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地下鉄の出口の外は香港だった(香港澳門#2)

体にまとわりつくような暑さと湿気。
目の前には今にも崩れ落ちそうな看板と室外機の羅列。
竹でできた工事用の囲いでは、上半身裸の男たちが何やら作業をしている。
暴力的とも言える車の排気ガス、食べ物と汗臭いような臭い。
ここは間違いなく、香港だ。
香港に来てしまったのだ。

飛んで香港

凡ミスによりバスに乗り遅れそうになった私だったが、どうにかこうにかバスに乗り込み、空港に辿り着き、飛行機に乗って、香港自治区に入境した。
空港で軽く昼を食べようと思ったが、よくわからず歩いていたらエアポートレールの駅まで来てしまったので、勢いに任せて電車に乗った。

香港という街は、大まかに四つの地区に分かれる。
香港島、九龍半島、新界、離島。
アヘン戦争後の南京条約で最も早く英国に割譲され、現在も香港の政治と経済の中心となっている香港島。
次に割譲され、繁華街である旺角や油麻地、尖沙咀などを有し、怪しい魅力と雑多な生活感をたたえている九龍半島。
1898年に99年間という条件で英国に租借され、現在では香港のベッドタウンとなっている新界。
そして離島は、その名の通り、香港周辺に散らばったランタオ島、ランマ島などの島々である(行政区画上、離島は新界に属している)。ちなみに香港国際空港も実を言えば離島だ。

私が宿をとったのは、多くの旅人と同じく(というか他にあまり選択肢がないのだが)九龍半島だった。
エアポートレイルの停車駅は、新界の青衣、九龍、香港。
すると、おそらく、「九龍」が最寄りだと推測できる。

九龍駅で下車し、地上に出て、まず驚いたのが、厳しい暑さだった。
ねっとりとした空気が身体中を多い、「これ以上歩いていたら倒れるかもしれない」という気にさせる。
そして次に驚いたのが、九龍駅の外は高いタワーが聳え立ち、高そうなレストランが並び、工事現場と海があるばかりだったことだ。
要するに、どのようにしたら市街地に出られるのか全くもって手がかりがないのである。

異国情緒あるビルだけが見える

めざせオースティン

さて困った。
外にいても汗をかくだけなので、駅構内に戻る。
すると、どうやら「オースティン(柯士甸)駅」と駅構内でつながっているらしい。
果たしてその駅からホテルがある「ジョーダン(佐敦)駅」までつながっているのかは分からないが、ビルの谷間で途方に暮れるよりはマシだ。
私はオースティンに向かうことにした。

ところが、このオースティン駅、一キロ先にあるのだ。
さして遠いわけでもないが、接続可能ですと主張されると眉をひそめたくなる。
それに何しろ外は暑いのである。

地下を歩き、地上に出て、歩道橋のようなところを歩き、オースティン駅に出る。
構内にあった地図を見ると、ここまで来れば、目的地であるジョーダン駅も徒歩で行ける。
と、いうか、オースティン駅とジョーダン駅を結ぶ地下鉄がない以上、歩いた方がはやそうである。

また蒸し暑い街に出るのか…。
若干ヘキヘキとしながら地上に出ると、私はのけぞってしまった。
そう、冒頭の、看板に室外機、クラクションに竹の足場である。
香港が目の前にあった。

日本ではお目にかからない竹の足場
香港の建物は上へ上へと伸びている

これが香港

ひと通り街の活気を吸い込んだら、元気が出てきた。
私は、今、香港に、いるのだ。

だが何よりもまず腹ごしらえ。
時間はもう15時に近い。
食べ物のリズムを整えるのが、少しであっても時差がある国での鉄則である。

情報量が溢れた街を歩けば、料理店は簡単に見つかった。
だが、なんというか、入る要領がわからない。
かつて旅した東南アジアのような屋台の雰囲気ではないし、台湾で見たような専門店形式ではない。
茶餐廳あるいは冰室という、朝から晩までなんでも食わせる店だったので、メニューらしきものを見てもイメージがわかないのだ。
食べたいものを食べれば良いが、暑すぎて、あまり食欲がない、というのも大きい。

だが、店に入らねば始まらない。
私は適当に、入りやすそうで、なおかつ、客もいる店を選んで、ドアを開けた。

「ハロー…!」

(続く)

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