【AKIRA】あらすじ・感想(三幕構成で読み解く)
結末まで語るので、本編を未見の方にはブラウザバックを推奨します。
まずは、物語を三幕8場構成に分解します。
一幕
1)1988年に東京で巨大爆発が起こり第三次世界大戦が発生した31年後の2019年のネオトーキョー。鉄雄の暴走族チームはその夜もクラウンと抗争を繰り広げていた。一方で繁華街では少年を連れてアーミーから逃げる怪しい男が居た。銃で抵抗した男はアーミーにマシンガンで蜂の巣にされて、少年はサイコキネシスを発揮して周辺を破壊し、テレポートのような能力で姿を消す。同じ頃、警察に追われて旧市街に逃げ込んだ鉄雄は、廃墟となった首都高を歩いていた先程の少年を轢きそうになって大きな事故を起こす。救急車を呼ぶ間も無く即座にアーミーのヘリコプターが着陸して現場を制圧し、少年と鉄雄を収容し、金田たちは警察に送検される。
2)警察に反政府組織ではないと判断された金田たちは釈放されるが、爆破騒動の混乱に乗じて金田は一目惚れしたケイを一緒に連れ出すが、すぐに逃げられる。アーミーの施設で検査された鉄雄はアキラの謎を解く潜在能力があることを発見される。その日の夜に脱走した鉄雄はカオリを連れて、金田のバイクを盗み遠くに逃げようとする。鉄雄とカオリはクラウンに襲われる。金田が駆けつけて二人を救うが、鉄雄は暴走する凶暴性とアキラの幻覚に襲われて、監視していたアーミーに再び回収される。反政府グループの爆破テロに居合わせた金田は、メンバーの中にケイを見つけて助太刀して、そのままグループと行動を共にして鉄雄を助けることを目指す。アーミーで実験と検査を受け続ける鉄雄は幼少期の記憶に関連した悪夢を見るようになる。キヨコは鉄雄を生かせるとアキラを目覚めさせて破局が訪れることを予言する。大佐は念の為のオリンピック会場の地下に眠るアキラに異常がないことを確認する。
二幕
3)グループはアーミーの施設に潜入して鉄雄を回収する作戦を実行する。大佐は無能な政治家を見限りクーデターを起こす。鉄雄がぬいぐるみに襲われて、犯人の子供達を探して部屋から脱走する。
4)子供達の部屋で鉄雄と子供達がぶつかる。キヨコの導きでケイと金田も子供部屋に突入して金田と鉄雄が戦う。鉄雄はテレポートの能力を発揮して施設から脱走する。金田とケイはアーミーに逮捕監禁される。
5)監禁部屋でキヨコのテレパシーでケイを通じて金田は、アキラや鉄雄は細胞レベルの宇宙のエネルギーを操るものだと聞かされる。キヨコが念力で解錠して金田とケイは脱走する。一方で鉄雄は街で薬を求めて暴れて、圧倒的な能力からアキラの再来を信仰する人達にアキラだと間違われる。金田は甲斐と合流するが、ケイを子供達に連れ去られる。グループを裏から指揮していた政治家の根津はクーデターに巻き込まれて死亡する。
6)鉄雄がアキラを求めて地下まで行く。地下で待ち伏せしていたケイと鉄雄が戦って、そのまま地上に出る。鉄雄はケイを気絶させる。鉄雄がアキラの最終隔壁を開けると、出てきたのは解剖されて冷凍保存されていたアキラの神経パーツだった。金田が到着して鉄雄と戦うが、途中で大佐がSOLを照射して戦闘は中断する。鉄雄は金田を守りつつSOLを破壊して、どんどん成長する鉄雄の能力にアーミーの科学者はすっかり魅了される。
6+)競技場にカオリが来て鉄雄を見つける。薬が切れて鉄雄の力が暴走を始める。金田バイクと対戦。子供達も参戦すると、アキラが反応して、それに反応して鉄雄も巨大化する。カオリと金田が鉄雄に取り込まれる。カオリが圧迫死。アキラが復活して爆発を始める。鉄雄と金田がアキラに飲み込まれる。タカシが後を追う。マサルとキヨコが自己犠牲で金田を救うと決心する。
三幕
7)東京がアキラに包まれていく。鉄雄の記憶。アキラの記憶。僕らには無理だった。でもいつかは私たちにも。もう始まっているからね。あなたの友達の。ケイのことだな。金田くん。宇宙が生まれて、消える。
8)ケイは金田を見つける。金田は小さな光の粒になったアキラと鉄雄を握りしめる。光球が手の中で消える。ケイは金田に近寄る。ありがとう、呼んでくれただろう、聞こえたぜ。行っちまった、あの三人も、アキラも。金田くん、あなたさっき…。鉄雄はどうした、死んだのか。どうかな、きっと…。でもいつかは私たちにも。もう始まっているからね。僕は、鉄雄。
FIN
▼解説・感想:
●構成
1-1:鉄雄が超能力者と事故を起こす
1-2:鉄雄をアキラに接触させてはいけない
2-3:鉄雄が急激に成長する
2-4:鉄雄がアーミーに反抗して脱走する
2-5:鉄雄が民衆にアキラだと誤認される
2-6-1:鉄雄がアキラの正体が冷凍標本だと知る
2-6-2:鉄雄の力が完成して、アキラが反応して目覚める
3-7:アキラが膨張して鉄雄を取り込み、収縮する
3-8:金田は消えてしまった鉄雄とアキラたちに想いを馳せる
6場が2段階ある、と解釈するのが一番適切だと思われます。
ハリウッドの典型的な映画と比べると、少し特殊な物語展開だと言えるでしょう。
夜になってからアキラが爆発するまでの一連の流れを7場だと解釈して、テンプレートにきっちり嵌めても良いかもしれませんけどね。でも、それだと最後のアキラの爆発が過小評価になるような気がしました。
●感想
以下、少し辛口批評になってますけど、2時間映画としては申し分なく面白い作品だと思います!
