新しい文字組みを求めて -卒業制作 "CONSTRUCTION TYPE"
多摩美術大学統合デザイン学科4期生の道木ジェイミーです。
今回は卒業制作の"CONSTRUCTION TYPE"の振り返りと紹介記事を書こうと思い立ち、noteを書き始めました。
新しい文字組を求めて
私が制作した"CONSTRUCTION TYPE"はタテ・ヨコ・ナナメに組むことのできる書体制作プロジェクトです。
本プロジェクトで制作したのは"Amembo Slab"と"Octagon Sans"です。
卒業制作展示にて展示したのは、この2書体を用いた6枚組みポスターと映像です。
本制作のコンセプトは「構造をつくる文字組み」です。
従来の横組み前提の欧文書体ではなくタテにもナナメにも文字が組める書体を作った時、それはいったいどんな書体になるのか、どんなビジュアルができるのかを探究したプロジェクトです。
それは、タイポグラフィによって作られるビジュアルの新たな可能性の探究であり、整備し尽くされた世界で新たなフロンティアを探す必死な旅でした。
コンセプト着想のタネ
本制作のおおもとは、欧文文字デザインです。
その文字を巧みに操り、読みやすさや美しさをつくるのがタイポグラフィだと考えることができます。
欧文タイポグラフィは絶対的な横組みの文化であり、厳格なルールとシステムが存在します。それらの優れたルールやシステムを活版印刷や写植、現代のDTPシステムでも踏襲しています。
文字デザインやタイポグラフィ表現は、決められたこの基本ルールの中でいかに美しいもの、奇抜なもの、普遍的なものを作るかという領域です。
このように狭く限定された領域だからこそ、クリエイターは想像力を膨らまします。
数々の創造的な書体は生まれ、近現代グラフィックデザインの基盤になったグリッドシステムが誕生するなど、タイポグラフィ&タイプデザインはここ1世紀でとても大きく前進したようにも思われます。
これらの偉業の数々は、横組みの厳格なルールの上に発展したことは事実です。
しかしまた、文字デザインは飽和状態にあるのも事実です。
最大手書体検索サイト「MyFonts」は「書体収録数130,000以上!」と謳ってますが、文字デザイナーにとっては130,000ものライバルがいるということです。
街中で目にするのは有名な書体ばかりであり、埋もれた書体は日の目を見ることなくデータの海に沈んで行きます。
私は、文字デザインで卒業制作をこなすにあたり、上述したことに直面しました。普遍的な文字のデザインを目指しコツコツと邁進することも悪くありませんでしたが、文字デザイン未経験の日本語圏の男が、独学、制作期間半年で欧文を作り、学べることはいったいどんなことでありましょうか。頭を抱え、途中で逃げ出す姿が目に見えます。
なので私は異なるアプローチをとることになるのですが、いくつかの強く影響を受けたモノがありました。
それらを紹介します。
「文字講座」
「文字講座」という書籍の中で書かれている日本を代表するタイポグラファー白井敬尚さんの、グリッド・システムを中心とした近代のタイポグラフィの解説がありました。
グリッド・システムは70年代、80年代を通して、様式、方法論として確立してくるわけですが、同時に70年代にはそれとは異なる動きも出てきています。(中略)オクタヴォはレイヤーを幾重にも重ねてグリッドを細分化し、ついには方眼ユニットまで還元させる --- つまり、グリッド・システムを再び鋳造活字のユニット・レヴェルに戻したといえるのです。
(中略) オクタヴォが方眼のレヴェルにまでグリッドを細分化させたものであるとするならば、エミグレはドットのレヴェルにまでグリッドを細分化したといえるでしょう。
グリッドの細分化はそれまでグリッド・システムによって維持されていた秩序の解体を意味しているといえます。
本章ではグリッド・システムから現代までの欧州でのレイアウトの潮流の解説がされています。
今まで目にしてこなかったグリッド・システム、欧文組版にまつわる事象や発展形を目にし、私は組版ルールというものを強く意識しました。
レイアウト・システムの潮流を解説している書籍を読むのは初めてでとても興味深かったことを覚えています。
Galeries Lafayette Champs-Élysées
MM(Paris)によって制作され、TDC2020グランプリを受賞したGaleries Lafayette Champs-Élyséesのビジュアルシステムです。
全ての文字がユニットの組み合わせからなり、正方形、文字間0、行間0の文字をデザインし、強烈なビジュアルを作り出しています。
私はこの表現にまさしくショックを受けました。この書体で組まれた文字組みは「造形物」とでも言えるでしょう。
"CONSTRUCTION TYPE"のコンセプトにおける本作品の影響は大きいです。
以上の事例とその他様々な影響もあり「横組み書体開発」ではなく「タテ・ヨコ・ナナメ組み書体ルール設計 & 書体開発」の制作に乗り出したわけです。
反省
結果として二つの書体を作り、それぞれの書体の組み方を模索しました。
横組み文字デザインではなく、組み方事態を模索し、デザインできたことはとても満足できましたが、制作物のバリエーションやルールをより明確に提示したモノなども制作できたという懸念も残ります。
また本制作は、「新しい文字組み」におけるタテヨコナナメバージョンなだけであり、他にも様々な文字組みのかたちがあると思います。
それらを探究することも可能であり、本プロジェクトを今後ともコツコツと続けていきたいと思っております。
あとがき
こんなヘタッピな文章を読んでくださりありがとうございました。
この記事が本制作に興味を持ってくださった人、これから卒業制作に取り組む人、タイポグラフィやタイプデザインに興味がある人の助けになれば幸いです。
また質問などいつでもご連絡ください。
タイポグラフィよ永遠なれ。