写真ならずっと一緒ね、誰にも邪魔されない 死刑台のエレベーター (1958) 仏
ルイ・マル監督
この映画も 初めて観たのは
ジャスミン(←私よ)が 17、8歳
毎週のように通っていた ミニ・シアターだった。
クーッ、もう60年も前になるのね。
この頃は
洋画の世界に足を踏み込んだばかりで 夢中だったから
行くたびに貰える
紙質の悪い 二色刷りの 粗末なパンフレットを
長い間、 取って置いた。
まあ、そんなことはどうでもいいや
25歳のルイ・マル監督が 自己資金で製作した映画。
マル監督は富豪の坊ちゃんでしたからね。
撮影がアンリ・ドカエ
ジャスミンはこのお名前を聞くだけで
ひれ伏したくなる。
『大人は判ってくれない』『太陽がいっぱい』『サムライ』『仁義』・・
そしてこの『死刑台のエレベーター』の
モノクロの映像の美しさは 例えようもない。
音楽がマイルス・ディヴィス
マイルス・ディヴィス・カルテットは
映画のラッシュを見ながら 即興演奏したそうですが
この映画の成功は 彼のクール・ジャズの効果も大きいですね。
ヌーヴェル・ヴァーグを代表する
不朽の名作と言っていいと思う作品です。
〇
映画は ジャンヌ・モローの クローズ・アップからはじまる。
「ジュテーム、ジュテーム・・・
もう、我慢できないわ 愛してるの、だからやるのよ」
電話で熱い愛を語る フロランス・カララ (ジャンヌ・モロー)
相手は夫の部下のジュリアン・ダベルニエ (モーリス・ロネ)
かつてのインドシナ、アルジェリア戦争で
将校として活躍した英雄である。
愛し合うふたりは
邪魔者の社長を殺害する計画を立て
今まさに 実行の時を迎えていた。
ジュリアンは ビルのバルコニーから
ロープを使って 階上にある社長室に侵入し
フロランスから渡されていた 社長自身の拳銃で射殺。
手に銃を握らせ 自殺に見せかけた。
しかし
すべては計画通りに行ったはずだったが
通りに停めていた 自分の車に乗り込んだところで
ジュリアンは ロープを取り外すのを 忘れたことに気づく。
彼はビルに駆け戻り エレベーターに乗ったが
途中の階で 突然、エレベーターが停まる。
ビルの管理人が 電源を切って帰宅してしまったため
ジュリアンは 閉じ込められる結果となった。
その頃、日頃からジュリアンに憧れている
ビルの前の花屋の売り子ベロニク(ヨリ・ベルダン)と
彼氏のルイ(ジョルジュ・プージュリー)は
ジュリアンの 高級車を盗んだ。
一方、
犯行後のジュリアンと 待ち合わせていたフロランスは
顔見知りの 花屋のベロニクを乗せた
ジュリアンの車が走り去るのを目撃する。
「ジュリアン、どうしたの、裏切ったの・・?」
途方に暮れて夜の街を彷徨うフロランス。
エレベーターから脱出しようと悪戦苦闘するジュリアン。
そして
ハイウェイを走行する ルイとベロニクは
自分たちの車と 追いつ追われつする
ベンツに乗った ドイツ人夫妻と知り合い
同じモーテルで 宿泊することになる。
ここで
ふたりはジュリアン・ダベルニエの名を名乗った。
その夜は彼らと 和気あいあい愉しんだが
翌朝早く、ルイはベンツを盗もうとしているところを
ドイツ人に見つかり
ジュリアンの車にあった銃で 夫妻を射殺してしまう。
ふたりはそのまま ベンツで逃走し
残されたジュリアンの車、銃から
事件発覚後、
警察はジュリアン・ダベルニエを容疑者として追う。
翌朝、刑事たちが会社を訪ね
呼び出された管理人が 電源を入れたため
ジュリアンは やっと解放されたが
彼を待っていたのは
ドイツ人夫妻殺しの容疑だった・・・
この二つの殺人事件を 絡ませながら
完全犯罪が徐々に崩れていく様子を
シャープな映像表現で 見せてくれる。
〇
素晴らしいのは
ジャンヌ・モローとモーリス・ロネの恋人同士が
劇中では一度も 同じ画面に登場することは無く
ラストの写真の中だけでいっしょ・・
このセンスが憎い。
定着液に浸った印画紙に 幸せなふたりの姿が現れてくる。
この写真が 社長殺しの
決定的な証拠になってしまうのだけれど
刑事 (リノ・バンチュラ)が言う。
「彼は十年、いや五年で出て来られるだろう
しかしあなたには 陪審が厳しい判決を下すだろう」
「自分のためだけじゃなく、ふたりのためにやったのよ
これから十年、二十年、私はじわじわと年を取る
でも、写真ならいつでも一緒ね。誰にも邪魔されない」
オープニングと同じように
フロランスのモノローグで終わる。
背筋まっすぐ、膝をまげずに ピン、シャンと歩く
ジャンヌ・モローの美しさに 見惚れました。
そして、
花屋のベロニク役の ヨリ・ベルダンさんも可愛いのだけど
ルイ役の ジョルジュ・プージュリー君は
この前年に ブリジット・バルドー主演『素直な悪女』
その5年前が『禁じられた遊び』
↓
名作に出演しましたが
惜しくも2000年に 60歳で亡くなったそうですね。
それにしても
1958年 25歳のルイ・マル『死刑台のエレベーター』
1959年 27歳のフランソワ・トリュフォー『大人は判ってくれない』
1960年 29歳るジャン・リュック・ゴダール『勝手にしやがれ』
当時のフランス映画界の 勢いは凄かったですね。