ビジュアルは描写は見事でした。流石に令和の最新フルCGアニメを体験できる私達世代にはやや粗く見える気もしましたが、これを約40年前の昭和末期にやっていたのが凄いですし、背景画については現代でも通用する美麗さでした。
今回はNetflixで視聴しましたが、4K UHDはどうしようかな、HDRで観たい気持ちもあるけど、ちょっと迷い中ですね。粗く見えても手のタッチだから4Kで観ると、もっと良くなりそうな気はします。7,700円はちょうど悩ましいくらいの価値かな。特典映像の内容も加味して考えようかしら。
ビジュアルでは、やはり漫画版の方が上なんですよね。細かさも、構図も。それを味わった後だと、40年前のアニメは少し購買決定力に迷いが生じる感じですね、正直。
ストーリーは基本的には原作と同じモチーフでありながら、2時間の映画に収まるように脱構築してギュッと圧縮した脚本でした。
漫画版で最重要キャラの一人であるミヤコ様がすごくどうでもいい役に格下げされていて、仕方ないと思いつつも、勿体無さと滑稽さを感じました。根津がやっていたことと、なぜ死んだのかも、アニメ版では結構わかりにくと思いました。ここはもうトレードオフの関係にはなりますよね。
変更点で良かったと思うのは、やはりアキラが解剖済みの冷凍標本だったことです。このビジュアルのインパクトは凄いですし、漫画版でかわいい少年の印象が強かったですからショックがありました。映画を2時間にまとめるためのテクニックとしても優秀ですよね。
一方で、苦しいなと思ったこともあります。一番大きかったのは、漫画版では明確に説明してくれた「アキラと鉄雄をぶつけて相殺させる」という論理が、アニメ映画版では説明されませんでした。これは映画だけ観てもよくわからない(正解を一つに決めるのが難しい)要素だと思いますねー。
なんならキヨコは鉄雄が能力に開花した直後に「たくさん人が死ぬわ」と予言していたのが、最後はアキラが消えてしまって平穏が戻ってきたので、これはハズレてしまったような印象も受けました。いや、でも、まあ「アキラと鉄雄が衝突してネオトーキョーが再び大破壊された」のは事実だから、大量の犠牲者が出たという点については的中してると言えるか。などなど、ちょっとモヤっとすることが残った印象です。
このモヤっと感は、極限まで説明を省いて、観客の解釈に任せる手法をとったラストシーンの影響でもあると思います。アキラ現象が終わって、ネオトーキョーに平穏が戻った後が、特に顕著でした。
特に最後は金田やケイが何か重要なことを言おうとするたびに、邪魔が入ったりカメラが切り替わるなどして、最後までセリフを聴かせない編集になっていました。なんかそれは「うまいなあ」とも思うし、「ずるいなあ」とも思いますね。(笑)
なんだろう、現代の理論物理学の知識に照らして考えると、アキラは新しい宇宙を作って、それは私達の宇宙とは別にマルチバースとして存在して、だからこそ金田の手の中で小さな光の粒になって消えてしまったように見えて、そして金田がこちらの宇宙に留まれたのはケイが呼んでくれたお陰で、逆にアキラが新しく生み出した宇宙では取り込まれた鉄雄の記憶が分子や細胞に刻まれて惑星や生物や文明が新たに独自に生じていくのかな、こうして大きな単位での宇宙の歴史が繰り返されていくのかな、などと感じました。
それが私の映画版の結末についての現段階での解釈です。
金田がこちらの宇宙に留まれたのはケイが呼んでくれたおかげ、というのは漫画版と完全に一致する部分ですね。おそらく大友克洋が本作の漫画連載を始めた時から決めていたモチーフなのでしょう。
色んな考察記事を読み漁ってから、もう一回、考えてみるのも良いかもしれませんね。
少し辛口批評になってますけど、2時間映画としては申し分なく面白い作品だと思います!(大事なことなので2回書きました)
(了)