どっこい生きてる (1951) 独立プロ

今井正監督

今井正監督 はじめての 独立プロ作品です。

亀井文夫、山本薩夫監督等によって
設立された新星映画社と 
前進座の提携で 製作されましたので

主人公の 河原崎長十郎さんほか
中村翫右衛門、河原崎国太郎、河原崎しづ江さんなど
前進座の俳優さんたちが 多数出演されてます。

　　　　　　　　　　〇

戦争により破壊された ビルの残骸や
焼け跡の瓦礫が あちこちに残る東京。

夜が明けたばかりの
凍てつく街を走る路面電車から
何十人もの人達が ばらばらと降りて 走って行く。

目的の場所は 職業安定所である。

やがて 空が明るくなり 
受け付け時間が迫る頃には その人数も増えに増え
押すな押すなの殺人的な 凄まじい光景になる。

これはニコヨンと呼ばれる人たちで
一日働いても 240円にしかならないが
瓦礫の撤去や河川改修の
日雇い仕事を提供して貰うため 我れ先にと並ぶ。

それでも仕事にあぶれた者は
川底を探ったり 一日中歩き回って
鉄屑など拾い集めて売る。

そんな群衆の中のひとり 毛利修三 (河原崎長十郎)も
毎朝、職安に並び その僅かな稼ぎで
妻 (河原崎しづ江)と二人の子供を養っていた。

しかし、住まいとして借りていた
掘っ立て小屋の家主が 土地を売ってしまった為
立ち退きを要求され

仕方なく妻と子を 田舎にやり
自分は木賃宿に 寝泊まりしている。

何かと相談に乗ってくれる 日雇い仲間は
若いながらも頼りになる 水野 (木村功)や
口は悪いが根は親切な 秋山ばあさん (飯田蝶子)だ。

ある日、毛利は 旋盤工の経験を買われ
町工場での職が決まる。

「給料日までの 食い繋ぎの金を何とかしなくちゃなあ」

という訳で 秋山ばあさんと水野が
仲間から カンパのお金を集めてくれたが
その夜、仕事が決まった嬉しさに 飲み過ぎて
宿で寝ている間に 盗まれてしまう。

毛利は翌日、工場の社長に
給料の前借りを頼んだが 疎ましがられ
一日も働かないうちに 工場はクビになった。

途方に暮れた毛利は
遂に悪い連中の誘いに乗り
他人の地所に忍び込み 鉛管を盗んだ。

「とうとう泥棒まで やってしまった」

そんなところへ 今度は妻と子供が
田舎から上野までの 無賃乗車で警察に捕まり
毛利は身柄を 引き取りに行く。

田舎でも六畳間に6人が 寝起きする状態で
とても居られなかったと言う。

一家のあまりの みすぼらしさに
運賃支払いを許され 釈放されるが
帰る家もなく 上野駅周辺を彷徨しながら
もう、何もかも、どうしようもなく・・・

毛利の心は決まる。

有り金をはたいて
子供たちに美味しいものを食べさせ
それから家族みんなで 一緒に死ぬのだ。

妻はどこまでも反対したが
今みんなで食べた いつもよりちょっと豪華な食事代も
実は 盗みの分け前なのだと聞き 絶望し ついに納得した。

最後の思い出に 子供たちを遊園地に連れて行く。

ここで 毛利は
憑かれたように 激しくブランコを漕ぐ。

一点を見つめ、漕いで、漕いで、漕いで、
空に投げ出されるほどに 高く、高く、高く・・・

それは 恐ろしい光景だった。

妻と子供の 必死の声掛けで 我に返る毛利。

言葉もなく ぼんやり佇んでいると
近くのボート乗り場の方が騒がしく
気が付くと息子の姿がない。

息子が池に落ちたのだ。
毛利も咄嗟に 池に入った。

「しっかりして！ 死んじゃ駄目！
　死んではいけない！」

水の中で藻掻く息子に投げる
半狂乱の妻の声は
そのまま毛利の背中に ぶつける言葉だ。

毛利は無我夢中で 息子を救った。
そして 息子を腕に抱いたとき 毛利は思う。

生きよう。

　　　　　　　　　　〇

ストーリーは 思いがけないほどの展開も見せず
むしろ終始 予期する方へと進み そして終わるが
観終わったときには やっぱり胸の奥が熱くなる。

映画のはじめに
「この映画は 心から映画を愛する人々の善意によって
　製作することが出来ました」
というテロップが流れますが

実際に 一口50円の出資者を募り
その400万円で 映画は創られました。

貧しい夫婦を演じられた
河原崎長十郎さんとしづ江さんは 実際のご夫婦。

昭和28年
フランスのスター俳優・ジェラール・フィリップが来日した際
独立系映画に興味を持っていた彼は
本作ほか『真空地帯』『蟹工船』などを観て

今これらの映画が仏に来たら 
戦後 伊のネオ・リアリズムが現れた時のような
重大な意味を持ったに違いないと語ったそうです。

『どっこい生きてる』は
キネマ旬報ベストテンでは 第五位
キネ旬・第一位を5回も受賞している今井正監督ですが

この年のベストテン上位は
一位・小津安二郎『麦秋』
二位・成瀬巳喜男『めし』
三位・吉村公三郎『偽れる盛装』
四位・木下惠介『カルメン故郷に帰る』

豪華な顔ぶれですわ！
仕方ないですね。