著書『脱力スキル』の冒頭部分(はじめに)を全文公開
12月6日、私の初めての著書『最強の身体能力/プロが実践する脱力スキルの鍛え方』(かんき出版)が発売されます。
テーマは『脱力スキル』。単なる脱力ではなく脱力の『スキル』です。
脱力の、スキル。
そうです。脱力にはうまいヘタがあるのです。
例えば時間。ヨガマットの上で、力を抜くことに時間の制約は大してありませんが(時間がかかってもOK)、スポーツにおける脱力の時間的制約は甚大です。「『この瞬間』に力が抜けていなくては高いパフォーマンスにならない」、いくら強い筋力を持っていても脱力がうまくできない(=力む動き)ことで、パワーをうまく発揮できないケースだってざらにあります。ケガにだって繋がります。
かくいう私自身も、学生野球をしていた頃は筋力は相当あるが力みが邪魔する典型例のような選手でした。ケガにも長い間苦しみました。
どれだけ頑張っても、どれだけ治療に通っても、どれだけ鍛えても、再発を繰り返した肩と肘のケガ(腰もか)。なぜなら筋肉の硬さをとることと、脱力は同じではないから。だから動くときに力んだら、やっぱりケガは起こります。私がやっていたのは筋肉の硬さをとることだけだったから。
でも、力みを抜くのって難しい。いくら「力むな!」ってコーチに言われても、「頼むから力まないで…」って自分の身体に懇願しても、脱力って思うようにできない。
なぜなら脱力ってスキルだから。
練習してきていないことだから、できる選手・できない選手に分かれるのは当たり前です。
あなたはどっちですか?
私はできない側だった。だからこそ、自分と同じ”力み地獄”を経験する人が少しでも減ってほしい。そんな想いを持って書いた本です。
はじめに
「スポーツの世界でハイパフォーマンスを発揮できる選手とそうでない
選手、その違いはどこにあるのか?」この問いに向き合ったことがない選手、指導者はいないと思います。
私自身、アスリートのパフォーマンス向上をサポートする立場になってから、この問いが頭から離れたことはありません。
世の中にはいろいろなトレーニングがあります。
どんなトレーニングを選ぶかは人それぞれ理由があると思いますが、トレーニングに求めることは、ケガをしないこと、パフォーマンスが向上することの2点に集約されるのではないでしょうか。
それにもかかわらず、筋骨隆々になるほどトレーニングしてもケガに悩まされたり、パフォーマンスが伸びなかったり、という現実はもう何十年も続いています。
そんな現実を打破すべく、私はケガなくハイパフォーマンスを発揮し続ける選手たちを徹底して分析してきました。
そして、そのような選手たちに明確な共通点があることを見出しました。
ケガに悩まされることなく、ハイパフォーマンスを発揮できる選手の共通点、「最強の身体能力」とはどのようなものなのか?
その答えが、本書のテーマである「脱力」にあります。
私自身もケガに泣かされた競技人生
少し私自身の話をさせてください。
私は中学から大学まで野球部に所属し、投手や外野手としてプレーしてき
ましたが、常に肩やひじのケガに悩まされました。
スポーツ整形外科や整体や整骨院などに通い続けましたが、なかなか治ることはなく、仕方なく筋肉を鍛える方向へと転換しました。
トレーニングを重ね、体格が変わるほど筋力は強くなりましたが、結果としてはケガの悩みから解放されることはありませんでした。
「力を入れるトレーニング」ばかりやることに疑問を感じ始めたのがこの時
期でした。
大学ではバイオメカニクスを学びながら教員資格を、その後進学して理学療法士の資格を取得しました。
そして、現在までスポーツトレーナーまたはフィジカルコーチとして、プ ロ選手を中心にさまざまなジャンルのアスリートをサポートしてきましたが、 専門家として改めて確信したのは、筋力トレーニングに代表される「鍛える系」のカリキュラムが必ずしもパフォーマンスの向上を約束するわけではない、ということです。
鍛えに鍛えた選手がケガを繰り返すようになったり、パワーはついたがパフォーマンスは低下したり、そんなケースを嫌というほど目の当たりにしてきました。
本気でスポーツに向き合っている選手がケガで悩む姿は見ていてとてもつらいものです。スポーツ選手が完全に復帰しようとする場合、リハビリはたいてい凄絶なものになります。
私にとってそういった光景は、体格が変わるほど鍛え上げたにもかかわらず、ケガとリハビリを繰り返す苦しみから解放されなかった自分と重なって
