マレー半島縦断事始
シンガポールからチェンマイまで陸路で縦断する。
赤道からスタートして、緯線を18.77度越える旅路である。私は今、そんな旅の最中にある。
発端
これは人生を取り返すための旅である。
大学を卒業してから、社会というものとうまくやろうとしてきた。
やってみれば好きになるかもしれないと、大学院での研究も、その後は仕事も始めた。
だが、それを続けていくうちに、自分自身を見失うようになった。
大きな挫折があったわけでもないが、心の靴擦れ、とでも言えようか、徐々に、少しずつ、摩耗していく感覚がそこにはあった。
改めて、自分を見つめ直した上で、人生を始め直さなければ。そんな思いが強くなった。
大学時代、自分を見つめ直し、試す時間を与えてくれたのは常に旅だった。
だから、私は社会生活に一区切りつけると、ヴェトナム、インド、台湾、北海道・東北…と一人旅を続けた。これらの旅はそのうち、また文章化したいと思っている。
どれも漠然としてではあるけれど、得るものは大きかった。
かつて何度も旅をしたヴェトナムではかつての楽しかった時間を。
インドでは強烈なうまくいかなさと格闘しながら旅を続けていく力を。
台湾では改めて新しい街を歩く楽しみを。
そして北海道・東北では自分の今の位置を。
残念ながら、2024年無職の旅、とでも言えるこの旅も、そろそろ資金がつきそうだ。
だが、何かもう一つ足りていない。
比較的時間をかけて旅をしながら、自分と向かい合う時間が欲しい。
その時思い浮かんだのが、マレー半島の横断だった。
この機会にできる最後の旅はこれしかない、と。
マレーへ
なぜマレー半島か。ほとんど理由などない。
強いて言うなら、そこに一本の道があるからだろう。
シンガポールからチェンマイまで。
そこには、マレー鉄道とタイ鉄道という二つの線路が敷かれている。
距離にして約2,000キロのその長大な道を自力で進んで行ってみたい、と思ってしまった。
沢木耕太郎の言葉を借りれば、私にとっての今「北上すべき1号線」はマレー半島にあったのだろう。
現在、私はクアラルンプールにいる。
そろそろ旅を前に進めなければ、と思いつつ、この街から何となく出られていない。
今さっきも延泊の手続きをしてしまったところだ。
だから、と言っては変なのだが、今までの旅の記録を徐々に投稿していこう、という気が起きてきた。
整理をつけて、前へ進む。自分が今どこにいるのか知り、どこへ向かうのかを定めるにはこれしかない。
この旅の始まりであるシンガポールから話を始めよう。
(つづく)