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犬島 ~瀬戸内アートの旅~

去年直島と豊島を訪問したのですが、もう一つ行きたかったのが犬島(いぬじま)という小さな島です。
ここには「犬島精練所美術館」という、廃墟となった銅の精錬所を再生した美術館があるそうです。
ただし去年はコロナの影響で島自体が入場禁止になっていたので、今年改めてチャレンジしてきました。

犬島へのアクセス

人口50人、周囲がわずか4kmという本当に小さな島で、岡山の宝伝港からは高速艇で10分と近いのですが、直島から行くには高速艇で豊島を経由していくしかなく、約1時間ほどかかります。
四国汽船の定期便が直島から一日3本出ています。
ただ、犬島に行く場合は豊島での途中下船ができないため、気を付けましょう。
https://www.shikokukisen.com/instant/

ちなみに「犬島」という名前の由来は、菅原道真が九州の太宰府に流される途中で潮に流され遭難しそうになった時に、かつて飼っていた犬の鳴き声に導かれてたどり着いたのがこの島で、そこに自分の犬そっくりの石があったので「犬島」という名前で呼ばれるようになったという説があるそうです。(諸説あり)

犬島での移動

移動手段はずばり「徒歩」です!
この島は小さくてバスはおろか、レンタサイクル屋さんもありません。
とはいえ4kmをアートを見ながら歩くとなると結構時間はかかりますし、今回は真夏の訪問だったのでとても暑く、観光は精錬所美術館と家プロジェクトのみを回ることにしました。
他にも海水浴場や「犬島くらしの植物園」というスポットもあるようなので、時間と脚力に自信のある人は行ってみてください。

犬島精練所美術館

犬島港に到着すると「INUJIMA」と書かれた黒色の建物(焼杉の壁なので黒い)が目に入ります。そこがチケットセンターになっているので、精練所美術館と家プロジェクトの共通チケット(2100円、15歳以下無料)を購入します。
そこにはお土産屋さんとカフェも併設されていて、食事や喫茶ができるのはここしかない(はず)ので、ランチや休憩に活躍することになります。

私が着いたのは13:05の便で、既に直島で軽く昼食を済ませていたので、とにかく精錬所美術館に直行することにしました。
チケットセンターから美術館までは海沿いの遊歩道を歩いて5分ほどですが、芝生と歩道が整備されていて、美しい瀬戸内の海を見ながらぶらぶらと歩きます(ただし真夏の日差しは強烈で日陰もなく、5分でも汗だくになりました…日傘があると良いと思いました)

船からみた犬島港
精錬所から見たチケットセンター
綺麗に整備された海岸沿いの遊歩道

この精錬所は113年前の1909年に銅の精錬所として創業したそうですが、銅の価格が暴落したことでわずか10年で閉鎖され、その後はずっと放置された廃墟だったそうです。
直島のベネッセハウスで個展を開いた柳幸典さんというアーティストが、1995年にこの廃墟に一目ぼれしてアートの力で再生させたいという強い思いを抱いたのがきっかけだそうです。実際に柳さんは実際にこの犬島に住んでみたそうで、その頃は定期船もなかったため、船を自分で操縦して岡山まで買い出しに行かれていたそうです。
ただ一方で、この島を産業廃棄物のゴミ捨て場にするという計画も持ち上がっており、それを食い止めるためにベネッセの福武さんが精錬所の土地を購入し(!)、福武さんの紹介で三分一博志さんという建築家とコラボレーションする形で、「自然エネルギーや島の資源を利用してこの精錬所を再生する」という建築とアートの融合プロジェクトになったそうです。

精錬所の入り口
廃墟感満載のカンバン

精錬所美術館のゲートをくぐると、そこからはレンガが敷き詰められた空間が広がっていました。
そこはまるでローマ遺跡にもぐりこんだような、少し迷路のような構造になっています。
後で知ったのですが、この黒っぽいレンガは「カラミレンガ」と言われる銅を生成した残りかすを使ったものらしく、35%がガラス、60%が鉄でできているそうです。
鉄は太陽の熱を受けて暖まるのが早く、その熱をガラスが保持してくれるため、自然エネルギーとして理想的な素材ということで1万7000個のレンガを採取してこの美術館に使用されたそうです。

