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草木と生きた日本人

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執筆者:玉川可奈子/和歌(やまとうた)を嗜む歌人(うたびと)・作家 (画像:大宇陀 又兵衛桜)/月一連載
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#御歌

草木と生きた日本人 蕨

一、序  有馬山 猪名の笹原 風吹けば いでそよ人を 忘れやはする  (有馬山の近くの猪名の笹原に風が吹くと、そよそよと笹の葉が鳴る音のやうに、さう、「そよ(それですよ)」、忘れたのはあなたの方であつて、私があなたを忘れませうか、忘れはしません)  『小倉百人一首』に収められた、大弐三位の歌です。歌中の「有馬山」は摂津国の有馬山、世に知られた有馬温泉の近くでありませう。  前回は、笹、そして篠についてお話ししました。笹の葉が「そよ」といふ様子は、柿本人麻呂の「み山もさ

草木と生きた日本人 松

一、序  門ごとに 立つる小松に かざられて 宿てふ宿に 春は来にけり  (門前に、門松を立てて飾り付けて、家といふ家に春は来たものだナア)  頼朝に弓馬の道を説く剛の者にして悲恋の人、西行の歌です。  年が明けて、令和六年になりました。今年は昨年よりも心穏やかに、より平和にありたいものですね。  まだまだ寒い日が続きますが、旧暦では正月は春です。春といへば私は「万葉集』に収められた志貴皇子の御歌、  石走る 垂水の上の さわらびの 萌え出づる春に なりにけるかも (『