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手加減無用鍋【毎週ショートショートnote《裏》】

「そうか。祐一君は、こっちでの正月は初めてだったねぇ。」
 お義父さんは上機嫌で、おせちを前にビールを傾けていた。僕も、勧められるままにグラスを空ける。
「なにせ、こっちは食事が美味いだけが取り柄の田舎だ。たくさん食べて行ってくれ。そろそろ来るぞ──。」
 お義父さんは、そこで一息置いた。

「『手加減無用鍋』が。」

 聞いたこともなかった。
 そのとき、お義母さんと理恵が、台所のほうから濛々と湯気が上がるものを持ってきて、僕たちがいるテーブルに置いた。

 鍋だ。カニが入っている。鱈がいる、イカがいる、鯛もいるようだ。魚介てんこ盛り、なんという贅沢な鍋だ。
 だが、不可解なことに、鍋を置いた二人は、男二人をほったらかしで、さっそく鍋をつつきにかかっている。

「あっ! きたねえぞ!!」
 お義父さんが声を上げた。同じタイミングで、理恵が一瞬僕を見て言った。
「食べたほうがいい。奪い合いだよ。
 これが、こっちの正月の名物、『手加減無用鍋』。」



(本文413字)

 良いお年をお迎えください!

おまけ。タイトル画像全景。
セーターにめっちゃ汁はねそう。


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