カラミレンガによるエントランス
美術館のショップには実際にカラミレンガの説明とサンプルがあります

精練所美術館の内部は撮影禁止になっているので写真はありませんが、中に入るとまずは何度もカクカクと曲がる真っ暗な廊下が続いています。
まっすぐ歩いた先に出口の光が見えるのでそれを目指していくと、実はその光は鏡に反射したものでした。そこで45度曲がり、更に奥に進むと同じように鏡にぶち当たり、また曲がる…ということを繰り返して奥に進んでいきます。まるでラビリンス…
実はこれにはとても重要な意味があり、この廊下自体が精錬所の大きな煙突を利用した自然空調システムになっているんだそう。
煙突は空気を上に吸い上げる力が強く、入口から奥に向かって進むことで徐々に空気が冷やされる仕組みになっているそうです。
この施設は電気を全く使っておらず、風車や太陽光パネルなどもないため、真っ暗な廊下に光を取り入れるために鏡が使われており、この45度に折れ曲がる廊下の奥から入口まで光を正確に取り入れるためには紙一枚分のズレも許されないらしく、調整に6週間もかかったとか…

犬島精練所美術館のHPより抜粋
https://benesse-artsite.jp/art/seirensho.html

その廊下を突き進んでいくと、大きな部屋に出ます。
天井がアーチ状になっているその空間が「ヒーロー乾電池」という柳さんのアート作品になっており、部屋の真ん中には44トンもある巨大な花崗岩の一枚岩の上に、和室のような空間が宙づりする形で設置されています。

かつて日本の近代化に貢献し、隆盛を誇ったが、現在はその跡を残すのみとなった犬島製錬所に、日本の近代化に警鐘を鳴らした小説家・三島由紀夫というモチーフを重ね、建築と協働による6つのスペースを作品として展開し、今後の日本のあり方や現代社会について問いかけています。

https://benesse-artsite.jp/art/seirensho.html

事前に勉強せずに行ったため、「この和室はなんじゃろ?」と思っていたのですが、実はこの部屋の材料は全て三島由紀夫の邸宅から持ち出された建具だそうです。
なぜそんなことができたかというと、ベネッセの福武さんがその三島邸を所有していたから(!)、そこから持ってきたという驚きの理由でした。ベネッセおそるべし!

また、44トンもある一枚岩は、犬島で取れる良質な花崗岩を切り出して使用したらしく、その表面にたたえられた水が風でゆらめくことで風の流れを視覚化し、「日食の太陽」が出現する仕組みになっているそうです。
この辺りも知らずにただ鑑賞しただけで、後からブログを読んで「おお~!」となりました。事前の予習は大事ですね…

その後は部屋を出てオープンなスペースにある三島由紀夫の言葉が書かれたもう一つの作品を鑑賞し、小さなショップを見て外に出ました。
外に出てもそこで終わりではなく、そこからは精錬所を少し高台から眺めることができる歩道や階段が設置されているので、ゆっくりと島の景色を見ながら高度経済成長の波に翻弄されたこの廃墟や人々の営みを感じながら散策できるようになっています。

精練所美術館のコンセプトモデル
この煙突自体も「イカロス・タワー」という作品だそうです
正に廃墟
聞こえるのは鳥やセミの鳴き声だけでした

なお、敷地内にはもう一つ印象的な建物がありました。
これはこの精錬所に電力を供給するために建設された発電所の名残だそうですが、ツタが絡んでまるでローマの遺跡のような美しさを見せていました。

とても美しい建物なので、お見逃しなく!
チケットセンターのカフェに戻り、ジンジャーかき氷を頂きました!


家プロジェクトと犬島のアートたち

ここからは犬島に点在するアートを歩いて廻りました。比較的小さなエリアに「F邸」「S邸」「I邸」「A邸」「C邸」の5つのギャラリーと「石職人の家跡」があり、共通チケットがあれば見学ができます。

「S邸」
「A邸」

写真撮影がNGのところも多いので、詳しくはこちらをご覧ください。

アート作品だけではなく、犬島の素朴な街並みや海の風景そのものがとても美しくて心を落ち着かせてくれますので、ぜひアートを巡るだけではなく休憩をしながらゆっくり島の雰囲気を感じてみてください。

昔ながらの街並みもアートの重要な構成要素です

mt project

最後にひとつ、とても印象に残ったアートプロジェクトをご紹介します。
「mt project」と呼ばれる一見何の変哲もない古家なんですが、中に入ってビックリ!数えきれないぐらいの「マスキングテープ」が家の中を彩っています。

外から見るとこんな感じ
実は前のカラフルな床もマスキングテープ!
家の中にはマスキングテープの森がありました

実はこれは「カモ井加工紙」というマスキングテープを製造販売している会社が興したプロジェクトらしく、2022年の7月20日から8月31日の期間限定アートプロジェクトになっているようです。
家の中にはショップもあり、沢山のかわいいデザインのマスキングテープやTシャツなども買うことができます。
この犬島だけではなく、牛窓や倉敷でもマスキングテープを使ったポップで楽しいアート作品を展開しているようです。これは楽しい!


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