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姉さんはもう少し優しい顔する方がいいな おとうと (1960) 大映

市川崑監督

作家・幸田文の自伝的小説「おとうと」の映画化。

脚本は水木洋子
音楽は芥川也寸志
撮影は宮川一夫

宮川一夫さんは この『おとうと』で
大正時代の雰囲気を 色濃く出すため
上映用プリントを焼く際、本来なら洗い流す「銀」をあえて残し
黒が際立ち、色彩が淡くなるという
「銀残し」という技法を生み出しました。

冒頭の 傘のシーンも
降る雨が 墨を流した如く煙り 非常に美しく
古い写真を眺めるようです。

この自伝的小説の 原作者・幸田文さんは
「五重塔」などの名作を遺した 幸田露伴の娘であり
つまり 父親役の森雅之さんは 露伴を演じたことになる。

その森雅之さんは 作家・有島武郎の長男であり
碧郎役の川口浩さんは 作家・川口松太郎の長男。
う~ん、 原稿用紙の世界ですわね。

しかし、森雅之さんと田中絹代さんの夫婦なんて
日本映画の歴史そのもの。

また、この映画で 女学生役の岸恵子さんは 当時27歳で
もうイヴ・シャンピ監督と結婚されていて
フランスに住んでらしたそうですが
市川監督から
「げんは あなたじゃなきゃ出来ない」と言われ 引き受けた。

もともと岸さんは 痩せているところに
「もっともっと痩せて 骨と皮だけになって
 野暮ったい着物をペチャンコに着て
 帯もだらしなく結んで ギスギスした げんになってくれ」と
いわれたそうで・・・

でもこの岸恵子さんの げんは本当に素敵。
確かに ほかの女優さんでは考えられない。

          〇            

女学校に通う げん (岸恵子)と 碧郎 (川口浩)は
三つ違いの姉弟である。

作家の父 (森雅之)と

リュウマチで寝たり起きたりの
後妻 (田中絹代)の間には
お互いの想いを相容れない 冷ややかな空気が流れている。

父は作家として そこそこ名は知られているが
暮らしぶりは豊かでなく 家の中は暗く
家事いっさいを げんが切り盛りしている。

父親が甘やかすから 子供らが悪くなると嘆く継母は
厳格なクリスチャンで 姉弟にも冷淡だ。
碧郎は「あの人」と呼んで ろくに会話もない。

そんな中で げんと碧郎は
時には取っ組みあいの喧嘩をするくらい仲がいい。

しかしある頃から 碧郎は不良グループに入り
本屋で万引き、取っ捕まり警察に挙げられ
学校を退学になったが
新しい学校に移っても 彼の荒れた行動は治らず
それから二年の間に 碧郎は札付きの不良になった。

ビリヤード、モーターボート、乗馬と遊びまくり
父は借金の支払いに追われ
継母はそんな父親をなじり ますます信仰にのめり込んで行く。

しかし 17歳になった碧郎は 
知らぬ間に進行していた 結核に襲われ入院した。 

げんは感染も恐れず 日々、療養所で寝泊まりし
碧郎に話しかけ、食事をし、眠り、生きた。

父は 何としても助けてやりたいと
湘南の療養所に転地させ
母は遠い道のりを 足を引きずって はじめて見舞いに来た。

その母に碧郎は 今までになく優しかった。
「足の具合が悪いのに 大変だったね」

その言葉に 泣く母。
「今日は碧郎に信仰を勧めて 信者にしてやり
 天国にやりたいと思って来た。
 でももう、あの子はいい子になって
 お祈りもいらなくなっていた」

「姉さん・・
 この頃は、真夜中の十二時というと目が覚めて
 それからちょっとの間、眠れないんだ。
 その、ちょっとの間が とても嫌なんだ」

それじゃあ、今夜は十二時から
看護婦さんたちも呼んで お茶や缶詰を開けて
茶話会をしようよと げんが提案する。

ふたりの手と手を ひもで結んで
「起きられないと困るから 十一時半になったら
 ひもを引いて 起こしてね」

そう約束した夜は 風のある、晴れた寒い夜だったが

ひもは 約束の11時半より前に引かれ
目覚めたげんは
危篤状態に陥っている碧郎を見た。

父と母が駆けつけ
医師の臨終を伝える言葉に 気絶したげんは

ややあって 看護婦室で目覚めると
はじけるように 素早くエプロンを身に着け
心配する継母に
「お母さまは休んでらして」と言い置き
気ぜわしげに 弟の病室に向かい
映画はここで 唐突に終わる。

他に
岸田今日子、仲谷昇、浜村純、江波杏子など
いい俳優さんたちが お顔を揃えています。

左より 宮川一夫、市川崑
前列左より 田中絹代・岸恵子・幸田文・水木洋子・市川崑・川口浩・森雅之


キネマ旬報ベストテン1位、監督賞など
ブルーリボン賞ベストテン1位、作品賞、主演女優賞など
毎日映画コンクール、カンヌ映画祭などなど
たくさんの賞を総なめにしました。



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