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ジェルソミーナ! 道 (1954) 伊

フェデリコ・フェリーニ監督

この年、日本に初上陸した フェリーニ作品。

ジャスミンが
この映画を初めて観たのは 新宿の名画座でした。
当時おつき合いしていた
今のダンナさんと観に行ったのですが
映画館の その雰囲気、匂いまで思い出します。

 哀しくて、哀しくて、その余韻に 映画の終了後 
観客は 誰ひとり声を発せず 立ち上がることもせず
館内はしばらく 暗闇を保ち続けました。

泣き虫のジャスミンは
頭が痛くなるほど 泣きましたが
ダンナさんも ぐしょぐしょに泣いてました。

『禁じられた遊び』など
他にも泣いた映画は 幾つもありましたが
こぼした涙の分量を計ったら やっぱりこれが一番ね。

          〇

旅まわりの大道芸人 ザンパノ (アンソニー・クイン)は
海辺の貧しい家族から
少々オツムの弱い女 ジェルソミーナ (ジュリエッタ・マシーナ)を
タダ同然のような金で買った。

ジェルソミーナは 
ザンパノと テント付きのオート三輪で旅をしながら
太鼓や口上を仕込まれる。

「ダダダン、ダン、さあ、ザンパノが来たよ ♪」

ザンパノは胸に巻いた 硬い鋼鉄の鎖を
筋肉だけで引きちぎる これがザンパノの芸だ。

そして ザンパノは粗野で
すぐに怒鳴ったり 暴力をふるう 獣のような男。

ジェルソミーナは
優しい言葉を かけてもらったこともなく
あるときは 見知らぬ町に 置いてきぼりにされ
街の女と遊びに行ったザンパノを
道端で一晩中待つこともあった。

それでもジェルソミーナは ザンパノといっしょに
太鼓や ラッパを吹いたり 道化になったりする日々に
ささやかな幸せを感じていた。

そんなあるとき いつも陽気で明るく
仲間から「キ印」と呼ばれている
綱渡り芸人の イル・マット (リチャード・ベースハート)と出会う。

彼はジェルソミーナに トランペットを教えてくれたり
ヴァイオリンで 美しいメロディを聴かせてくれる。

そして
「自分は何の役にも立たない女なの」
と 嘆くジェルソミーナに

「世の中の どんなつまらないものでも、
 この石ころでも 何かの役に立っている。
 ジェルソミーナだって役に立っているんだ。
 それは神様だけがご存じなんだよ」

彼のこの言葉は ジェルソミーナの心を打った。

しかしある日、
路上で出会った ザンパノとイル・マットは喧嘩になり
ザンパノは ジェルソミーナの目の前で
イル・マットを殴り殺してしまう。

ジェルソミーナは 倒れた彼に駆け寄り
ザンパノに訴える。

「彼はどうしたの、様子が変よ、彼は死ぬの!」

その後、彼を車ごと崖から突き落とし
誰にも知られず 逃げおおせたザンパノだったが

ジェルソミーナの受けた 衝撃は大きく
それ以来、泣き続け、そして、口をきかなくなり

しかし 何かのおりに うわごとを言うようになった。

「彼はどうしたの、様子が変よ、彼は死ぬの・・・」

呼び込みも 道化の芸も 出来なくなった
ジェルソミーナを すっかり持て余し
ザンパノはある日、眠っている彼女を

薄い毛布と お気に入りだったトランペットを置いてやり
道端に置き去りにした。


それから 数年が経った。
ザンパノは 見知らぬ海辺の町で
村の女が聴き覚えのある歌を 口ずさんでいるのを聴いた。

それはかつて
ジェルソミーナが よくラッパで吹いていた曲だった。

女に訊けば それはいつか この海岸を放浪していた
頭の弱い娘が 歌っていた歌だが
娘はその後、どこかで人知れず死んだという。

今、ザンパノは年老いて「鎖破り」の芸も出来なくなった。

その孤独の中で はじめて
尽くしてくれたジェルソミーナの愛に気づき
夜の浜辺で 激しく慟哭した。

          〇

この映画の 大きな魅力のひとつは
ニーノ・ロータ作曲の 哀切漂う主題曲です。

ジャスミンが高校生の頃は
ラジオでよく映画音楽特集を放送していましたが
この曲もよく流れていました。

何かをしていても この曲が流れて来ると
ふと手が止まり 涙が湧いて来るのでした。

ジェルソミーナ役の ジュリエッタ・マシーナさんは
フェリーニ監督の奥様ですが
本作品での演技が 
「偉大なチャップリンを彷彿させる」と絶賛されました。

そして、若き頃は
神学校を脱走し、サーカス小屋暮らしも経験
十代で駆け落ち、放浪生活・・・と
やんちゃな過去がある フェリーニ監督ですが

結婚はマシーナさんとの一度だけ。
お子さんはありませんでしたが
終生、仲が良く
1993年・73歳で監督が他界すると
妻のマシーナさんも その5か月後に亡くなりました。

ジュリエッタ・マシーナ、フェリーニ監督と 寝転がっているアンソニー・クイン

ヴェネツィア国際映画祭・金獅子賞
アカデミー外国映画賞
キネマ旬報ベストテン・第一位

おしまい





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