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忠告

 文化祭の打ち上げでお好み焼きを食べ、夜風に吹かれながら公園で色々お喋りする。青春の1コマを存分に味わった。楽しい時間はあっという間に過ぎ、遅くならないうちに帰らねばと皆帰路へ着く。

 どうやら24時前に家へ着けそうだ。とある駅の駐輪場の薄暗い公衆トイレへと入る。

「高校生か? 早く帰れよ」

 隣に立ったおそらく20代後半ぐらいの男に声を掛けられた。公衆トイレにありがちなアンモニア臭にアルコールの匂いが混じる。
不意に声を掛けられて萎縮する。小声ではいと答える。
 薄暗いどころか明かりはほぼ無いに等しい。
駅の明かりと駐輪場の街灯が弱々しい光を与えている。

「勉強しろよ 俺みたいになるなよ」

 余計に返事しづらい。逃げるように公衆トイレから出る。手洗い場では切れかけの電球が急かすようにチカチカと光っていた。

 幸いにも自転車の駐輪場所はそのままで、朝と同様にフェンス沿いにあった。少し安心して鍵を解除する。

「ハヤクカエレヨ」「ベンキョウシロヨ」「オレミタイニナルナヨ」

 まだ声がする。電車の音に混じって。
少なくとも「早く帰れよ」は今からやります。
テレパシーよろしく返事をする。
駐輪場を抜けて少し漕いでから安堵する。

「ベンキョウシロヨ」「オレミタイニナルナヨ」
再び声がする。自転車で風を切る音、時折通る車の音に混じって。
しばらくの間、真面目に授業を受けた。

「俺みたいになるなよ」
みたいに、とのことだが具体的には?
見知らぬ、かつおそらく酔っ払いに聞けるはずもない。

 しかし、これだけは今の私にも付き纏っている。もしかすると例の男性は"未来からきた私"じゃなかろうか。

 今は月に1回程度、その駅へ行く。
駅周辺の大規模な再開発により、駐輪場はビルに生まれ変わった。当時の公衆トイレは跡形もない。

 あの薄暗い公衆トイレはタイムマシンの出口だったのか。それを確かめる術はもうない。

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