしている

  • 野手の出塁力重視は従来通りだが、ホームラン力やハードヒット量産能力というより、守備・走塁・ヒッティングに長けた野手を集めている

なぜなのか?と考察し始めるとキリがなく、別のnoteが書けそうなので深入りしません。ただ、野手の新路線(14〜15年のKCを狙っている?)を象徴する選手がルイーズであることは言うまでもないでしょう。

万が一23年にルイーズが大失敗するようだと、同じ方針で集められた他の野手、ひいては方針自体が一気に疑われる事態になりかねません。ルイーズにはぜひ成功してもらって、フロントが目指している次期コンテンドの野手像を体現してほしい、そして24年以降のチームの明るい未来を見せてほしいと願っています。


※このnoteを書くにあたりマイナーリーグのstatcastデータについて、わるものさん、Marlins Fishbagさんに色々と教えていただきました。ありがとうございました。

※見出し画像は下記ツイートから引用しています。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?