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米津玄師 色気の正体。禁断のセクシャルワード

「米津玄師の歌詞を因数分解して分かったこと」<第3章>

*プロローグと第1章、第2章はマガジンでご覧ください。

色気を大別すると肉体性と精神性に分かれると思う。

 肉体的な色気とは、ダイレクトに性的興奮を呼び起こし生物の本能に訴えかける。例えば扇状的な言葉やヌードグラビアなどのセクシーな肉体の誇示がそれに当たる。ある意味、単純で健全だ。

 一方、精神的な色気とは朧げに変幻し、想像力を刺激する。裸体はおろか肉体が存在せずとも気配だけで色香が燻る。受け取り方で意味も移ろい着地点が定まらない。官能的でありながら肉体性は覚束ない。

 米津玄師の発する色気は後者の比率が圧倒的に高いと思う。

それが歌詞にも色濃く現れている。

キスはしない?させない??

 歌謡曲でもJ-POPでも頻出している最もライトな性的表現「キス」。しかし、米津の場合、このワードの出現回数はわずか2回。キスの言い換えである「口づけ」「接吻」と言った言葉も一切ない。

 うち1回は「マセガキたちが隠れてキス(クランベリーとパンケーキ)」しており歌中の主人公の行為ではない。

 唯一キスを交わしているのは「ブルージャスミン」だが、温かな幸福感はあってもエロスは感じられない。

 また、キスする部位として一般的な「唇」と言う言葉も1回も登場しない。PLACEBOに出てくる「リップ」は唇そのものではなく、グロスもしくは口紅のようだ。

 内臓や分泌物も含む肉体を表す言葉は、全88曲中83曲で述べ232回も使用しているのにだ。

 これは、かなり意外だった。多くのラブソングで多用されているキス関連の言葉をあえて避けているのだろうか?

触れたいと思うのは
「頬」「髪」「まなじり」

 スキンシップについて調べてみると、触れたくても触れられないもどかしさが窺える。触れたい女性の部位は「頬(春雷)」「髪(ミラージュソング)」「まなじり(フラミンゴ)」。
すべて首から上でありボディには触れようとしていない。「肌」と言う言葉も1度だけ春雷で使われているが、結局触れていない。

 実際に女性の身体に触れているのは、「PLACEBO」の「触れていたい」と「vivi」の「からだに触れて」だけである。

 ただ、ラブソングに限らず
手にはよく触れている。

いつまでも 手をつないでいた
(Flower Wall)
重なった手と手に握られた
(夜の街路に夜光蟲)
超えられない夜を越えようと手をつなぐ
(アンネクライネ)
手をつなごう 意味なんかなくたって
(サンタマリア)
君の手が触れていた 指を重ね合わせ
(まちがいさがし)

笑おう 手を取って ほら
(ウィルウィスブ)
手をつないで 走って行けるはずだ
(ピースサイン)
手を取って 僕らと行こうぜ
(アンビリーバーズ)
円満で終ろうや 手をつないでさ
(笛ふけども踊らず)

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 この美しい手を知っていれば、上記の歌詞だけで十分すぎるほど色気を感じることだろう。ナイスバディガイの素っ裸よりもずっと色っぽいと感じるのは、手フェチだけかもしれないが。

 もう少し大人の官能表現はないか探してみたところ、キスもスキンシップもほとんどないのに、いきなり「抱いていた」と言う言葉が見つかった。

 しかし、抱いていたのは女ではなく”ボロいテディベア”(ナンバーナイン)だ。「抱く」系は他に「抱きしめて」があったが、こちらも”悲しみと痛み”(リビングデッドユース)を抱きしめていた。

 「抱く」の他に「寝る」もメイクラブの婉曲的な言い方であるが、米津の歌詞には「眠る」はあっても、「寝る」は活用形を含め一切ない。

手をつなぐのが精一杯のプラトニックラブ?

 では本当にプラトニックばかりなのかと言うと、そうでもない。

 クランベリーとパンケーキには「その日限りの甘い夜を抜け」と言う”一夜限りの恋”を匂わせる歌詞がある。この曲には「汚れたシーツを洗おうね」と言う生々しい歌詞があり、最もセクシーな曲としてファンをザワつかせているようだが、私の解釈は全く違う。これについてはまた別の機会に。

 TOXIC BOYに出てくる「アバンチュール」も一時的な火遊びを意味する。「百鬼夜行」には「腰やら股やら働かせ またお手軽欲望貪れば」と春画のような歌詞がある。ハチ時代の「結ンデ開イテ羅刹ト骸」に出てくる「子作りしようか」と双璧の乱痴気騒ぎだ。

 しかし、せいぜいこの程度である。こうして分析してみると、米津はセクシャルワードをほとんど使っていないことが分かった。

 ちょっと想像してみて欲しい。

例えば下記のような、米津が今まで使用してこなかった言葉だらけの新曲が出たとしたらどうだろうか?

「長く甘い口づけを交わす」
「熱く口づけるたびに」
「無邪気に欲しくなる」
「あなたの素肌 冷たすぎて」
「焼けるような戯れの後に」
「きつく抱きしめるたびに」
(オリジナルラブ「接吻」より抜粋)

 あくまでも私見であるが、ここまで濃厚でダイレクトだと逆に米津の色気が削がれる気がする。カラオケで歌うくらいにとどめてほしい。

薄衣に透けるような
寸止めのチラリズム。

 これが米津の色気の正体だと思っている。
情欲はもどかしいくらい抑制された言葉に、そっと忍ばせてこそ妖しく滲みてくる。

来年には三十路を迎える大人の男 米津玄師に期待したい。

 最後に、ただ1曲だけ若い衝動に任せたエロい暗喩だらけの曲がある。
「MAD HEAD LOVE」だ。MVと歌詞を合体させるとR18指定した方が良さそうだが、既に4400万回も再生されている。手遅れだw

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