Rozeoマスタールシアー 樋口 恭大さんインタビューVol.1 「郡上八幡への移住・工房のこと」
2021年4月のとある金曜の夜。ミュージックステーションを何気なく眺めてると、ふと目に入った折坂悠太さんの弾くギターに目が釘付けに。
フルアコ、P90一発、オールマホガニーでノンカッタウェイ、サイズが小ぶりでfホールの形も印象的。
ありそうでなかったその姿に一目惚れでした。
すぐさま調べて、翌週には阿佐ヶ谷のLAST GUITARさんにて購入したのがRozeo(ロゼオ)のフルアコ(フルアコースティックギター)でした。
日本人の体形にあったコンパクトなボディサイズと薄胴のため取り回しがよく、fホールはコロンとしていて可愛いんです。そしてとっても軽い。
今回はそのRozeoの生みの親であり、ルシアー(ギター製作家)の樋口 恭大さんに工房訪問とインタビューの機会をいただきました。
ギター作りのきっかけ、Rozeoへのこだわり、郡上八幡への移住と左波工房での今後の取り組みなどなど、興味深いテーマについてたっぷりお聞きしています。
Rozeoファンにはもちろん、ギター作り・モノ作りに興味のある方にはオススメなお話しを、全2回でおとどけします。
──素敵な工房ですね。ちょうどいま自然光がいい感じですし。
ですね。中庭の紅葉も見れますよ。
──家から紅葉見れるのいいですね(笑) こちらの建物はもともとは楽器屋さんだったんですね。
そうですね。お義父さんも高校の頃に通ってたそうで。
20年くらい前にお店は閉めて10年ほど空き家だったところをちょうど借りられたんです。
──賃貸だとは思いませんでした。かなりリフォームされてますよね。
「チームまちや」っていう空き家再生と移住者斡旋を手掛けるプロジェクトチームがあって、そこのサポートもあり、町興しの一環で移住したので、大々的にリフォームして工房にしてます。
ヨメさんが郡上の出身だったので土地にはゆかりはあったんです。
最初は、楽器を作るのはどこでも出来るしなぁ、もう少し山に登ったところの高原でやろうかなと思ってたんですが、ぜひ町屋の商店街でやってもらいたいとのお声がけもいただいて。
──郡上近隣の木工関係の方から、機械を買ったりされたんですよね?
そうです。この辺りとヨメさんの実家のほうで、建具屋をやってて引退した大工さんから譲ってもらったりしました。
あとは名古屋のほうでも探して、譲ってもらったり買ったりしました。
このボール盤とか横切り機とか、ペティワークっていうんですけど。こういう機械も譲ってもらったりして。
まだもうちょっと欲しいですけど少しずつやってますね。
──木工始めるきっかけはなんでしょうか?もともとは親御さんがやられてたんですか?
いや、全然。父は高校の教師で。数学教えてたんです。
全然木工関係ないんですよ。
──オイデナーレ町屋のインタビュー動画を拝見しました。ギターを弾きたいよりも作りたい欲求から始まったんですよね?すごく珍しいなぁと思いました。
ギター買えなかったんですよね。
中学生にしてはギターって高いじゃないですか?
だから毎月雑誌読んでたんですよね。バンやろとかギタマガ、プレイヤーとか。
読み漁って、ギターは木で出来てるとか、どんな木を使ってるとか、ピックアップの交換や改造の仕方とか見て自分でやりたいなと思ったんですよね。
──プラモデルが好きだったとかではないんですね。
ガンダムのプラモとかミニ四駆は好きでしたけどね。
木工への憧れというと、おじいちゃんが木の彫り物してたんですよ。
そこに置いてある「平常心」てやつ。おじいちゃんが彫ったんですけど。
夏休みとか正月とか帰ると縁側で彫ってるんですよ。
それが凄いカッコよくて。それで木工が気になってたのがありますね。
──左波はおじいさんの屋号ですか?
あ、名字です。珍しいですよね。
全国でもほとんどいないんじゃないですかね。
ルーツは能登半島あたりかと思います。
詳しく知らないけど、おじいちゃんは能登半島~大阪~三重の熊野へと移ったみたいで。いまもおばあちゃんが熊野に住んでますよ。
ぼくも生まれたのは熊野で。育ったのは四日市ですけど。
それで「左波」を工房の名前に使わせてもらうかと思いまして。
なんか樋口工房よりもカッコいいじゃないですか(笑)
最近ね、ロゴが出来たんですよ。郡上のデザイナーの方に作ってもらって。
──インスタグラムで拝見しました。ステッカーですよね。
そう、あれ色々注文したんですけどよくやってくれたなぁと思って(笑)
──新しいロゴを作った方とは、移住してから知り合ったんですか?
