ナタリポートマンMCU離脱事件の真相(マイティ・ソー:ダーク・ワールド)
マイティソーシリーズのヒロインであるジェーン・フォスターを演じるのはナタリー・ポートマンです。かつて彼女はシリーズ2作目(ダークワールド、2013年)を最後にMCUから去りました。しかし6年後の2019年になって4作目(ラヴ&サンダー、2022年予定)から復帰することが正式にアナウンスされました。なぜ彼女は一時期離れていたのでしょうか。事実を整理して検証していきます。
▼女優ナタリーポートマンとは:
言わずも知れたスーパースターですよね。1981年イスラエル生まれ。1994年『レオン』のマチルダ役で鮮烈な映画デビューを飾り、1996年『ビューティフル・ガールズ』で批評家にも絶賛され演技派女優としての地位も確立しました。その後もスターウォーズ・プリクエル3部作でのファンタジーなお姫様から『ブラック・スワン』での精神的に追い込まれ発狂するバレエダンサーまで幅広く、実に30年に渡ってトップ俳優であり続けています。
そんな彼女は2011年『マイティソー』にヒロイン役で登板します。当時はクリス・ヘムズワースとトム・ヒドルストンの知名度はそこまで高くなく、彼女(とアンソニー・ホプキンス)だけが名前で大量集客を見込めるトップスターでした。しかし続く2013年『ダークワールド』への出演を最後に彼女はMCUを離れて、以降の作品には参加しなくなりました。
「ジェーンがソーと別れた」という物語設定上の都合もあるでしょう。しかし、同じ御三家のアイアンマンとキャプテンアメリカはそれぞれ1人の女性との愛を成就させているのにソーだけずいぶん不憫な仕打ちを受けたものです。また、あちらでは3部作を通じて同じ役者(グウィネス・パルトロー、ヘイリー・アトウェル)が出演し続けていますし、彼女達はアベンジャーズのタイトル(エンドゲーム)にも出演しています。
一方ポートマンは、2019年『エンドゲーム』で過去のアスガルドでジェーン・フォスターからエーテルを回収する場面があったのに、撮影には参加せず、ベッドで目覚める場面はダークワールドの撮影素材を流用して、引きの画は代役の役者で済ませてしまいました。ロケットが忍び寄る場面もボディダブルです。想像してください。もしポートマンが撮影に参加していたらもっといろんなシチュエーションが実現できた筈です。(あら、アスガルド人には変わった見た目の人もいるのね。みたいなセリフで1個笑いが作れたかもしれません)
余談ですけど何があっても息子を愛し続けるレネ・ルッソの演技がとても良かったですね;彼女のおかげでアスガルドのシーンはポートマン不在を克服できたと思います。
そして決定的なのはポートマン本人のインタビューでの発言です。
この発言があった2016年8月といえばシビルウォーが大ヒットを記録した直後で、2018年のアベンジャーズ3と2019年のアベンジャーズ4(当時はタイトル未発表)がそれぞれどうなってしまうのか、とMCU社会現象がピークに向かって盛り上がりつつある真っ只中でした。そんな折に「アベンジャーズ7でも何でもいいけど」と突き放したような彼女の発言でした。
ここからポートマンはもうMCUのようなヒーロー映画には出演しない意向なのではないかという憶測も出回っていましたが、2019年になってラヴ&サンダーへの再登板が電撃発表されたのでした。
▼ダークワールドとはどんな作品だったか:
ポートマンが最後に残したダークワールドとはどんな作品だったか。
一言で表すと、MCUの数少ない失敗作の一つです。フェーズ3までの23作品で人気投票をすればおそらく最下位争いに絡んでくるでしょう。マイティソーは第1作と第2作ともにMCUとしては不振な結果に終わったのですが第3作ラグナロクで人気を持ち直したので、彼女のアンチの中には「彼女こそがマイティソーの初期作品がパッとしない原因だ」という心無い批判をする人もいました。
▼ダークワールドが不振に終わった理由:
簡単に言えば、途中で制作方針が変わったからでしょう。
ダークワールドは制作過程での大きな変更が多かったプロジェクトであることが明らかになっています。本撮影は2012年9〜12月で完了したのですが、その後の編集段階になって脚本家が「自分の作品ではない」と発言してしまうほど多くの修正が入りました。
中でも最も大きな変化は「ロキの死亡が取り消された」ことでしょう。元々ロキはダークワールドで死亡する予定でしたが、2012年5月に公開されたアベンジャーズ第1作で「ロキの人気が急上昇した」ことを受けて、スタジオはロキを生かしておくことに変更しました。この急すぎる変更は2012年9月に始まる撮影には脚本が間に合うはずもなく、結果的には撮影終了後も脚本の修正は続いて、翌2013年7月に追加撮影を行い、そこからこの規模の大作ヒーロー映画としては異例すぎる短期間のポストプロダクションを経て、同年10月の公開に漕ぎ着けました。
