直島、豊島アートの旅「いよいよ豊島へ!」
昨年投稿した直島への旅の続編です(一年越しに再開…)
旅の最終日、いよいよ未知の場所「豊島(てしま)」に行くことにしました!
私の場合は直島から行ったのですが、小さめの高速艇で30分ほどで着きました。思ったよりは遠くなく、両側に瀬戸内海の島々を眺めながらのショートトリップが楽しめました。
高速艇は25人乗りぐらいでした。船尾のデッキにも座ることができて、潮風を切って気持ちが良いのですが、船内の方がエアコンがきいて涼しく振動も少なめなので、船酔いしやすい人は中をおすすめします。
動画でお見せできないのが残念ですが、結構なスピードで進むので水しぶきもかなり立っています。
ただ、瀬戸内海は波が穏やかなので、思ったより酔わないかも知れません。
左右の景色を交互に楽しんで写真や動画を撮影していると、いつの間にか船は速度を落として行きます… いよいよ豊島に到着!
家浦港は直島からの高速船や、フェリーが発着する玄関口にあたり、旅の始まりと終わリの起点になります。直島と比べるととてものどかな雰囲気で、港には券売所や待合室を兼ねた旅客ターミナルのビルがポツンとありました。
豊島の家浦港は直島と比べても圧倒的に緑が多く、乗降客も自分の乗った高速艇にいた数名しかいなかったので、第一印象は「のどか」の一言でした。
船が着いたら、客引きのおじいちゃんが軽自動車の横で「レンタサイクル」のプラカードを持っていたので、それに引き寄せられて電動自転車を借りました。確か「緋田(あけだ)石油?」というガソリンスタンドのレンタサイクルで、港からは徒歩5分ほどの距離でしたが、あとでよく見たら船着き場のビルにもレンタサイクルがありました。料金は確か4時間で1000円、一日で1500円だったと思います。
https://teshima-navi.jp/rental/
豊島は自家用車の乗り入れをしないように推奨されていて、島内の移動はバスか自転車になります。バスは約1時間半で一本しか運行しておらず島民の方が優先になるので、旅行者の移動は電動アシスト自転車がベスト!です。
豊島は起伏の激しい地形なので、脚に自信のある人以外は電動アシストがマストです!
いよいよ島巡り
スイスイ進む自転車を西にある「豊島美術館」に向かって漕ぎ出しました。ひろーい青空、エメラルドブルーの海、そして島の殆どが山と森に覆われた大自然という素晴らしい風景が続いています。
今回は時間もあり天気も良かったので、島をぐるっとほぼ一周する事にしました。船着き場→①豊島美術館→②心臓音のアーカイブ→③唐櫃(からと)地区→④自然の中をサイクリング→⑤豊島横尾館をまわり、ランチや休憩なども入れて5時間ほど過ごし、その後船の出発まで時間があったので①豊島美術館に戻って別れを惜しんでから帰りました。
島は小さいので、どこにも立ち寄らずぐるっと回るだけなら2時間もあれば大丈夫なのですが、島のほぼ中央にある檀山(だんやま)という300mほどの山がある関係でルート全体を通して結構なアップダウンがあります。
殆どの観光スポットは島の北半分にあり、ほぼ一本道なので迷う心配もありません。
船着き場(家浦)→①豊島美術館
ここは旅の始めなので気分も上がっているため、さほど疲れる事なく走破できましたが、それでも真っすぐ走って30分ほどは見ておく必要があります。上り坂も多いので、女性やお子さんの場合は休憩なども考えてたっぷり余裕を持って計画されることをおすすめします。
豊島美術館は前日までの事前予約で10:00から入ることができますが、船で9:50に到着してからレンタサイクルを借りて行くので、男性一人旅の場合でも10:30以降の時間で予約するのがオススメです。
途中でこういった素晴らしい風景が見られるので、写真を撮ったり空気を吸ったりする時間的余裕はあったほうが良いと思います。
豊島美術館に向かうラストは海を真正面に見ながらシューッと下る最高に気持のよい坂道!スピードの出しすぎには注意しましょう…
豊島美術館の敷地内。視界の殆どを空、海、緑が埋め尽くし、ほんの少しだけ白いドームのような建物が見える程度です。(この建物はお土産屋さん)
いよいよ①豊島美術館
敷地の手前にある駐輪場に自転車を停め、チケットセンターへ。そこで予約した際のメールを見せるとチケットを発行してくれます。料金は1570円ですが、その日であれば再入場可能なのが嬉しい限りです。(直島の地中美術館などは再入場不可)
この美術館は、これまで私が少ないながらも訪れた世界各地のどの美術館とも全く違う、「トコロ」でした。
普通の美術館というのは建物に入ると絵画や彫刻が展示されていて、そういった部屋を歩きながら色々な作品を鑑賞しますが、ここでは全く違う「体験」をする事になりました。
まずアートスペースに行くまでに、森の中の小道を辿って歩きます。この時点で既に自然との対話が始まり、頭上を覆う樹々からの涼しさや鳥のさえずりを感じつつ、ときおり左側に見える美しい海を眺めながら歩を進めます。
