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「乾石村」はこんなところ

これで10本目の記事になるので、今回は趣を変えて、わたしの住んでいるフランスの小さな村について、自己紹介をからめて書きます。
 
 
わたしの住む村は人口約2100人で、プロフィールにも書いているとおり、乾式石造物の伝統があります。乾式とは、つなぎの材料を使わず、ただ石を積み上げる技法です。ここだけでなく、フランス・世界各地にあります。地元にはいくつか保存会があり、上の写真のような復元などをしています。そこからnote用に、わたしが勝手に村の日本語名を作りました。乾式(かんしき)から来るので、「乾石村」の読み方は「かんせきむら」。「乾石」と書いて「いぬいし」と読む日本人の姓がありますが、無関係です。わたしの姓でもありません。念のため。一方、「シスカ」は勝手に作ったのではなく、あるところに正式に登録されている非日本語名にもとづく愛称です。
 
村は、南フランスにあります。地中海まで車で1時間ほどです。ここに来る以前は、フランスではベルギー国境やドイツ国境の近く、スイス国境からさほど遠くないところで数年間ずつ暮らしました。海にせよ、陸地の国境にせよ境界の近くにいるのは、どこにいても常に「こちら側」と「あちら側」のはざまで、アウトサイダー的な立場と視点をもって生きてきたわたしに合っているような気がします。
 
村の住民は大雑把に3つに分類できます。まず、数世代前から村に住んでいる家系の人たち。次に、転勤や転職、または住む家が見つかったので移住してきた人たち。最後は、リタイヤ後に老後を過ごすために来た人たち。2番目と3番目のカテゴリーにはフランス国外で生まれた人もいます。わたしは、まだ働いでいるので2番目のカテゴリーです。老後にそなえて温暖な南仏に家を買おう、と英語圏生まれの多重国籍・帰化フランス人配偶者に説得されて、引っ越してきました。
 
仕事は、自由業者として翻訳をしています。在外邦人の中には、日本語と現地語ができるという理由(だけ?)で移住してから翻訳や通訳を職業にする人がいますが、わたしは日本にいる頃からこの仕事をしています。もともとは、大学生のとき、通訳スクールで日本語・英語の同時通訳コースを受講していて、スクールのスタッフの紹介でその会社の翻訳トライアルを受け、合格し、卒業前に初仕事をいただいたのがきっかけです。通訳コース終了後は5年間ほど通訳と兼業でしたが、さまざまな理由から翻訳一本にしぼりました。もうすぐキャリア40年になります。
 
日本語・英語生活は長いのですが、フランス語は、30代に入ってから本格的に学習を始めました。渡仏する数年前に、別の国のフランス語圏に半年ほど滞在したのがきっかけです。その後も学習を続けたので、渡仏当初から言語で困ることは さほどありませんでした。ただし、最初の数年間は大学・院に通っていたので、フランス語での課題や論文執筆の苦労はしています。また、ぴったりの言い回しが思いつかないとか、モノの名前をフランス語で知らないとかいうことは今でもあります。何語であろうと、言語学習は一生の旅、終わりはありません。
 
さて、乾石村に戻って…村には標高160メートルほどの丘があり、頂上までの道、頂上の道が何通りもの自然の散歩道・ハイキングコースになっています。そこには乾式の石造りの小屋や塀、石畳の道もあります。頂上には、歴史的記念物に指定されている紀元前800~50年頃の集落跡もあって、よそから見学に来る人もいます。でも、案内所も何もない、ただそこに横たわっているだけの遺跡です。
 
これまでフランスで20年間おもに都会に住んだ後、5年前にこの村に引っ越してきて、環境以外に大きく変化したのは人間関係です。田舎に住むということで、「よそ者には挨拶もせず、カーテンの隙間からのぞき見て、陰で噂話をするような地元民」を想像して(フランスにはそんな場所もあります)少し身構えていたのですが、みごとに拍子抜け。まわりは典型的な南欧、地中海的な陽気で開放的、親しみやすい人たちがほとんどです。
 
わたしは村の旧中心部に住んでいますが、ここでは家の並び方のためか、住民間の距離が物理的にも心理的にも近いです。でも、「人のことに首を突っ込む」ような面はありません。普段は適度な距離をわきまえて、何かあったら惜しみなく助け合うというのが地元のやり方で、このことを皆が誇りにしていると感じます。わたしもそうしています。具体的なエピソードも紹介しようと思えばできますが、「わたしのフランス生活」的なことを書こうとnoteを始めたわけではないので、記事のテーマと関連性があれば、その都度ご紹介しようと思います。お楽しみに。
 
それでは、なぜnoteを始めたのかといえば、これまでにわたしが書いた記事をお読みいただいた方には明らかではないかと思いますが、「老婆心」の一種でしょうか。ネットの日本語界隈で目にすることに、心配になること、気になることが多いからです。傾向として、薄っぺらい議論や短絡的な考え方が横行しているように感じます。それで、そういう気になることを独自の視点で取り上げて記事に仕上げ、お読みいただいた方が物事をもっと考えるきっかけになれたら、と思ったのです。60代に入ったことで、わたしでも人様にお話しできることも少々あるかな、とも。また、書くのは自分の考えを追究し、まとめるためでもあります。
 
自己紹介のようなものを書いたのは、「いったい、どこのどいつがこんなこと書いているのか人は知りたいものだ」とある人から言われたからです。それで「どこ」と「どいつ」について書いてみました。また、「シスカの書くものを読むと『この人は右寄りなのか、左寄りなのか?』と普通の人は悩む」とも言われました。(そうですか?)でも、わたしには右派/左派とか、保守/革新とかの区別や所属意識はありません。ただ、自分の信条、価値観、基本理念にもとづいて、事案ごとに立場を決めるだけです。これからも、この姿勢で書くつもりです。どうぞよろしく。


Reading maketh a full man; conference, a ready man; and writing, an exact man.
(読書は人を豊かにし、対話は人を機敏にし、執筆は人を緻密にする。)

フランシス・ベーコン (Francis Bacon)


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