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【トラップ】あらすじ・解説(三幕構成で読み解く)

#ネタバレ

結末まで語るので、本編を未見の方にはブラウザバックを推奨します。

登場人物
クーパー(ジョシュ・ハートネット):中年の男。消防士。妻子あり。
ライリー(アリエル・ドノヒュー):クーパーの娘。レイヴンのファン。
レディ・レイヴン(サレカ・シャマラン):10代に人気の歌手。
グラント博士(ヘイリー・ミルズ):FBIに所属する犯罪心理学者。
レイチェル(アリソン・ヒル):クーパーの妻。


まずは、物語を三幕8場構成に分解します。

一幕

1)クーパーとライリーはレディ・レイヴンのコンサートに来る。コンサートが始まって警備体制が異常に強化される。

2)コンサートの小休止で一度物販に来たクーパーは会場警備の異変に気付き、FBIがシリアルキラーの『ブッチャー』が客に居ることを掴んで、このコンサートがブッチャー捕獲のトラップとして使われていることを売店の男から聴取する。

二幕

3)クーパーは売店の男から従業員用カードキーを盗み、またFBIと従業員の暗号が「ハミルトン」であることを聴取する。クーパーは警備無線を盗んで、地下や屋上など脱出経路を検討するがどれも難しいと判断して困窮する。

4)幸運にもレイヴンの父親を見つけたクーパーは彼を説得して、ライリーをラッキーガールに選出させることに成功する。楽屋訪問すればそのまま検問なしで脱出する計画だったが当てが外れたのと、レイヴンがFBIに積極協力しているのを知って、逆にクーパーはレイヴンだけに正体を明かして現在隠れ家に監禁中の男を人質に脅迫し、ライリーと共にレイヴンのリムジンに乗って会場脱出に成功する。

5)レイヴンは機転を利かせてリムジンでクーパーの自宅まで二人を送る。自宅で歓迎されたレイヴンは隙を見てクーパーのスマホを奪い、監禁中の男から得た情報を元に、インスタライブで数十万人のファンから情報を募り隠れ家を発見して脱出させる。

6)クーパーは自宅を警察に包囲されるが、隣家の庭まで掘っておいたトンネルから脱出し、SWATに扮してリムジンの運転手と交代して再びレイヴンを誘拐する。交通渋滞のおかげでレイヴンは逃げ出すが、人混みに紛れてクーパーも姿を消すことに成功する。

三幕

7)夜遅く、クーパーは厳戒警備されている自宅に忍び込み、リビングでレイチェルと話す。レイチェルはクーパーが犯行に使用してきた睡眠薬をふりかけたパイをクーパーに食べさせる。クーパーが暴れ出したところでFBIが異常を察知して突入し、スタンガンでクーパーを失神させて逮捕する。

8)警察の護送者に乗せられて連行されるクーパーは、直前に庭で倒れていた自転車を立て直すどさくさに紛れて入手した針金で手錠を外し、不敵に笑う。同じ頃、テレビでブッチャー逮捕のニュースを観ていた売店の男は、公開された顔写真がクーパーで驚く。

2024年製作/105分/G/アメリカ
原題または英題:Trap
配給:ワーナー・ブラザース映画
劇場公開日:2024年10月25日

FIN

▼解説・感想:

●構成

一幕
 一場:状況説明
 二場:目的の設定
二幕
 三場:一番低い障害
 四場:二番目に低い障害
 五場:状況の再整備
 六場:一番高い障害
三幕
 七場:真のクライマックス
 八場:すべての結末

参考:ハリウッド式三幕八場構成

1-1:クーパーは娘とコンサートに来る
1-2:クーパーは厳重な警備を把握する
2-3:クーパーはいろんな脱出方法を検討するが断念する
2-4:クーパーはラッキーガールを利用して脱出に成功する
2-5:レイヴンの予想外の行動でクーパーは逆に追い詰められる
2-6:クーパーはSWATに扮して自宅から脱出に成功する
3-7:クーパーは自宅に戻ってレイチェルと対峙する
3-8:クーパーは逮捕されるが再び脱出を始める

前半の展開が早くて、トレイラーだけを見てコンサート会場の話が全てかと思いきや、わずか1時間でそれは終わり、後半の1時間はクーパーの自宅でストーリーが展開する予想外の構成でした。2-5の状況の再整備で完全に場所を切り替えてしまう感じですね。