その後、全く威圧感のない、巨大な「まゆ」のようなドーム状のアートスペースに到着します。ここで靴を脱いで、中では声を出さないようにする事や、水滴なども展示物になるので踏んだりしないように気をつけるようにという説明を受けます。
そして小さな入口からドームの中に入るのですが、そこに広がる光景は今まで見たことのないものでした。
ドームの中は柱が全くない完全な空洞になっていて、天井部分にぽっかりと大きな穴が二箇所開いています。
そして、来場者の人々が思い思いの場所に座ったり佇んだりして、空を見上げたり床を伝う水滴をただ無言で眺めている…
たったそれだけなのですが、それが正に「息を呑む」ほど静謐で美しい空間として一つの作品を形成しているのです。全く言葉や文章で表現することができないのですが、正に言葉が全く必要ない絶対的な空間が存在しているのです。
私はただひたすら、そこで一時間ほどじっと座って風に吹かれてザワザワと揺れる樹々や流れる雲を眺め、鳥のさえずりを聴いていました。天井の開口部には風の動きを目でも感じることができるようにとても細い糸がU字型に吊るされており、それがゆらゆら、ふわふわと浮き上がる様子を見るのもとても楽しいのです。
また足元を見ると、本当にちっちゃな「水滴」が真っ白でなめらかな床からプクッと産まれてきて、それがわずかな傾斜に沿って進んでいき、その途中で他の水滴と合流して大きな水玉になり、そこから更に進んで水たまりまで旅をする様子を見るのも、一度たりとも同じパターンはなく、まるで命が生まれて育っていく過程をみるような不思議な感覚になります。
まるで自然と一体化しているような感覚になれるし、この空間すべてが一つの大きな「母型」と呼ばれるアート作品になっています。
詳しくは「直島・瀬戸内アートの楽園」という本に内藤礼さんのこの作品に関する寄稿をされているので、興味のある人は読んでみてください。シンプルに見えるこの作品ですが、実際にはものすごく緻密な設計がされていて、そのこだわりや情熱が多くの人を惹きつけてやまないのだと思います。
②心臓音のアーカイブ
豊島美術館から坂を下って唐櫃港を越え、豊島の東の果てにある「王子ヶ浜」という海岸までいくと、ようやくそこにポツンとたたずむ、とても小さな美術館がありました(果たしてここも一般的な「美術館」という呼称が適当だとは思えない気もしますが…)。
ここはクリスチャン・ボルタンスキーというフランスの芸術家が世界の14か所から集めた人々の「心臓音」を保存しているアーカイブです。
受付で入場料を支払い、ハートルームと呼ばれる部屋の扉を開けると、そこは小さな真っ暗な空間になっていて、しばらくすると突然大きな心臓音(ドクドクというより、ドゥオン!ドゥオン!というような大音響)が鳴り響き、それに合わせて黄色い電球が激しく点滅しだしました。
その大音響と光の点滅が数分続いたでしょうか…いったん静かになったと思ったら、今度は別の人の全く違う心臓音がまた大音響で鳴り響きました。心臓音なんてみんなドクンドクンと同じようなものかと思っていたのですが、人によって全く違う音がすることを知りました。
私は予備知識もなく行ったので正直かなり驚きましたし、少し怖くなってしまって数分で部屋を出てしまいましたが、まるで子宮の中にいる赤ん坊になったような原初の気分が味わえます。
なんと、ここには7万5000以上の心臓音が保存されていて、リスニングルームにはそれらの全ての音を検索して聞くことができるPCとヘッドフォンがあります。また、1570円を支払えば自分の心臓音を録音してCDとして持ち帰ることができるレコーディングルームもあります。
ボルタンスキー自身も自分が生きた証として心臓音を何度も録音しているそうです。
https://benesse-artsite.jp/story/20220112-2226.html
ボルタンスキーがこの地を気に入った理由は「巡礼」にあるそうです。巡礼というのは日常的な空間を離れて聖地を目指して旅する宗教的な行為ですが、フランス人の彼からすると極東の日本という国の、更に東京からも遠く離れたこの地を目指してやってくる行為そのものが重要な意味を持つと考えていたようです。
好き嫌いがはっきりと分かれる美術館だと思いますが、世界でここにしかない唯一無二の存在であり、その個性は際立っています。
③唐櫃(からと)地区
ここは島の東側にある大きな集落で、昔ながらの家並みが沢山残っている風光明媚な村です。心臓音のアーカイブがある唐戸港から坂道を登って戻る形になりますが、飲食店があるのはここだけです。
ここには「唐櫃の清水」と呼ばれる湧き水や、島キッチン、ストームハウスなどのアートが多数点在しています。
普通に皆さん生活されているので、敷地に立ち入ったり家を覗いたりしないように気をつけましょう。美しい青い瓦と焼杉の壁が印象的でした。
岡の上からは瀬戸内海や棚田が一望できます!
