見出し画像

バチェラーデートのはずがバチェラーエイトだったのは私だけだろうか

『探さずに、出会える』

これはバチェラーデート公式サイトより引用したフレーズである。バチェラーデートとは”AIによるマッチング”をウリにしたマッチングアプリであり、なんとユーザーが操作をすることなくアプリ側が自動でマッチングとデートを設定してくれるというものだ。

「はじめまして、マッチありがとうございます!」「お仕事は何をされていますか?」「休日は何をして過ごしますか?」といったユーザー辞書に登録したくなるメッセージを交わす必要なく、自分好みの相手とのアポが取れる。そんな奇跡のようなアプリをダウンロードしない人間が、マッチングアプリ玄人を語るわけにはいかないだろう。

操作不要とはいっても、もちろん初期設定は必要で、自分の見た目や性格などのプロフィールを複数の選択肢の中から選ぶところからスタートする。続いて好みの相手の条件などを同じく選択肢から選び、準備は完了。『興味のあるお相手の職業』という欄があったため、画面にヒビが入るレベルで力強く『経営者』を選択したのは言うまでもない。

ちなみにこの文章はアプリのPRでもなんでもなく、単なる1ユーザーの体験談であるため安心して読み進めてほしい。

『デートのお相手が決定しました』

嬉しい通知がスマホに届く。デート相手のプロフィールはデート前日にならないと表示されない仕様になっているうえ、お互いの写真は公開されない。さらに前日のキャンセルはキャンセル料が発生するというなんとも巧みなルールに感心してしまう。

その数日後、デート前日にアプリを開くと29歳の経営者のプロフィールが表示された。もちろん私の頭の中の辞書に”キャンセル”という文字はない。

デート当日、アプリの運営に指定されたダイニングバーに行くと、彼は先に席についているようだ。

「お待たせしました!」

声帯の普段使わない部分を駆使しながら、できる限りかわいらしい声を出してみる。席について正面から彼の顔を見ると、私の頭の中にある曲が流れた。

♪その香水のせいだよ

似すぎている。むしろ本人かと疑ってしまうレベルで似ている。途中で彼がお手洗いに立った隙に、必死でその歌手の年齢や出身地をググってしまうほどに酷似していた。

肝心な会話はそれなりに盛り上がったような気がするが、私の頭の中ではあの曲が永遠とリピートされてしまい、とても話に集中することができなかった記憶がある。唯一覚えているのは、香水はなにを使っているかという、彼の顔面に引っ張られすぎている質問をしたことだけだ。

けして顔が悪いとか嫌いだとかいうわけではなく、とにかく似すぎていて話が入ってこなかった。

後日、スマホの通知に気付いて画面を見ると、また別のデートが決定したというメッセージが映し出された。次は余計なことを考えずに会話に集中しようと気合を入れ、当日のデートに向かう。

当日、待ち合わせ場所のカフェの前に立つ36歳の経営者を見つけたとき、私の頭の中に再度あの曲が流れた。

信じられないことに、またあの歌手に酷似した男性が相手だった。もう私の頭の中はドルチェ&ガッバーナでいっぱいである。思わず紅白の出場経験があるか聞きそうになってしまった。

2度あることは3度あるとはよくいうものだが、3度目の正直と思って参加した次のデートに登場したのも、32歳の経営者を名乗るあの歌手であった。いや、もちろんあの歌手ではないのだが、もう私にはそれにしか見えない。ここまで来ると誰かに何かを仕組まれているのではないかと不安になってくる。

それ以降、私がそのアプリを開くことはなかった。バチェラーデートだと思ってダウンロードしたのは、どうやらバチェラーエイトだったようだ。

とはいえ、私の要望通りに25〜39歳の経営者とマッチングすることができたし、男性は完全審査制ということもあり、みなさん良識のある素敵な方だったという事実は付け加えておきたい。

この不思議な体験をしたのは私だけなのだろうか。ぜひ他のユーザーの体験談も聞いてみたいものである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?