続き「絵美子さんとの小旅行」我が成長の記録:大学編
絵美子さんに、交際している他大学の先輩がいてがっかりした。
しかし、考えようによっては、そのことは、絵美子さんはもてる魅力的な女性である証拠だ!と良いように考えた。
彼女を彼から奪うしかないと考えた。
そこで、わたしはひらめいた。文芸部の仲良くしてくれる先輩にお願いして、絵美子さんとわたしの三人で近くの温泉へ行くことにした。
そこでわたしは、イギリスの作家オスカー・ワイルドのような会話の達人となり、一気にわたしの井戸のように表面は静かに見えるけれど、実は、深く熱い想いを伝えれば、彼女の気は変わるだろうと確信していた。
さらに、彼女は、その先輩と恋をしているのだ。結婚したわけではない。恋ほどうつろいやすいものはないと自分を励ました。
一緒に行く先輩は、LGBTで男性だけれど男性が好きな人だった。わたしは、察知する力が生まれつき強く、彼が、わたしに気があることを知っていた。わたしは、彼に悪いと思ったがそういう趣味はないので、わたしの姿でも見てもらい、後は我慢してもらおうと考えていた。
簡単に言うと文芸部の男性の先輩がわたしに興味があり、そのわたしは、絵美子さんに興味があるのだ。
三人で水戸へ旅行へ行くことにした。
学生でお金がなかったので、安い安い旅館というより民宿に近いところである。一応、温泉があり、夕食と朝食が出る。
東京にある先輩の家に朝集合し、そこから先輩の運転する車で、水戸の温泉まで行くのである。
表向きの名目は、部室ではなく、気分を変え、温泉に入りながら文学談義や作品の合評会ということになっていた。
彼女、わたしとも定刻に集合することができた。軽自動車の中
驚いたことに先輩の車は、すごく小さい。でも多分、最も小さい部類に入るだろう。彼は、うちの車はクーペでツードアでスポーツタイプ何だと言っていたが、農家のあぜ道を走る専用の車に思えた。
車がすごく小さいので、最初は、絵美子さんと車の後部座席に座り、先輩には運転に従事してもらい、たのしくお話をしていこうと考えていたのだが、小さすぎて二人は後ろの座席に座るスペースはない。
仕方がないので、彼女から前の席に座ってもらい、わたしは狭い後部座席に斜めに座り二席分を使っていた。
彼女と、お話をしながら食べようと買ってきた様々なスナック菓子は一人で食べることになった。
先輩と絵美子さんが、前の席に並んで座っていると、二人が恋人同士や夫婦であるかのように見えて悔しかった。
わたしは、早起きをしたせいか、前の晩から興奮してよく眠れなかったせいか、うとうととしていた。
眠気と戦っていると、先輩の声が聞こえてくる。絵美子さん、二人で後部座席に死体を積んで運んでいるようだね、と言っていた。何て言うことを言うのだろう。わたしが、寝込んでいると思ったのだろう。耳はアンテナのように狭い車の中を張り巡らしているのである。
絵美子さんが先輩に、後ろの席は狭いですが、彼は大丈夫でしょうか?と心配してくれる声が聞こえる。うれしかった。わたしのことを心配し、わたしの身を案じてくれる。きっと、わたしに気があるに違いない。と、思った瞬間、先輩が彼女に、死にはしないさ、気は使わなくて大丈夫、何かお話ししましょう、と言っている。先輩は、LGBTでわたしに関心があるんだろうが、彼女を口説いてどうするんだ、と腹ただしく思った。
数時間、居心地の悪い車に閉じ込められたような気分で乗り続け、民宿なような旅館に着いた。
つづく
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