島キッチン
この辺りでは数少ない飲食店です。ここでは「島キッチンセット」という地元で採れた食材を中心にした見た目にも美しいランチが1650円で頂けました。
流行っている店なので、並ぶのは覚悟していきましょう。
この日のメニューはこんな感じ
唐櫃の清水と空の粒子
唐櫃は壇山から湧き出る豊かな水源に恵まれていて、昔ながらの村の水場があります。
こんこんと湧き出る水は棚田や畑の水として使われ、いまでも村人が交代で清掃をしています。
そのすぐ横には青木野枝さんという人の作品「空の粒子」がひっそりとたたずんでいます。錆びた鉄のような素材を組み合わせて輪っかと柱が組まれており、その場に溶け込むシンプルなアート作品になっています。
ストームハウス
これも唐櫃地区にあるのですが、古い民家を改装して大雨と雷雨を疑似体験できるジャネット・カーディフさんとジョージ・ビュレス・ミラーさんによるアート作品になっています。中に入ると昭和感満載の畳敷きの部屋があり、中は薄暗くなっています。
しばらくすると更に暗ーくなってきて、窓ガラスがガタガタと風で揺れ、雨がポツポツと降ってきます。
そのうちゴロゴロと雷が鳴り始め、外は土砂降りの雨と暴風が吹き荒れるのですが、また時間が経つと嵐が去って薄日が差してくる…
そんな一連の体験ができる家になっています。
※残念ながら、2022年時点で閉館になってしまったようです
④島の周遊サイクリング
さて、唐櫃地区で色々なアート体験をした後は現実世界に戻り、島をぐるっと回る県道の東側と南側をサイクリングしてみました。
島のコチラ側は見どころが殆どなく、交通量が極端に少ないのでサイクリングには最適です。
しかも高台を走るルートになっていて、眼下には美しい瀬戸内海と島々が見えますし、反対側には壇山の豊かな緑や、ミカン畑、オリーブ畑などを眺めながらのんびりと走ることができます。
島の南には甲生(こう)地区という集落があり、いわばしなびた漁村のような趣です。ここにも「豊島八百万ラボ」というアート作品があるのですが、私が行ったときは休館でした。
しかし、誰もいない港や砂浜、小さな神社などはそれだけで癒しの空間になっていて、ただぼーっと海を眺めて過ごすだけでもとても満たされた時間でした。
⑤豊島横尾館
甲生から今度は北に向かって坂道を登って家浦港を目指していきます。
10分ほど走ると山を下りて住宅がある地域にたどり着くのですが、最初に自転車を借りた「緋田石油」のすぐ近くに「豊島横尾館」がありました。
ここはアーティスト・横尾忠則さんと、建築家・永山祐子さんの共同作品で、古い民家の特徴を生かしながら横尾忠則の独特な世界観を表現しています。
残念ながら建物内部の撮影は禁止ですが、豪快でグロテスクでもあり、生々しい筆と色使いによる「生と死のY字路」をモチーフにした多くの絵画が展示されています。また、庭には真っ赤な色の岩で彩られた「三途の川」があり、そこと連続した母屋のガラス張りの床の下には鯉が泳ぐなど、訪れる者を惹きつける演出があらゆるところに見受けられます。
また、離れには膨大な数の滝の写真が一面に並ぶ円形の筒の空間「滝のインスタレーション」があったり、宇宙的なデザインの銀ピカトイレなど、どこを切っても横尾忠則の世界が楽しめます。
ここも単なる美術館ではなく、古民家の再生と現代アートが複雑に絡み合った野心的な作品であり、一見の価値ありです。
まとめと注意事項
かなりダラダラと書いてしまいましたが、豊島は直島よりも自然が豊かで人が少なく、アートも個性が強くて野心的な作品が多いような気がしました。
私の個人的な感想では「豊島美術館」が世界に誇る唯一無二のスポットであると感じたので、ここにいくためだけに毎年豊島を訪れたいと思っています。
また、別の人は「心臓音のアーカイブ」に心を奪われ、ここにだけ行きたい!と言われていたので、ひとそれぞれの感性に合った旅ができるのも瀬戸内アートの楽しみではないでしょうか。
一点気を付けて欲しいことは、殆どの飲食店が「不定休」になっているということです。
豊島は基本的に火曜日がお休みで、火曜が祝日の場合はその翌日が休みとなり、全てのアート施設が閉まるのですが、飲食店はそれ以外にも客足や仕入れの状況などでお店を休んでしまうケースがあります。
コンビニもありませんので、そんな時はきっぱりあきらめて、ひたすら空いているお店を探すしかありません。
Google Mapなどで調べればお店は出てくるのですが、私が知る範囲では昨年と今年の訪問時に下記のお店が空いていました。
島キッチン(唐櫃地区にある人気店、2022年に行ったときは関係者のみの営業と断られた)
喫茶オリーブ(家浦と唐櫃の間にあり、潜水服の人形が目印。ここは空いている確率高し)
海のレストラン(家浦の東側にあり、海沿いの美しいロケーション。美味しいピザが食べられます)
喫茶シーサイド(家浦の港にあり、定食やビール、デザートもあります)
飲食難民にならないよう、食事は見つけたお店で早めに済ませるのがコツです。