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ヘッドライト (1956) 仏

アンリ・ヴェルヌイユ監督

アンリ・ヴェルヌイユ監督というと
『地下室のメロディー』や『シシリアン』などの
暗黒映画が思い浮かびますが

本作や『過去を持つ愛情』など
ほろ苦く 情感あふれる恋愛映画も 日本でもヒットしました。
 
ジャン・ギャバンと フランソワーズ・アルヌール。
どちらもフランス映画界を 代表する俳優さんで
魅力的な顔合わせですね。

日本でも高倉健さんや、仲代達矢さんなど
ギャバンさんを尊敬する俳優さんは
たくさんおられたそうですが

三船敏郎さんとギャバンさんの
共演映画の話もあったとか・・・惜しかった!

アルヌールさんも
日本でも非常に人気がありました。
 「週刊文春」が 
1989年に実施した人気投票では
オードリー・ヘップバーンを抑えて第一位。
 
石ノ森章太郎さんの 
「サイボーグ009」の キャラクター003の名は
ずばり、フランソワーズ・アルヌールでしたね。


ボルドーとパリを結ぶ
定期便トラックの運転手 ジャン(ジャン・ギャバン)は
途中いつも寄る
街道筋の宿屋「ラ・キャラバン」の一室で 身を横たえた。
 
体は疲れ切っているのに 不思議に目が冴えて眠れない。
 
彼の脳裏には 
ちょうど一年前のクリスマスに この宿で出会った
女中のクロチルド(フランソワーズ・アルヌール)の 顔が浮かぶ。
  
前に来た時は 確か違う女中だった。
忙しいばかりで 愉しみの無い仕事に 
女の子は つぎつぎ辞めてしまうのだ。

20歳のクロチルドは クロと呼ばれていた。
優しく、笑顔の可愛い娘だった。

運ちゃんたちにからかわれ、ちょっかいを出されても
少しもふしだらなところのない 田舎娘である。

ジャンはこの道を通るたび
「ラ・キャラバン」に立ち寄る愉しみを知った。

パリの裏町にある ジャンの家庭は暗く寒々しく
ぎすぎすして愚痴ばかり言い立てる妻と 
生意気盛りの長女。 
疲れ果てて家に帰っても 笑顔も いたわりもなく
おかえりと喜んでくれるのは 幼い息子たちだけだ。
 
クロも孤独な娘だった。
あるとき「ラ・キャラバン」を辞めることにしたクロは
ジャンのトラックで 故郷まで送ってもらうが
再婚していた母親に追い返されてしまう。
 
行き場のないクロはまた「ラ・キャラバン」に戻り
いつしか
親子ほど年の離れた ジャンと愛し合うようになる。
 
やがて ジャンは家庭を捨て
クロと生きることを 考えるようになるが
そんな時、会社をクビになり「ラ・キャラバン」への足も遠のいた。

この頃、身重になっていたクロは
思い余ってパリに行き ようやくジャンに逢い
失業のことを知るが

そんなジャンに 
妊娠の事実を告げることも 出来ず
クロは秘かに 場末の怪しげな堕胎医を訪れた。
 
その事実を知らぬまま やっと仕事を見つけたジャンは
ふたりでボルドーの街で出直すため
いったんクロを「ラ・キャラバン」に預けようと
トラックに乗せ出発するが・・
 
暗い雨の夜
濃霧の闇を切り裂いて 浮かび上がるヘッドライト。
 
途中、体調の悪くなったクロを気遣いながら
ジャンのトラックは走り続ける。
 
容態がどんどん悪化していく クロの苦し気な表情。
堕胎手術の失敗だった。
 
とうとう濃霧のため トラックは立ち往生し
急変したクロは 
要請した救急車の中で 息絶えたのだった。

 ジャンの回想はここで途切れる。 

場面は冒頭の「ラ・キャラバン」の一室
休憩時間が終わり 下に降りて行くジャン。

「どうだね、上手くやってるかい」
仕事仲間に家族の様子を訊かれると 
ジャンは答える。
 「ああ、女房もめっきり年取ったよ、娘は相変わらず生意気で・・」
 
 初老の男が賭けた 若い娘との儚いロマンス。
しかし予期せぬ悲劇に
再び、暗い冷え冷えとした 家庭に帰るよりほかない。

 
こんな平凡な ありふれたお話ですが
街道の風に吹き寄せられる枯葉、霧に濡れるヘッドライト・・
いつもフランス映画には 深い味わいを感じます。

冒頭から流れる 
ジョセフ・コズマの すすり泣くような音楽が
この悲恋映画を さらに悲しくしています。



 

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