海外動向 8/28〜9/3
当研究所では、ケーブル業界の独自の視点で放送・通信・メディア等に関する海外動向の調査・分析を行っております。このノートでは、おもに海外で一般に公開されたニュースや企業からの発信情報をもとに興味深いものをご紹介します。
◆ 今週の重要トピック
いくつもの大きな動きが起こった1週間です。インドではDisneyが現地企業と合併、数億の顧客を持つ巨大なメディア企業が誕生しています。ヨーロッパでは5G(モバイル)の大手ベンダーの一角であるNokiaが主要事業であるモバイル部門を売却すると報じられました。米国ではComcastが放送の完全IP化へと一歩前進。完全IP化が実現すると固定ネットに割り当てられる周波数が増え、より柔軟なネットサービスの提供が可能となります。ネットサービスはマルチギガの普及により顧客の関心は速度から信頼性へ移る傾向が現れ始めており、各社、準備に余念がないようです。
◆ 業界再編(M&A)
インドで現地企業とDisney子会社の合併が承認、圧倒的に巨大なメディア企業が誕生
インドのRelianceとDisneyインド子会社の合併を規制当局が承認しました。合併後の会社SIPL(Star India Private Limited)は資産価値85億ドル(推定)、120のテレビチャンネルと2つの配信サービスを持ち、テレビ広告市場がシェア40%となる巨大メディア企業となります。SIPLはインドで人気のスポーツ、クリケットの放映権をほぼ独占することになり、競合企業を大きく引き離す事業規模に規制当局から懸念が示されていました。これに対し、いくつかのスポーツ以外のチャンネルを切り離し、広告料を不当に値上げしないといった譲歩を示したことで承認を得たと言われています。
5Gの大手機器ベンダーNokiaがモバイル部門をSamsungに売却か?
正式発表ではありませんが、いくつかのニュースメディアが報じています。この部門は100億ドルの価値があると言われ、Nokiaの全収益の44%を占めています。背景にあるのはモバイル事業者が、機器ベンダーが期待していたほど設備投資を行なっていないことです。Nokiaの売上高は昨年11%減少しており、今年はさらに7〜9%減少すると言われています。ただこれはモバイル基地局を扱うベンダーに共通しており、Nokiaの競合にあたるEricssonやHuaweiも関連事業では売り上げ、利益ともに減少傾向が続いています。Nokiaはコスト削減のため、昨年9月から今年の7月にかけて全従業員8万6000人のうち7%に当たる6000人を削減していますが、厳しい状況は変わっていないようです。Samsungの関連するマーケットシェアは現在6.1%、世界第4位ですが、仮にNokiaの部門買収が成立すると、Ericssonの24.3%を上回り、Huaweiの31.3%に次ぐ25.6%、世界第2位となります。
なお、Nokiaは本件についてプレスリリースを出しており、そこで「発表するものは何もありません。関連するインサイダープロジェクトも存在しません」と表明しています。
◆ 業界動向
Comcast、CASの配布を終了、放送の完全IP化へ一歩前進
日本で言うところのCASの一種である「CableCARD」の新規配布を10月24日で終了します。従来型のQAMを使用した放送(RF放送)の受信に必要なものですので、この日からRF放送を対象としたテレビ加入はできなくなり、IPを使用したXfinity Streamなどが新規テレビ加入者の受け皿となります。また、既存加入者にもRF放送に対応したSTBからIP STBへの移行を促し、切り替えた加入者にはIP STBのレンタル料を1年間免除するといったプロモーションを実施します。市販機器の利用も推奨しています。RokuやAppleTV、Amazon Fire TVデバイス、それにComcastが自ら提供するXfinity FlexやXumoなど。
CableCARDは10月24日以降も引き続き使用できます。現在、使用されているCableCARDの数やいつまで運用されるかは明らかにしていませんが、今後、RF放送に割り当てていた周波数帯域を固定ネットに移していく計画のようです。
Charterが2022年から同様の施策を始めているほか、Cable One、Midco、Cox、WideOpenWestもRF放送を終了しIP放送へ移行させる計画です。中小規模のケーブル事業者では多チャンネルサービスから完全に撤退する事業者も増えています。
【8/27】DirecTVとDisneyがチャンネルの契約更新で対立
双方の主張が対立しており、このままだと現在の契約が切れる8月31日以降、ABCやESPNといったDisney系のチャンネルが視聴できなくなります。DirecTVの約900万世帯の多チャンネルサービス加入者が影響を受けます。
【9/1】DirecTVでDisney系のESPNやABCチャンネルが放送停止
