私がジェット・リーのカンフー映画を薦める理由
以前、中国語を学ぶきっかけになったのは三国志だという話をしましたが、もっともっと遡ると中国文化のイメージを形作ったのは紛れもなくカンフーアクション映画でした。ジャッキー・チェンの「酔拳2」や、ブルース・リーの「燃えよドラゴン」は読んで字の如くビデオテープが擦り切れるまで観ていましたが、中でも私の心を鷲掴みにしたカンフー映画は、ジェット・リー主演の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」でした。
まず、ジェット・リー(李连杰)誰?っていう方のために軽く紹介すると
・1963年、中国遼寧省瀋陽市生まれ
・8歳から中国武術を学び1979年までに中国全国武術大会で個人総合優勝5年連続という偉業を成し遂げ、中国武術界の至宝と称される
・1982年、「少林寺」で映画デビュー。その後「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」や「HERO」、中村獅童さんと共演した「SPIRIT」、ハリウッド映画の「ザ・ワン」など数多くのカンフーアクション映画で活躍
小学生の頃、「ブルース・リー」と「ジャッキー・チェン」どっちが強いと思う?みたいな会話がクラスでよくあったんですが、私は決まって「その2人ならブルース・リーだけど、ジェット・リーはもっとすごいと思う」と答えていました。もちろん周りの反応は誰それ?的な感じでしたが、今にしてその感覚は間違っていなかったという自負があります。
喧嘩で強いかどうかはわかりませんが、ジェット・リーは中国武術の基礎的な鍛錬や、各種拳法、さらに刀術に剣術、棍術、槍術、三節棍などありとあらゆる武術を習得していて、上述の通り表演武術の大会でも前人未到の成績を収めているので、スピード、パワー、跳躍力などの圧倒的な身体能力はもちろん、中国武術の道理に則った身体の使い方に幾何学的な美しさを感じていました。ちょっとマニアックですが武術で瞬間的に力を集中させる発勁(はっけい・ファージン)という技術がありますが、ジェット・リーのそれは映画で観てもハッキリ分かるほど芸術的です。
実はジャッキー・チェンの代名詞である酔拳も、ジェット・リーがやるとアクションというよりは極めて武術の理念に忠実な動き(身体の伸縮や発力・発勁、目線を整える眼法など)で実践可能で、ジェット・リーが酔拳に剣術を合わせた酔剣を披露している映画もあります。私が大学生になって中国武術を学んだのも間違いなく幼い頃に観たジェット・リーの映画の影響です。
ちなみにジャッキー・チェンやブルース・リーも、もちろんアクション俳優という意味ではとてつもない偉人ですが、私にとってカンフーの美しさという点では、なんといってもジェット・リーでした。
わたくしごときがいくら御託を並べたところで仕方ないので、これを観ればジェット・リーの魅力が堪能できる!という映画をいくつか紹介します。
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地大乱
ジェット・リーの代表作でもある「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」シリーズの2作目「天地大乱」では、ワイヤーアクションを駆使した白蓮教教祖との奇想天外なバトルシーンと、ほぼ同期で本域の武術家であるドニー・イェンが広州警察提督を演じて、ジェット・リーとの超ハイレベルな武術アクションを繰り広げています。ドニーが作品用に考案した「布棍」も話題になりました。ぶっちゃけ、この映画だけ観てもジェット・リーの超絶カンフーアクションの虜になること間違いなし!なのでぜひご覧あれ!
少林寺
上述のワンチャイシリーズを一通り観たら次にトライしてほしいのが「少林寺」。ジェット・リー(当時は日本でもリー・リンチェイと言われていた)の映画デビュー作にして、中国武術の代表格として名高い少林寺を舞台にした作品。日本でも中国の少林寺っていうとそこそこ有名だと思いますが、この映画の影響も大きいかもしれません。
ジェット・リーのほかにも、蟷螂拳を使う師匠のユエ・ハイ(于海)やフー・チェン・チャン(胡堅強)などの本物の武術家を使い、すべてスタント無しで撮影された超ストロングスタイルの武侠映画としても有名です。
中でも、ジェット・リーの修行シーンは圧巻!
徒手空拳の「長拳」や、武器術も三節棍、刀術、槍術まで、多くの武術家が憧れた身法を目の当たりにすることができます。
HERO
チャン・イーモウ監督作品で、ジェット・リーは秦始皇帝の命を狙う刺客「無名(ウーミン)」を演じ、トニー・レオンや、先ほどのドニー・イェンなどのライバルとワイヤー&CGを駆使したカンフーアクションを繰り広げます。ストーリー展開や映像演出はさすが巨匠チャン・イーモウ、素晴らしかったのですが、ジェット・リーの体術がワイヤーを若干多用しすぎたことで目立たなくなっちゃったのがもったいなかったような気もします。
チャン・ツィーほか、超豪華アクションスターが集結しているという点では、やはり外せない名作ですね。
ドラゴンキングダム
2008年公開の米中合作映画で中国語題は『功夫之王』。誰もが望んだジャッキー・チェンとジェット・リー、夢の初共演となった映画でした。
なんといっても見ものはリーとジャッキーの格闘シーン。二人の歳の差は10歳近くあるのとお互い体力的な全盛期は過ぎていたとはいえ、そのスピードやバネは衰えを感じず、歴史に残るアクションになっていたかと思います。この映画公開当時、私の中国武術の先生と観に行ったのですが先生は「やっぱりジェット・リーの方がスピードはあったね」と言ってました。正直、素人に毛が生えたレベルの私からしたらそこまで遜色ないと思えるぐらいジャッキーの動きも神がかってました。どっちかといえばジェット・リーの土俵でのアクションだった気もするし・・超一流同士、肌を合わせたら通じるものがあったのでしょう。
ちょっともったいないなぁと感じたのは二人の衣装がダボダボだったので、身体の動きがわかりづらかったことでした(あえてベールに包むためにそうしたのかな?)。あとはストーリー構成はやや支離滅裂ではありましたが・・ともあれカンフー映画を追いかけてきた人間としては、この二人が同じ画面で会話したり闘っている姿を見れただけでも感涙モノでした。
そんなジェット・リーもすでに還暦を迎えています。
まだまだ元気に武術を続けてほしいですね。