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オランダの歴史もの映画『ウォリアー』(原題『REDBAD』)2018年

8世紀のドレスタッドを舞台に描いた映画『ウォリアー』(原題『REDBAD』)を Amazon Prime で観ました。

主人公レッドボットは実在したフリース人の王、敵役はメロヴィング朝末期のフランク王ピピン2世(中ピピン)と宮宰カール・マルテル。
フランク王国がフリースラントを支配下に置くために当地を侵略しようとした、フリースラント - フランク戦争の時代です。



製作国はオランダですが、主人公の妻がデーン人という設定でユトランドの情景もあるからか、エンドロールを見ると、デンマークの映像会社がかなり協力しているようです。
北海沿岸の平らな湿地が広がるフリースラントで繰り広げられる戦闘場面はなかなかの見ものでした。

主人公の妻フレアはユトランド(デンマーク)の首長の娘で「楯の乙女」。美しくて強い女性は素敵ですね。

私の好きなシーンの一つに、レッドボットとフレアがお互いの言葉(フリース語とノルド語を現代のオランダ語とデンマーク語に置き換えてありました)の一人称単数形(英語の I )をオランダ語の ik とデンマーク語の Jeg で教え合う場面があって微笑ましかったです。
古ノルド語での一人称単数形は ek なので、さらにオランダ語に近いです。古フリース語はどうだったんだろう?
現代の言葉よりも、二人は意思の疎通がしやすかったでしょうね。


主人公レッドボットと妻フレア。中央はフレアの父


映画同様、史実のレッドボットも異教徒で、フランク王国によるキリスト教の布教に屈しなかったようです。
ゲルマン民族共通の信仰といえば、北欧神話の神々がよく知られています。
(北欧のオーディン、トール、フレイ、フレイヤは、オランダやドイツではヴォータン、ドンナー、フレイ、フレイヤ)

レッドボットの治世下(680年代~719年頃)、フリース人とフランク王国は何度も戦い、勝ったり負けたりしていました。

フリースラント王として名前が知られているのは、アルドギスル(映画ではレッドボットの父)、レッドボット、ポッポ(映画ではレッドボットとフレアの息子)の3人のみ。
ポッポが734年のボーン川の戦いで敗れ、戦死した後、フリースラントは完全にフランク王国の支配下に入ったようです。


フリース人の戦士たち


異教時代のフリースラントの地味で野蛮で垢抜けない雰囲気に対し(これはこれで良い)、フランク王国は文化的で洗練されたキリスト教国として描かれています。
当時のフランク王国における実質的な統治者カール・マルテルが卑怯千万!いい味出してます。


悪役感たっぷりのカール・マルテル(笑)


彼はピピン2世の庶子(側室の子)です。
この作品では、ピピン2世は正室との間に生まれた幼い息子を後継者に指名していますが、父の死後、カール・マルテルは異母弟を〇〇してしまいました。いや、それだけでなく彼は父の死にも関与しています……。

史実のカール・マルテルがどのような人物であったのか判りませんが、トゥール・ポワティエの戦い(732年)でウマイヤ朝の進撃を食い止め、イスラム教徒の西欧への進出をイベリア半島までに押し留めたという輝かしい功績があります。
彼は741年に死去しましたが(墓所は現在のサン・ドニ大聖堂)、息子の一人がのちにピピン3世(小ピピン)としてカロリング朝を開きました(751年)。


ピピン2世(スキンヘッドの人)とフランク兵たち


フランク人の衣装などが中世初期より少し後の時代では?と思ったり、ストーリーに物足りない部分もあったけれど、フリースラントやフランク王国を扱った作品は珍しいので、興味のある方はぜひご覧になってください。

※画像は IMDb の映画ページよりお借りしました


【おまけ】
余談ながら、私はオランダに半年ほど滞在したことがあるのですが、北部のフリースラント地方は現代でも独立意識が強い地域だなあ、と思いました。
現地の人々はフリース語を大事にしていて、フリース語による「国歌(州歌)も存在します。タイトルは Frysk folksliet 
オランダ語とスカンディナヴィアの諸言語の間みたいな感じです。

現代のオランダは男女とも平均身長の高さが世界でトップクラスですが、フリースラント人が平均を押し上げているのでは?と思うほど、長身の人が多かった印象があります。
州都レーヴァルデンはコンパクトな町で、徒歩でほぼ廻れます。斜塔やフリース博物館(ドレスタッド関連、ヴァイキング時代の出土品も多く展示されています)がおすすめスポット。
ヘーレンフェーンにはサッカーのクラブチームもあるし、スピードスケートのワールドカップが開催されるアリーナもあります。
そして何処までも平らな緑の牧草地には牛や羊がたくさん放牧されていて、何だかほっとします。
アムステルダムやロッテルダムとは異なる魅力にあふれたフリースラント、オランダ訪問の機会がありましたら、ぜひ行ってみてください。

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