それがね、移住しませんか?って言ってきた張本人なんですよ(笑)
当時チームまちやで働いてた猪股さんという方で。
──左波の漢字を崩したんでしたっけ?
そう。漢字読めなくていいから、もっとこっち曲げてとか色々わがまま言って(笑)
そんなに相談乗ってくれる人なかなかいないですからね。汲み取る力とかセンスが凄い方で。
──樋口さんのイラストもその方が書いたんですか?
それは寺田楽器の同期に書いてもらったんです。同期が10数人いて最終的に残ったのがぼくと彼で。
ロゼオルーカスって知ってます?
ギブソンの戦前のニック・ルーカスモデルをオマージュして、昔本数限定で作ってたんですけど、それのラベルを作る時に彼に絵を頼んだんですよ。
それがあったので今回も彼にお願いして。
抱えてるのは魚ですけど(笑)
──釣りは昔からやってたんですか?
寺田楽器に入ってからですね。同期にめっちゃ釣り好きなやつがいて。
ブラックバスとかは子供の頃からやってましたけどね。渓流釣りを始めたのは会社入ってからで。
だからここ(郡上八幡)にも結構釣りをしに来てたんです。
──郡上八幡に移住したきっかけの一つに釣りもあったんですか?
そうですね。
もう毎日行ってやろう、とか思ってたけど全然行けてない(笑)
愛知県に住んでたときの方が週末の休みがあったから行けてたんだよなぁ。一人だと土日も関係なくて仕事しちゃうんですよね。
──オリジナルギターのブランド名はKyodai Higuchi名義ですか?
そうですね。ブランドは個人名義で。
左波工房はこの場所の屋号としつつ。
楽器店の方からも、せっかく個人でやってるなら個人名義にしないともったいないよ、と言っていただいて。そっちのほうが売りやすいとも(笑)
──こちらのプロトタイプはモデル名が「wagtail」でしたっけ?
はい。「wagtail」は鳥ですね。セキレイ。
ギター作ってる時に庭の木にいつもいたんですよ。
黄セキレイの幼鳥が家の中に入ってきちゃったことがあったんですよね。
それで、今のモデルの名前決める時に、そういえばセキレイがいたなぁと思って英語調べたら響きカッコいいし、これでいこうと(笑)
Rozeoが「ladybug=てんとう虫」だったから虫系じゃないのがいいなと思ってたし。
──身近な理由でいいですね(笑) ギターは鳥の名前のモデル多いですしいいですね。
いまはプロトタイプを経て、4本製作中なんです。
トップのアーチをさらに効かせようとしていて。
fホールもRozeoとは少し形を変えてみてるんですよ。
よりジャズ感を出すというか。
ヘッドも次からは少し細くしようかなと。
これは釣りのランディングネット。
最近こっちのほうが注文多いんですけど、ちょっと待ってもらってます(笑)
──こちらの赤いギターは?
これ、19歳のときに初めて作ったフルアコなんです。
会社の荷物を整理してたら出てきて、懐かしいなぁと思って。
fホールのデザインは今のRozeoそのままです。
──原点、ステキですね。赤いギターといえばロン・ウッド(ローリングストーンズ)が赤いRozeoを弾いていて驚きました。あれってどういうきっかけだったんですか?
ジョー・ルイス・ウォーカーからFacebook経由でメッセージがきたんですよ。いきなり。
「お前のギターは最高だ!」って(笑)
調べたらBBキングのサイドギター弾いてたりして、おぉすごい人だと。
で、その人のために作ったギターだったんですよ。
ジョーは交友関係が広いみたいで、家にロン・ウッドが遊びに来た時にたまたまRozeoが目に留まって弾いたみたいなんです。
それでロニーが自分にも作ってくれと言ってくれたそうで。
でもあれだけのビッグネームなのでなかなかやり取りもスムーズにはいかず、痺れを切らしたジョーがロニーにあげちゃったんですよ(笑)
で、ジョーから「オレのギターあげちゃったんだけどどうしたらいい?」って連絡きて(笑)
それでもう1本作って送りました。
(つづきます)
~郡上八幡の素敵な風景の一部~