かなり予想が難しいタイプの脚本で、翻弄されて楽しかったです。

●感想

物語はシリアスですが、各キャラの一つ一つの行動や演技にはどこか滑稽さがあって、終始ニヤニヤが止まりませんでした。

隣の年配男性が字幕だけ読んで笑うものだから、セリフを聴いて表情を見て面白さを感じる私よりもいつもワンテンポ早く笑うので、調子を崩されて正直かなりウザかったです。字幕と原文セリフでは笑いのポイントが違ったりもするので余計にね。お前が笑う度にセリフが聴こえにくいんじゃ、とイライラしながら観ました。劇場で声出して笑ってるのはあの男だけでした。映画にも劇場にも罪はありませんが、ハズレ回を引いてしまって残念です。

劇中の人気アーティストを演じるのが監督の実の娘というのも面白かったです。本当にミュージシャンらしく、歌やピアノ演奏の演技に説得力がありました。ライブコンサートの撮影が実際に大勢のエキストラを動員して撮影していたらしく、そこらへんは潤沢な資金をかけて制作されたのが伝わって、観ていて愉しかったです。

レイチェルと対峙するシーンは緊張感みなぎる名場面だと思います。異変を察知された原因が服についた洗剤の匂いだと聞かされて、上半身裸になって殺そうとするクーパーがいかにもサイコキラーって感じで最高でした。

私はてっきりレイチェルは沸騰したお湯をぶっかけるのかなーと期待しましたが、まさかクーパーが犯罪に使っていた正体不明の粉を使うとは。毒殺も辞さないスタイルはちょっと凄いですね。最初は浮気を疑ったけど、もしかしてあなたがブッチャーかもしれないと思ったというセリフも何気に凄いでしう。ここらへんはぶっ飛びすぎててリアル感はあまり無いかなと思いました。(笑)

まあリアルを追求するならクーパーに「秘密の言葉」を教えちゃった店員が一番ありえない気がしますけどねー。Tシャツを料金取らずにプレゼントしちゃうし。(笑)でもアメリカの治安とか民度を見ていると、意外とあのくらい杜撰な感覚の人は多いのかな、という気もします。LAでバスに乗った時に「ごめん運転手さん、今日は小銭の持ち合わせがないんだ」「じゃあ今日はそれで良いよ、兄弟」みたいなやりとりをする黒人をリアルで見ましたからね。そもそも日本人は世界平均で見た時にIQが高くて真面目なので、ああいうことをする人はほぼ絶対に居ないですけど。

●母、虐待、老婆

上記のあらすじでは省略しましたが、クーパーが連続殺人鬼になった理由が、幼少期に母親から受けていた虐待だったという描写は結構重かったです。

統計や教育の分野の研究成果として、幼少期に不幸だった人は成人しても良い親になれないという学説がありますが、この映画もそうした負のカルマは繰り返されるという、かなり希望が感じられないテーマだと言えるでしょう。

第三幕でクーパーがレイチェルに「俺が一番悔しいのはお前のせいで子供達の成長を見届けられないことだ」と告白するシーンは悲しさと異常さが相まって最高でした。

そんな映画に娘を出演させてるシャマラン監督の精神はどうなってるのか不安さえ感じます。(笑)

クーパーが何度も妄想の中で見る老婆が良い味を出してました。劇中で最初に老婆の幻覚が見えるのは男子トイレでした。観客が「え、この場所に、どういうこと?」と引っかかる中で、続けて娘の同級生の母親がやけにしつこく干渉的かつ感情的になるシーンがあったりして、だんだんクーパーの心の傷が示唆されて、そして映画後半ではクーパーを執拗に追うFBIのグラント博士の描かれ方でかなり明示的になり、ラストに逮捕される直前では逆光のシルエットでイメージが完全に重複(錯覚)するのは、いかにも映画的な演出としてクールで、面白いと感じました。

この「ある人にとっての視点」として描かれるのはシャマラン監督のよくやる手法でもありますが、今回はそう来たか、と大いに愉しめました。

グラント博士は女性版クリストフ・ヴァルツって雰囲気で良かったです。

(Inglourious Basterds, 2009)

●サブスクへの期待度

これまでシャマラン監督作品といえばユニバーサル配給が多かったのですが、本作はワーナーでした。ユニバーサルはNetflixで4Kなのですが、ワーナーは2Kです。そこだけ残念ですかねー。

かなりビジュアルが良い映画なので、定期的に観たくなる気がします。それも4Kで観たいです。少し悔しい(?)けど、これは個別にソフトを買うことになりそうかな。

(了)

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まいるず
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