一般的に大作アメリカ映画では撮影が終わった後に、「ポストプロダクション」という作業工程(編集、音響、VFX)のために6ヶ月程度の時間を確保します。しかし、ダークワールドではその期間に無理して追加撮影をぶっこむことになりました。もちろん通常の大作映画であれば幾つかの追加撮影が生じることはあります。しかしダークワールドの場合は本撮影と並行して脚本の大規模な変更が走ったので、ポストプロダクション時点で不足するシーンが相当数生じたものだと思われます。
通常の映画であれば公開日をリスケするという対応もありますが、MCUは数年先まで公開スケジュールが決まっているので遅延はできません。さらに実際に作業するスタッフや会社はMCU以外の作品も含めて何年も前からスケジュールを決めているので連日徹夜になったり他の映画のための作業時期を調整したり、これは何百人何千人という関係者を巻き込む大騒ぎだったでしょう。
詳しくは別記事に書きましたが、少なくともトム・ヒドルストンとアンソニー・ホプキンスとカット・デニングスの3名が再撮影したことが報道されており、つまりロキとオーディンの会話シーンが大幅に追加され、さらにダーシーの出演シーンもそれなりの数(おそらくギャグ)が追加されたのだと考えられます。
もともとシリアスなダークファンタジーとして企画された映画『ダークワールド(暗い世界)』では、大ヒットドラマ『ゲームオブスローンズ』のアラン・テイラー監督を招集して制作準備を進めていました。しかし、土壇場になってトリックスターであるロキの存在感をアップさせて、かつライトなギャグを挿入したので、映画のトーンが支離滅裂になったことが、本作が作品の芯の強さを失い、あまりファンに支持されなくなってしまった原因ではないかと私は考えています。
また見逃せないポイントとして、これらの改編にはジョス・ウェドン監督が大きく関わっていることがあります。そりゃそうでしょう。そもそもダークワールドが変更されるきっかけがアベンジャーズの特大ヒットだったのですから、そのアベンジャーズの監督に声がかかるのは当然の流れです。彼が参加したことで、ダークワールドはこの大きな路線変更が(良くも悪くも)可能になりました。
この点については監督だったアラン・テイラーも多くの発言を残しています。彼によると、撮影現場にはジョス・ウェドンが何回かチャーター機で乗り付けて、その場で脚本をぱぱっと修正して撮影を進めていたらしいのです。文字面では「反射神経の良さを讃えた美談」という語り口にも見えますが、考え方次第では「行き当たりばったりへの批判」とも取れますし、テイラー監督が2年前から入念に準備していた映画を土壇場でメチャクチャにされたこと(しかもそれまでロクな実績もなかったがアベンジャーズが大当たりしただけのポっと出の監督に)への皮肉とも受け取れます。
このテイラーの発言については、別記事で引用元を参照しながら一言一句翻訳して詳しく検証しましたので是非そちらも参照ください。
▼実はDCEUにもよく似た失敗例がある:
どんなにシリアスな物語でも、会話にお下品なジョークを挟むことで雰囲気を変えてしまうこと。実はDCでウェドンは同じことをやっています。すでにお気づきの方もいると思いますが2017年の『ジャスティス・リーグ』です。
「アタマが良くない感じの人達がおバカなことを言う」のがウェドンの得意とするギャグです。ジャスティスリーグの場合は、テレビで老婆が放送禁止用語を連発するとか、クラークの母とロイスが欲求不満な熟女みたいなジョークで笑うとか、襲ってくるパラデーモンを害虫退治スプレーで応戦する少女とか、ロシア語がわからないフラッシュとか、東西南北が分からないフラッシュとか、爆発にゲラゲラ笑い転げるスプスとサイボーグを見てワンダーウーマンが呆れるとか、セクシーな女に目がないアクアマンとか、まあそんな感じに「誰かバカな奴を作ってそれを笑う」というスタイルですね。
改めて『ダークワールド』に出てくるギャグを見てみます。後先考えずにワープホールに靴や鍵のような貴重品を投げるとか、ダーシーがインターンの名前を一向に覚えないとか、そもそもダーシー自身がインターンなので更にインターンを雇うのは非常識とか、戦いの最中にもかかわらず恋をして熱いキスを交わすとか、そのままワープしてジェーンにドン引きされるとか、ストーンヘンジを全裸で走るとか、家でズボンを脱いで考え事をするとか、パンツ一枚のまま若い女性をハグするとか。こうして書き出すとギャグのスタイルからウェドンの脚本であることは明らかです。
▼真相はポートマンがジョス・ウェドンへNOを出したのではないか:
さて、いよいよ本題に入ります。
ダークワールドを観ていて気になるのは、ギャグシーンにポートマンがほとんど出ていないことです。そして思い出されるのがジョスティスリーグでのガル・ガドット撮影拒否事件です。
ガドットはウェドンによる再撮影の時にいくつかのセリフを断ったり、フラッシュのラッキースケベシーンで地面に寝そべるのを拒否して、問題になりました。セリフについてはウェドンが自身の権限で彼女のキャリアを台無しにしてやると脅迫したり、ラッキースケベについてはガドットの休憩中にスタントマンを使って撮影したりなど、かなりの強行手段に出ており、これを重く見たガドットはワーナー・ブラザースの上層部に直接抗議までしました。
