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カスハラを考える 第三弾 - カスハラの定義と法律の扱い

シリーズ「カスハラを考える」

カスハラを考える 第一弾 - 経営視点で考える1人の問題客と999人の良好な顧客関係

カスハラを考える 第一弾 - 経営に影響を与えるカスハラ問題

「カスハラとはなにか?」という問いに対する明確な回答は実は難しい。企業や業界によって事業環境や顧客対応の基準などが異なり、なかなか一括りにできないというのが実情である。また、カスハラの対象は顧客や取引先ということになり、パワハラやセクハラのような職場内での事象とも異なり、「事業主」と「労働者」という単純な二元論で捉えることもできない。このあたりが、企業におけるカスハラ対策への温度差に現れているのだろう。
 2022年、厚労省は「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を公開している。ここでは前述したような企業や業界の対応基準などの違いを踏まえつつ、次のようにカスハラの定義を示している。

『顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの』

 ここで重要なのは傍線部分の「内容の妥当性」と「社会通念上不相当」という部分であろう。法治国家である日本において、当たり前のことであるが『妥当性が認められない不当な要求』や『法に抵触する言動』はハラスメント以前に処罰の対象となることは理解できるだろう。後述するが、正当なクレームとカスハラの見極めにおいても大切なポイントともいえる。
 例えば、こんな例がある。社内の業務を選り好みして、社内の指示に従わない社員がいたため、企業側はこの社員に対し、注意を何度も繰り返し、退職奨励も行ったが拒否されてしまう。その後も改善が見られないため強制的に部署異動を行い、主要な会議にも参加させず、共有サーバへのアクセス権限も解除してしまった。この社員は異動先で社員は荷物の整理などに就き、重い荷物の持ち運びなどで体調不良をきたすが、それでも改善が見られないため会社側はこの社員に対し、解雇を通告。しかし、またもや納得いかないとして提訴されることになった。裁判所が下した判決は「解雇は認められる。しかし、社員を孤立させたこととあえて重労働を強いたことは不法行為」として一部慰謝料の支払いを認めたのだ。企業側としては、問題社員への対処として最善を尽くしたつもりであろうが、「内容の妥当性」と「社会通念上不相当」を勘案され、結果として一部の慰謝料支払いを負うことになったのだ。なんとも納得いかない判例かもしれないが、カスハラ対策も同様の見極めが必要。自身が最善を尽くしたつもりでも、結果として客観的な判断において思慮が欠落していれば、逆に大きな痛手を負うのは企業側になってしまうのである。

 では、企業側にとってどのような顧客・取引先の言動がカスハラに該当するのか。
簡単にまとめると次のようになる。

  • 「言葉による攻撃」 侮辱的、脅迫的、または差別的な言葉を使って従業員を攻撃すること。

  • 「肉体的接触」 不必要に触れる、押す、たたくなどの身体的な接触

  • 「精神的圧迫」 無理な要求、極端なクレーム、過剰なクレーム、繰り返しの嫌がらせ

  • 「性的カスハラ」 不適切な性的言葉や行動を行うこと

 このような事象が発生した際は「内容の妥当性」を論ずる前に、「社会通念上不相当」な行動と認められる可能性が極めて高い。ただし、ハラスメント等の事象には必ずそこに至る前後関係があることを忘れてはならない。その点を踏まえ、カスハラに対する基準を社内で明確にし、各社員の判断基準とすることが大切なのである。

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