見えるのです。
もちろんケガやパフォーマンスの発揮はケースバイケースですから、短絡的に原因と結果の関係を語ることはできません。ですが、「鍛える系」カリキュラムで伸び悩んだ選手たちに共通していることとして、「力を抜くのが苦手である」ということだけは確かです。
本書では、
力の抜き入れをスムーズに自由自在に行う技術=脱力スキル
脱力スキルを身につけるトレーニング=脱力トレーニング
と位置づけ、あらゆる競技に役立つトレーニング方法を紹介します。これらは私がプロ選手を指導する際に実際に行っているものです。
なお、詳しくは後述しますが、脱力トレーニングでは特に身体の動きの根幹をなす、1肩甲骨、2背骨、3股関節の動きをよくするトレーニングを行います。
これらにより得られる、脱力スキルを身につけるメリットは4つ。
本書を手に取った方は、スポーツ系の部活動をしている学生や趣味でスポーツを続けている社会人などアマチュアとして、あるいはプロフェッショナルとして、日常的にスポーツをしている方も多いと思います。
これまでにもさまざまなトレーニングを試してきたと思いますが、脱力スキルが身につくことで、現在取り組んでいるトレーニングの効果が向上することも期待できます。
脱力スキルは単体で行うのではなく、強化系のトレーニングと組み合わせることでさらに相乗効果が期待できる、まさに「最強の身体能力」をつくる第一歩です。
ぜひ、ふだんのトレーニングルーティンに取り入れてみてください。そして日常の動作でも脱力する感覚を大切にしてみてください。
きっとこれまでとは一味違う感覚を得られると思います。 それこそが、パフォーマンスアップへの入り口です。
この本を読み始める前に、考えてほしいこと
みなさんは、力を抜くのは得意ですか?
私はふだん、多くのプロ選手たちに対してパフォーマンスアップを目的としたトレーニング指導を行っていますが、選手たちの悩みの大半は、「力を入れるのは得意だが抜くのが苦手」というものです。
動作の中で力を抜くべきところで抜けない
過剰に力んでしまう
そのせいで高いパフォーマンスが発揮できなかったり、ケガをしてしまったり、プロであっても多くの選手がそんな悩みを持っているのです。
ですが、うまく力を抜けないことに選手自身が問題意識を持っていても、どうやって「力を抜く能力」を鍛えればよいのかがわからない。
そんな選手たちが私にトレーニングの指導を依頼してきます。
なぜプロ選手は力を抜こうとするのか?
ではなぜ、プロ選手たちは力を抜くことを意識するのでしょうか?
試合や練習で、「力をもっと入れろ」と言われるよりも、「もっと力を抜け」「もっとリラックス」と言われることが多いのはなぜでしょうか?
試合後の勝利インタビューで、「うまくリラックスできました」「力みを抜 くことを心がけました」という選手がたくさんいるのはなぜでしょうか?
実際にプロ選手たちは、パフォーマンスを発揮しようとする直前に身体を揺すって緊張を解除(脱力)しようとします。
トップアスリートなら、なおさらです。しなやかな動きだけでなく、パワーを出すときにも必ず一度力を抜いた状態をつくろうとします。
このことは、身体が緊張して固まっていたら、高いパフォーマンスは発揮できないこと強い力を出すには、力を抜いた状態からスタートしなければならないことを選手たちが感覚的にわかっていることを示しています。
本書のタイトルは『最強の身体能力』です。「最強」という言葉から、みなさんは筋骨隆々の肉体をイメージしたかもしれません。
しかし、筋力が強いこととパフォーマンスが高いことはイコールではないし、筋力が強いからといってケガをしないわけでもありません。
もうおわかりかもしれませんが、「最強の身体能力」と「脱力」は切っても切れない関係にあります。
脱力は「センス」ではなく、「スキル」である
しかし残念ながら、力を抜くことは、口で言うほど簡単なことではありま
せん。
だからこそプロ選手たちも自分のパフォーマンスを上げるための課題とし
て「脱力」を掲げます。
このように解説すると、上手に脱力できるかどうかは〝天性のセンス〟的
な扱いを受けやすいのですが、そんなことはありません。
「脱力」は能力であり、能力である以上は適切なトレーニングによって必ず
向上します。
その方法を本書であますところなく解説していきます。
スポーツトレーナー/理学療法士
中野崇
以上です。
ありがとうございました。
全てはパフォーマンスアップのために。