クリスマスプディングを作ってみた
十一月も終わりに近い朝を思い浮かべてほしい。今から二十年以上昔の、冬の到来を告げる朝のことだ。
…「ねえ、ごらんよ!」と彼女は叫ぶ。その息は窓を曇らせる。「フルーツケーキの季節が来たよ!」
(カポーティ『クリスマスの思い出』村上春樹訳、文藝春秋、1990.11)
これは、カポーティの『クリスマスの思い出』の冒頭。
11月のある日になると、主人公の僕と、年が60歳近く離れた彼女はクリスマスのフルーツケーキを作り始める。
ここに登場するフルーツケーキとは少し違うけれど、私が常々クリスマスに作りたいと思っていたものがある。
この本を読んで、さらに作りたくなった。
そこで、今年はクリスマスプディングを作ってみることにした。
クリスマスプディングとは、イギリスでクリスマスに食べられている伝統的なお菓子のこと。
ドライフルーツやナッツがぎっしり入ったドーム型の巨大蒸しケーキみたいな感じ。
お酒とスパイスが効いていて、ずっしり重たい茶色の食べ物。見た目の質素さも相まって、非常にイギリスらしい食べ物だと思う。
食べるときには十分温めた後ちょっぴりブランデーをかけて、ライターの火をつけフランベするのが正式らしい。
それからカスタードなどをかけて食べる。甘い。
自分がイギリスにいたときも、この時期にはどのスーパーにもあらゆる大きさ・あらゆる値段のクリスマスプディングが置いてあった。
このように、今ではイギリス中どこでも簡単に手に入るお菓子だけれど、昔は各家庭クリスマスの1ヶ月以上前から仕込んで、しばらく寝かせてクリスマスに食べていたのだとか。
11月も後半を過ぎ、僕と彼女がフルーツケーキを作る頃、私もクリスマスプディングに着手することにした。
クリスマスプディング作りには2日間かかる。
まず1日目にドライフルーツをブランデーに浸け、2日目にそれを他の材料と一緒に混ぜ、蒸す。
1日目
材料はこちら。
レーズン、サルタナレーズン、カレンズ、プルーン、オレンジピール、すりおろしたレモンの皮、レモン果汁、オレンジ果汁、刻んだアーモンド。
これらをブランデーに浸して混ぜ合わせる。
これだけでもう美味しそう。
これを冷蔵庫に入れて一晩寝かせる。
2日目
ここで中力粉や砂糖、パン粉、卵、塩、ベーキングパウダー、りんご…と新たな材料が登場。
見慣れない材料がふたつ。
ケンネ脂とミックススパイス。
ケンネ脂はスエット、牛脂のこと。
こまかく言えば、焼き肉で使うようなただの牛脂とは違うようだけれど、私がデパ地下の精肉店で入手したのはいかに。(謎)
ミックススパイスは、シナモンやカルダモン、ジンジャーなど数種類のパウダースパイスをミックスしたもの。
クリスマスっぽい香りがする。(気がする。)
これらを全部混ぜ合わせ、本来はプディングボウルに入れるのだけれど、プディングボウルは持ってないので、普通の器に入れる。
その上にクッキングシートを乗せる。
さらにその上からクッキングシートとアルミホイルを被せてたこ糸で結ぶ。
それから沸騰したお湯の中で6時間以上蒸す。
レシピでは6時間~8時間と書いてあるのが多いので、念のため7時間蒸す。
水を足すため鍋の蓋をあけるたびに、スパイスとブランデーの香りを吸い込む。イギリスの香りだ…。
鍋から取り出したらよく冷まし、クッキングシートとアルミホイルを新しくする。
おおお、ちゃんとプディングっぽくなっている…!
そしてクリスマスまで冷蔵庫へ。
材料を揃えるのはちょっと手間がかかったけれど、作り方自体は簡単だった。
願い事をしながら材料を混ぜて作り、本来はコインをプディングに入れ込んで食べたときにコインが出てきた人は幸せになれるという縁起の良いお菓子。
そう考えながら作るだけで、なんだかわくわくした。
さて、クリスマスプディングの出来はいかに。
それが分かるのはクリスマス。どうか腐っていませんように。