HAPPYでBIG LOVE
自宅から、自転車をこいで10分。板橋区の住宅街に突如現れた畑。
待ち合わせ場所となっている畑には、すでに人がいる。ここの主だろうか。約束をした友人は、まだやってきていないようだ。
先に挨拶をし、収穫を手伝いに来たことを告げる。
ここは、THE HASUNE FARM。有機野菜がすくすく育っている。
自宅の近くに、こんな素晴らしい有機の畑があるなんて……!
興奮しながら畑の主とおしゃべりしていると、道のほうで大きなエンジン音がした。
約束の人がやってきたのだ。
この人は、大分県からクルマでやってきた。かつて救急車にも採用されていたというハイエースに、巨大な鉄のフライパンをはじめ、あらゆる重いものをぎゅうぎゅうに詰め込んで。1000キロもの道のりをここまでやってきた(フェリーにも乗って)。
ハイエースから降りてきたのは、大分県竹田市に生きる桑島孝彦、通称クワマン。彼がどんなに長距離ドライブをしてこようと、もう驚かなくなった。
ハグをして、再会を喜ぶ(無事の到着に安堵する)。
“ハッピー&ビッグ・ラブ”の心を持つクワマンは、全国各地に友人や彼を慕う人がいる。「旅するパエリア」と称して、九州などあちこちでパエリアを提供する料理人でもある。
この度は、東京・池袋で開催される「池袋リビングループ※」のスペシャルマーケットで、とっておきのパエリアを出すべく、はるばる大分・竹田からやってきた(もう4年連続で通ってきている)。
私も彼の“ハッピー&ビッグ・ラブ”に魅せられた一人で、パエリアがたくさん出るような大きなイベントのときには、バイトリーダー(自称)として手伝っている。
そして、このイベントを通じて出会ったのが、冒頭のTHE HASUNE FARM。パエリアから出たエビや貝の殻といった生ゴミを堆肥に変え、この堆肥を使って育った野菜を今回のパエリアに使うという。「循環」という大きなテーマがこのイベントには掲げられている。
この畑で育った野菜たちは、巡り巡って去年のパエリアとつながっているのだ。元気に育っているインゲンと白ナス、菜花を収穫させてもらう。
収穫の後、THE HASUNE FARMのユウさんに特別に堆肥場を見せてもらった。
「生ゴミを集めて置いておけば堆肥になる」という安易な考えは、打ち消された。目の前にあるのは、徹底した管理と科学の世界だった。
「お菓子のレシピと同じですね。分量の比率と順番が大事」とユウさんは言う。あちこちで有機農法を学び、堆肥づくりについても自分のものになるまで、何度も足を運んだ。
触ってみてください、と言われ触れた堆肥の山は、温かかった。というか
「あっつ!」
それもそのはず。堆肥の内部は70度の高温だ。山の中に温度計をさして、見せてもらった。
***
突然ですが、ここでクワマン特製のパエリアの美味しいポイントを紹介させてください。
本場パエリアに必要なスパイス「サフラン」の生産量、 実は大分県竹田市は日本一! 花から2本しか取れないという貴重なサフランを、ふんだんに使っている。
パエリアの命「出汁」。出汁をとるには硬水がいいと言われ、日本一の硬度を誇る「炭酸温泉水」で炊き上げている。ここが、さすが大分! なのだが、竹田市には「ラムネ温泉」という名湯があって、ここの炭酸温泉水を汲んできて使っている。名湯は身体の外側のみならず、内側からもよくしてくれる。ありがとう、温泉。
地元食材なんでもござれ! 大分県をはじめ、九州は食材の宝庫。干し椎茸にパプリカ、エビや貝など、味や故郷のために努力を惜しまない生産者と直接やりとりをして、パエリアの具材に彩りを添えている。そして、「旅する」先の地元食材も取り入れられるのが強み! 今回は板橋・THE HASUNE FARMのお野菜を朝採って、その日に使うという直送っぷり。
というわけで、美味しいパエリアのために、殻の出るエビや貝が不可欠なのだ。
それを「ゴミを増やさない方法で、続けていくためにどうするか?」を考え、堆肥にするアイデアを実践する。生ゴミを集めて、堆肥をつくってもらう年。
そのうえで、貝は分解に時間がかかることがわかった。それではと「貝割コーナー」をつくって、貝を粉砕してもらう年。食べた人に最後まで楽しんでもらうことも大事に。
一年ずつトライを積み重ね、愉快な循環システムを確立した「旅するパエリア」。ハッピーでビッグ・ラブを乗せて、次のまちへと旅立っていった。
spetial thanks to Osteria e Bar RecaD,
THE HASUNE FARM &
IKEBUKURO LIVING LOOP