拙作『海王の船団』について
ノルウェー王朝史 『ヘイムスクリングラ』 に収録されている 「オーラヴ・トリュグヴァソンのサガ」 を、オーラヴ王の仇敵であるエイリーク侯の側から書いた物語です。
いわゆる〈ヴァイキング時代〉とは、ノルド人とかデーン人と呼ばれたスカンディナヴィアのヴァイキングがブリテン島のリンディスファーン修道院を襲撃した793年から、ヴァイキングの血を引くフランスのノルマンディー公ギョームがウィリアム1世としてイングランドの王位に就いた1066年くらいまでを指すといわれています。
その後、200年の時を経て、伝承をもとに書かれた散文作品がアイスランドで生まれました。それらの作品群を総称して〈サガ〉と呼びます。後の時代の人々が作った物語なので、すべてが真実ではないにせよ、ヴァイキングの日常や慣習を知るには有益な文献です。
ただ、サガの中でも、13世紀にアイスランドの詩人・歴史家・政治家スノッリ・ストゥルルソンが著した『ヘイムスクリングラ』 のような〈王のサガ〉は、王の系譜と事績を著すのが目的であるがゆえ、物語としては少々面白みに欠けるところがあります。
そこで、 淡々と語られるサガの雰囲気を損なうことなく小説として魅力ある物語にするために独自の創作を加え、登場人物の心情描写などに留意して書いたのが本作です。
オーラヴ王もエイリーク侯も著名な戦士で、生き様がカッコよくて大好きなのですが、今回の話で私が一番気に入っている登場人物はテュリ王女。
テュリはデンマーク王ハラルド・ゴルムソン (青歯王。Bluetooth の由来となった王で、ロゴマークの複合ルーンは彼のイニシャルのルーン文字を組み合わせたものです) の娘で、兄はアニメ化もされた人気漫画 『ヴィンランド・サガ』 (幸村誠 著) にも登場したスヴェン双髭王。彼女は兄が決めた政略結婚が気に入らず、ノルウェー王オーラヴ・トリュグヴァソンのもとへ走り、彼と結婚しました。
王のサガの主人公はやはり王ですから、王族であっても女性に関する記述は非常に少なく、テュリについても詳しくは語られていません。
「オーラヴ・トリュグヴァソンのサガ」 での彼女は、贅沢三昧に育った我儘な女性という印象が強いのですが、気乗りしないまでも一旦嫁いだヴェンドランド王のもとを去った経緯にはきっと様々な出来事や彼女自身の想いがあったはず……と推測し、王女という立場にありながら、奔放な生き方に憧れ、自ら人生を切り拓く選択をした清々しい女性として描きたいと思いました。
もう一つ、本作で注力したのがスヴォルドの海戦です。
ヴァイキングの海戦のなかでもとりわけ有名な戦いで、オーラヴ王の〈長蛇号〉とエーリク侯の〈鉄鬚号〉、二隻の素晴らしい竜頭船への憧れが気分を盛り上げてくれ、心躍らせながら書き進めることができました。
少々取っ付き難い印象もある王のサガを読みやすい物語にした本作、サガの内容を知っていても知らなくても、お愉しみいただけると自負しております。ヴァイキングが好きな方はもちろん、西洋史に興味がある方にも手に取っていただけたら嬉しいです。
破竹の勢いでノルウェー統一を果たした戦士王オーラヴ・トリュグヴァソンと彼を仇敵とするバルト海の覇者エイリーク・ホーコナルソン。
兄に反発し、己の生き方を模索するデンマーク王女テュリ・ハラルズドーティル。
ヴァイキング時代における有名な海戦 「スヴォルドの戦い」 で激突する二人の男と一人の女の物語。
【書籍】
文庫(A6)、140ページ
表紙カラー(クリアカバー付)、関連地図付き
著者 JAMIE 装画 びねが~
2020年1月19日 第一刷 (第四回文学フリマ京都)
電子書籍(Kindle版)もあります。
Kindle版には関連地図を入れていないので、よろしければ拙作の地図をお持ち帰りください。
長々と書いてしまった拙作の紹介文、最後まで読んでくださってありがとうございました。
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