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草木と生きた日本人

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執筆者:玉川可奈子/和歌(やまとうた)を嗜む歌人(うたびと)・作家 (画像:大宇陀 又兵衛桜)/月一連載
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#日本書紀

草木と生きた日本人 続・東国人と花

一、序  恋しけば 来ませわが背子 垣つ柳 うれ摘みからし われ立ち待たむ(巻十四・三四五五)  「恋しくなつたらいつでも来てくださいね。私の大切な人。垣の柳の芽を摘み枯らしてしまふまで、私は立つて待つてゐませう」といふ意味のこの歌。  さう、この歌も東歌です。この歌には柳の木が詠まれてゐますね。柳の芽を積み枯らすほど摘んであなたを待つてゐますと詠む、実に情熱的な女性の立場の歌です。  前回は、『万葉集』に残された東国人の歌から、都人だけでなく、都から遠く離れた東国の人も

草木と生きた日本人 一 若菜

一 記紀に見る草木  古くから、日本人は、草木を大切にし、草木と共に生きてきました。その事実は、『古事記』、『日本書紀』をはじめとする神典はもちろん、古へ人が愛読してきた『万葉集』や『古今和歌集』などの和歌文学にも明らかです。  たとへば、『古事記』を見てみませう。『古事記』の上巻、神代のことが記されたこの巻には、次の記述があります。なほ、以下に引用する『古事記』と『日本書紀』は、『日本古典文学全集』(小学館)によつてゐます。 「次に風の神、名は志那津比古神を生みき。次に