米国でテニスの全米オープン 4回戦が行われていた最中の出来事です。DirecTVではESPNチャンネルで試合がライブ中継されていましたが、東部時間9月1日午後7時20分に放送が中断されました。Disney系のチャンネルすべてが停止されており、影響はDirecTVのテレビ加入者、約900万世帯に及びます。DirecTVとDisney間でのテレビ放送の契約、いわゆる「キャリッジ契約」が双方の主張の隔たりによって更新されなかったためです。Disney側は複数のチャンネルを一つのパッケージとして顧客に提供するバンドル方式を求めているのに対し、DirecTV側は顧客がチャンネル単位で契約するアラカルト方式を主張していると言われています。Disneyは「当社のテレビチャンネルと番組のポートフォリオを過小評価するような契約は結ばない」という声明を出しており、両者が歩み寄る気配は見当たりません。
◆ インフラ
Opensignalによる固定ネットの信頼性調査、CharterとComcastがAT&TやVerizonを上回る
Opensignalは信頼性スコアを100〜1000の範囲で評価しています。これによるとCharterは741、Comcast 710、Verizon 625、AT&T 546、T-Mobile 525でした。このスコアが650以上だと「高い信頼性」、500〜600だと「中程度の信頼性」、500未満だと「低い信頼性」だとしています。ケーブル事業者の大手2社がテレコム事業者を上回る結果となりました。
テレコム事業者の固定ネットはFTTH、DSL、FWAなどを総合した評価となっています。
Opensignalによると信頼性スコアは「ユーザーエクスペリエンス(体験)」の全体的な指標になるもの。映像のストリーミング配信、Webアクセス、SNSの利用に焦点を当てて測定しているということです。具体的にはサービスに接続できるか、利用したサービスが最後まで完了できたか、そのサービスを十分(快適)に利用できたかを評価しています。
ネットが必須インフラとなり、また速度が向上するにつれ、ますます信頼性が重要視されています。ComcastはDOCSIS 4.0でアクセスネットワーク上のノード、増幅器(アンプ)、CPE(モデムなど)の運用にAIを活用し信頼性をさらに向上させる新たな標準規格を検討しているということです。
韓国のモバイル3社が位置情報などを取得するAPIを共通化
SK Telecom、KT、LG Uplusの3社が年内に「Network Open API」を共同で策定、商用化する覚書(MoU)を締結しています。モバイル事業者が保有する加入者の位置情報など各種データを取得する場合、これまで各社異なるAPIとなっており、それを利用する企業はモバイル事業者ごとに開発する必要がありました。これを共通化することで、アプリケーション開発者はよりサービス開発に重点を置くことが可能となり、新たな革新的なサービス開発が生まれることを狙っているようです。
◆ 新技術
Comcastが選定したスポーツテック関連のベンチャー10社が商業契約などを獲得
Comcast NBCUniversalは定期的にスポーツテック分野の有望なベンチャーを発掘するイベントを開催しています。その第4期で選出された10社は、過去半年に渡りNBC SportsやSky Sports、NASCAR、PGA TOURといった企業、組織と協議を行い、その結果、15件のパートナーシップや商業契約を獲得したということです。第4期の選出企業10社も紹介されています。例えばカナダのStellarAlgoはAIを活用して、スポーツ中継で試合の状況や視聴者の傾向などを総合的に考慮し、適切な視聴者(ファン)に適切なタイミングでプロモーションを行う技術を持っているようです。
◆ メディア
Pluto TVはSkydanceとの合併後のParamountにとって重要な配信サービス
リンク先の英文記事のタイトルは「Pluto TVは売却されるのか?」ですが、実際の内容はParamountにとってPluto TVは切り離せない資産であり、これをどう活かしていくかが重要だとしています。Pluto TVはParamountの映画ライブラリーとCBSで放送された番組をベースにしたFASTです。Paramountの既存の放送ネットワーク(チャンネル)事業は減損を強いられ、またテレビ広告(CM)も放送から配信サービスへのシフトが進んでいます。そんな中、Pluto TVはParamount+と並んでシフト後の受け皿になり得るという論理です。
Paramount、12の放送チャンネルを5〜10億ドルで売却か?
Paramountは中核ではない事業の売却を検討しており、これに該当するようです。
◆ その他
米国、スポーツ中継は放送での視聴がベスト、配信サービスは問題が多い!?
Hub Entertainment Researchが米国の13歳から74歳までのスポーツファン3763人を対象とした最新(2024年7月)の調査結果です。これによると配信サービスでは37%が、視聴中に映像が止まってしまったり、アプリのクラッシュといったトラブルが定期的に発生すると答えており、24%が「ケーブルなど放送のほうが良い」と回答しています。ただ、これらはあくまで視聴の安定度、快適さを表したもので、実際にスポーツをどのように視聴しているかとの調査に対しては、過半数が配信サービスと答えています。
監修者・執筆者:J:COM あしたへつなぐ研究所 編集部メンバー
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