これと同じようなことがポートマンにもあったのではないでしょうか。
もし的中しているならば、白人至上主義かつ女性蔑視の考え方を持った監督(ウェドン)が、イスラエル出身の女優(ポートマン;ガドット)とトラブルになる。という点で社会問題として見ても全く同じ構造になります。日本人には違いが分かりにくいかもしれませんが、イギリスやアメリカで支配的な地位を獲得した白人(アングロサクソン系)から見てイスラエルなどの中東地域の人々は完全に別の人種です。白人の中には中東系をアフリカ系やアジア系と同じく差別の対象と考えている人達(本人的にはちょっとバカにしている程度の感覚の人も多い)が一定数存在します。イスラエルはユダヤ人の起源でもあるので、要するに第二次世界大戦でのナチスドイツがユダヤ人を迫害した構造と本質的には同じものです。この手の問題は被害者側の方が強く意識するケースが圧倒的に多いですから、これはイスラエル出身者から見ればセンシティブな問題になります。(ハリウッド映画が能天気に核弾頭を使うのをよく思わない日本の世論と近いものがあるでしょう)
パーソナリティの面から考察しても、意志の強さならポートマンもありそうです。彼女はキャリアのかなり初期の段階から作品選びには慎重であり、リメイク版『ロリータ』の出演オファーを断るなど、安易な数字取りに躍起しない信念の強さがあります。
そしてガドットと違ってポートマンには当時すでに25年以上の輝かしい俳優キャリアがあったので、一介の監督(ウェドン)の指示に逆らったぐらいで映画界から干される心配もありません。彼女ほどのビッグネームならMCUから除名されたところで魅力的な映画のオファーは他にゴマンとあります。
結果としてポートマンは追加撮影やふざけた演出をほとんどボイコットして、代わりにカット・デニングス(マーシー)がギャグ要員として奮闘したのだと思われます。冷静に考えても彼女のセリフ量は役の重要度に比べてすごく多いですからね。そりゃおかしな感じにもなりますわ。苦笑。
ガドット事件を含むウェドンの問題については別記事で詳しく書いていますので、ご存知ない方は是非ご一読ください。結構びっくりされるとお思います。日本のメディアではあまり語られないウェドンが海外で強く批判されている理由も分かるようになります。
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▼ディズニーによるウェドン原因説の隠蔽工作:
ウェドンの素行不良については2017年DCEUでのトラブルを発端に今ではかなり明るみに出ていますが、それ以前に問題が起きていたMCUではブランドイメージを損なわないためにディズニーは隠す必要がありました。(このあたりの処理を見てもワーナーよりディズニーの方が優れていると感じる部分です)
ポートマンがMCUを去った理由については、大手メディアからも記事が出ていたのでそちらも紹介しておきます。
ラブ&サンダーでの復活がアナウンスされた際に、ケヴィン・ファイギはポートマンの離脱は舞台設定の問題だったと公式見解を出しました。まあこの理由は自然といえば自然ですが、一方でエンドゲームで撮影に臨んでいないことの理由の説明にはなっておらず、ちょっと奥歯に物が詰まった感じはありますね。
同じ記事で、続けてこう記述しています。
この記事を短くまとめるとダークワールドでの女性監督降板に不服だったからポートマンのテンションが下がったと書いてあります。これが世間一般的には通説となっているようです。
たしかに、ジェンキンスの降板も原因になったかもしれません。ただ、出来上がったダークワールドの内容を分析した限りでは、やはりウェドンが撮影現場で強引に書き換えてきた問題も、大人の事情から公言できないだけで、ポートマンが「ジェンキンスじゃないと許容できない」と態度を硬化させるに至った原因の一つだったんじゃないかと私には思えます。
▼【タブー?】ジェンキンス監督とウェドン監督の類似性:
ちなみに2011年にMCUから切られたパティ・ジェンキンスはその後にDC作品『ワンダーウーマン』(2017年公開)を監督しました。ワンダーウーマンは初の女性監督ヒーロー作品として大きく取り上げられ、興行的にも成功を収めて大絶賛されました。
しかし彼女は、その後は続編『WW84』(2020年公開)では賛否両論の大論争になり、さらには監督自身がファンダムが炎上するような発言を繰り返すようになりました。
私はどことなくジェンキンスからウェドンと同じ臭いを感じます。笑。
この話題は本記事のタイトルからは離れてくるので別記事にします。
気になった方はそちらも読んでいただければと思います。
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それではまたお会いしましょう👋
了。