Nirvana から見る音楽史
・はじめに
インターネットサービスの発展により、人と音楽の関わり方は劇的に変化した。Apple MusicやSpotify、Youtubeなどのストリーミングサービスの登場によって、CDやレコードなどのいわゆるフィジカルを通しての音楽体験よりも、安価で広範囲に聴けるようになった。これは録音された音楽を聴く体験がレコードしかなかった時代と比べて、容易になったことで消費者からすると喜ばしいことに思える。反面、はじめての○○や、friends MIXのようなレコメンド機能によって、(視聴者にとっての)新しい音楽は基本的に受動的に、”受け取る”という形が基本になるという構造も生み出された。つまり、目的のCDの隣の棚にある知らないバンドを発見することや、中古CDをなんとなく買うという、新しい音楽を”掴み取る”という行為はその行為そのものを目的に行わなければならないほど、音楽の発掘という作業が逆説的に能動的行為になってしまっているという現象が起きているように思える。
そこで、そのような好事家の一人である私が、新たな好事家を生み出すために、好事家初心者のために、特定バンドを中心とした音楽史観(平たく言えばミュージシャンとミュージシャンの繋がり)を気ままに連載しようというのがこの企画である。
・Nirvana、その音楽性
さて、長々とイントロを書いたがNirvanaという単語に惹かれてこのブログを開いた方は恐らく飛ばしていまここにいるのではなかろうか?(俺ならそうする。)そんなわけで、第一回はNirvana中心史観である。
まず、Nirvanaとはどんなバンドなのか簡単な概略を説明する。(正直ここも飛ばしていい)
・結成、解散年:1987-1994年
・メンバー
Gt、Vo カート・コバーン
Bagt クリス・ノヴォセリック
Dr デイブ・グロール
Gt パット・スメア(In Utero以降から参加)
・ディスコグラフィー(発表アルバム)
1989 Bleach
1991 Nevermind
1993 In Utero
さて、Nirvanaである。ジャンルとしてはオルタナティブロック、グランジと称されているが、個人的にはNirvanaという1ジャンルであるとするか、グランジはNirvanaだけ、という解釈をするかでなかなか定まらない。たとえば同時期に活躍したグランジ・バンドとしてPearl JamとSoundGardenがあるが、そのどちらも楽曲的には80年代のヘアメタルの延長線上にあり、Guns and Rosesのような、カート・コバーンが一時期敵視(というか自らの対局としてみていた)していたバンドと実は系譜的には同じなのではないかと思う。調和のとれたサウンド、洗練されたメロディなどがその共通点で、たとえばギターソロは明らかにブルースから来ているし、ミックスの傾向もメタルや後のラウドロックのような”音の壁”を意識している。一方で、Nirvanaの作品は、かなりガレージ的というか、MIXの面で言うと音が意図的に痩せていて、”音の壁”的な手法よりもよりオールドなパンク志向であり、Velvet underground(特に2枚目)やBlack Sabbathなどを代表とする楽器と楽器の音の間に隙間があるタイプのMIXになっている。VelvetsやSabbathの時代はテープで録音しており、またMIX用の機材など90年代と比較すると発展していなかったことからこれのような隙間が生まれることはある意味当たり前だったと思う。しかし、Nirvanaのアルバムではこの隙間がある種の空虚を演出し、特にIn Uteroはよりアンダーグラウンド的に聞こえるという演出がされているのではないかと考えられる。恐るべし、スティーブ・アルビ二(In Uteroのプロデューサー)!!
本当は作曲的な面でSonic Youthは外せないとかLed Zeppelin的なリフの工夫なんかも語りたかったがすでに1700文字近くなっており、読者も俺もなかなかしんどいので割愛。要望があれば詳しく解析していきたいと思う。
さて、ここまではNirvanaから見たNirvana以前から同時代のバンドと、その関係性を見ていった。
・Nirvanaの影響
ここで現代に目線を移した時、どのようなバンドがあるだろうか?
この問いは、つまり90年代から現代において、カルチャーとテクノロジーが変化する過程で、Nirvanaはどのような影響を及ぼしたのだろうか?ということになる。
ここで、私はギター弾きなのでギター弾き的視点でみていくと、まずエフェクターによる音作り、機材に対する見方の変化が挙げられる。エフェクターについて知らない読者はとりあえず置いてきぼりにするとして、なぜエフェクターに着目すると面白いのかというと、前提としてNirvana以前のメインストリームにいたバンドの音作りの主流はラック式と呼ばれるスタジオの音質を目指した機材が使われていた。そして、インターネットの普及がちょうどこの時期と被る、ということにある。(このブログは文化史的にポップ音楽を捉えることも目的とする優良教育ブログとなっております。)
つまり、写真や動画などの視覚的な媒体が安価で高速に共有される時代の幕開けである。そうなると少しでも憧れのギターヒーローに近づきたい全国のギターキッズはどうするか、答えは明白、ヒーローの使っている道具をひたすら収集するのである。これはある意味でコスプレに近い。好きなバンドの曲をコピーし、同じ機材でプレイする。私はこれを”音楽的コスプレ”と勝手に名付けているのだが、そういった文化が一般に浸透(アメリカにはトリビュートバンドという商業音楽文化があるのであえて”一般に”と書くが)したのはこの時期ではなかろうか?とくに大学軽音楽業界(そんなもんあるんか)を見ているとカート・コバーンに憧れるギターキッズは多く、BOSS DS-2やエレハモのSmall Clone(俺も買った)などはコバーン景気と名付けてもいいぐらいNirvanaのせいで売れてるのではなかろうか?(DS-2は某チリペッパーズのギタリストの人気も手伝っていること間違いなし!)
ぐだぐだと書いてきたが、要するに、インターネットの普及とエフェクターを活用するバンドの流行によって音楽(特にプレイヤ―)の形態が一回変わったよ、ってことである。
とくに影響が強いバンドとしてはイギリス勢が多い印象でMuseやRadioheadなどが挙げられる。このように、音楽のメインストリームはアメリカ、イギリスを交互に移り変わっていることも歴史をみると明らかである。直近で影響を受けたバンド、アーティストとしてはコートニー・バーネットやビリー・アイリッシュなどがあげられ、近年は音像よりも歌詞などに色濃い影響がみられる。
・終わりに
今回は企画としてNirvanaを取り上げたが、以前からこのようなバンド to バンド的な記事を以前から書きたかった。
そこには私の音楽遍歴に理由があり、現代的な聞き方に移るにしたがって聞き方が変化していて、現代的でない手法を活用する喜びを共有したかったということがある。もう一つは自分の知識がどの程度であるのか確認するための作業がしたかったのである。より具体的に言うと、どの程度、どのようにアウトプットできるのか?という疑問に回答したかったからである。
今回書いてみて、もっとやり方があると思うし、読みやすさで考えるとなかなかにしんどいものがあるが、今後も他のバンドを通じてその能力を上げていきたい。
最後に、ここまで読んでいただいた方に感謝をいたします。また、ご要望やご指摘いただけると中のおじさんは生きる意味を人生に見出しますのでボランティアだと思ってなんか声かけてください。とても喜びます。
以上、拙い&間違いだらけの記事でしたが、与太話として楽しんでいただければコレ幸い、本当にありがとうございました。
2022/06/28 追記
記事のビジュアル化を目指してサウンドマップなるものを作ってみた。ペイントによる作成なのでやりやすいアプリなどあればご教授くだされ。