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『ひだまりが聴こえる』8話(日本/テレビドラマ/2024)

中学卒業時に患った突発性難聴のせいで人と距離を置いて付き合うようになった杉原航平役を中沢元紀、航平と偶然に大学のキャンパス内で出会い、授業補佐のためのノートテイクを引き受けて仲良くなる佐川太一役に小林虎之介。

小林虎之介くんの演技に見入ってしまう

中沢元紀くんが素敵だと何度か書いたけれど、小林虎之介という人の演技力もこのドラマの欠かせない魅力だと思う。

元気いっぱいの太一を演じる虎之介くんだが、本人は太一とは年齢も違うが、性格もかなり違うらしい。インタヴューなど読むと、元気いっぱいな感じを出すのは結構彼にとっては疲れることもあるようだ。ただ、この”虎之介くんが頑張って元気な太一になっている”感と、”両親に拒絶されるという辛い経験をして今もその寂しさをどこかに抱え続けているけれど明るい太一”が幸い私の中で重なって、いい具合に”ドラマの太一”になっている気がする。

太一は明るくて、元気で、まっすぐで、正直で、自分を飾らない人。多感な思春期に両親に拒絶されて祖父と暮らすようになったという辛い経験もしているが、今は元来の天真爛漫さを取り戻している。普通に明るく演じたら、現実味がなくて薄っぺらくなりそうな気もする。でも、虎之介くんの太一は、明るいけれど軽くない。中身がしっかり詰まっているというか、骨太な感じがある。
彼が物語の中で誰かに向かって話す言葉のメッセージはとても強くて、その言葉がとても心に響いてくる。その言葉をときに怒ったり、泣きそうになったりしながら相手に伝える姿は、男っぽくてカッコよかったり、子どものように健気だったりする。でも、もし明るくて軽くて薄っぺらい太一がそんな心に染みる言葉をカッコよく突然言ったら、なんとなく太一という人物像がまとまらなくなる気がする。いつも子どもみたいなのに、突然ビシッと核心をつくようなことをいう人だとしたら、現実味のない人物像になってしまいそう。
そうならずに、自分の気持ちに正直だからこそ様々な面を見せる太一をまとまりある一人の人物に作り上げているのは、小林虎之介という人の演技力の素晴らしさなどだなぁと感じている。
私は虎之介くん演じる明るいけれど軽くない骨太な太一が大好きだ。

川崎鷹也『夕陽の上』のリリックビデオ

ドラマの映像を使ったMVということで見た。8話では二人仲直りできてたのでちょっとほっとして油断して見たら、なんか悲しげな映像も多くて、あー・・・。川崎鷹也の声が、詞が染みすぎる・・・。すごくいいんだけどねぇ、この歌。ドラマに合いすぎて、どうしようもなく悲しくなるのよ・・・。

あらすじ

ある日航平は学生課で今年は専門科目も増えるので、ノートテイカーは学生課を通してスキルのある人を手配したほうがいいと勧められる。

太一は新年度のノートテイクのための科目を航平と相談したいが、航平と太一の仲をよく思わないマヤに邪魔されて、なかなか話すことができない。

ヤスと映画研究会のメンバー、ヨコたちに誘われてマヤがボーリングに出かけた日、航平は自宅で母親主催の男の料理教室を手伝う。そこで作った手料理を、太一の家に届ける。
「食べてもらいたい人、太一しか思い浮かばなくて・・・。迷惑だったよね。じゃあ・・・」と、お弁当を手渡して足早に立ち去ろうとする航平。「は?おい、待てって!」その腕をしっかり掴んで太一は航平を引き留めた。

縁側でお弁当を広げ、食べながら二人は久しぶりにゆっくり話すことができた。料理のおいしさを褒めながら航平に料理の仕事をしてはどうかと提案した太一に、自分に仕事にできるほどの料理の才能があるとは思えないし、何より太一以外の人に食べて欲しいとは思わない、と話す。

航平がノートテイクを今年も太一に依頼すると、太一は快く引き受けてくれた。ほっとして喜ぶ航平。
穏やかな時間を過ごしながら、互いの気持ちがさらに通じ合う二人だった。

夜、祖父の源治が帰宅し、庭先で線香花火をしながら3人でなごやかに過ごす。仲のよい二人を見ながら源治のかけた何気ない言葉に、太一と航平の気持ちは揺らめいた。

<感想>

私はマヤを克服した。

英単語帳の暗記用例文みたいだな。でもそんな気分だ。
前回マヤが登場してその言動に衝撃を受けていろいろ書いたが、あれから「マヤってそこまで航平のこと好き?」という疑問が湧いた。同じように聴覚障害を患っているかっこいい家庭教師の航平に、共感や憧れは持っていても、入学早々いきなり恋人になろうとまでは思ってないか・・・と。
マヤは、自分と同じ障害に悩む航平に自分を重ねるのだろう。だから航平に対して太一が不出来なノートテイクを提供するのも許せない。いい加減なことをしてお弁当を提供させている(とマヤには見えている)太一なんかと付き合わない方がいいから二人の間に立ちはだかる。無理して付き合うのに疲れたから高校時代の友達のメッセージグループから抜けた自分の行動を引き合いに出し、航平も無理をして太一なんかと付き合う必要はないと提案する。
マヤの太一への言動は今も好きではないが、きっとマヤは航平を一生懸命守ろうとしているのだろう。マヤにとって、航平はもう一人の自分。だから、傷つけられることもぞんざいに扱われることも都合よく利用されることも許せない。
8話を見ながらそんな風に思うようになり、また航平と太一の間に割って入っても彼らの恋愛にはそれほどの障害にはならない存在だとも感じ、結果、マヤを前話ほどは嫌ではなくなった。ということで、私はマヤを克服しました。

そういえば、マヤって左耳の方は聴力がいいのですね。ボーリングに行く前にマヤがヤスと待ち合わせた時に、ヤスがそのことに気付いて左に回って話かけるようにしていたことで気づきました。

光と陰影が美しい太一の家でのシーン

光と陰影が美しかった。
疲れて帰ってきた太一が玄関に倒れ込んでいた時の映像や縁側で航平お手製のお弁当を広げて二人静かに話すシーンで、光と陰影が効果的に使われて文学作品のような趣を醸し出していた。
太一が引き続きノートテイクを引き受けてくれたことにほっとして航平が和室にゴロンと横になって「俺、太一以外じゃ、嫌だからさ・・・」と言った言葉に、「そっか」とちょっと照れながら嬉しそうに答えた太一。航平が「あー、安心したら気が抜けた・・・」というと、「大袈裟だなぁ」と太一は呟きながら庭の方を見やった。その太一の後ろ姿をじっと見つめた航平が「太一・・・」と呼びかけ、おもむろに太一の手にそっと自分の手を重ねたシーンは、映画のような、小説のようなしっとりした雰囲気で素敵だった。驚いて振り返り、重ねられた手を見た太一に航平が言った言葉は、「ありがとう、太一」。「好きだよ」なんて言わない。重ねられた手を解くこともなく、航平を無言で見つめる太一の表情はとても静かで、優しかった。
二人は言葉ではっきりとは確かめ合っていないが、お互いに相手をとても大切に思い、友情よりも強い想いを互いに抱いていることが伝わってくる、美しいシーンだった。

線香花火の儚さに重なる二人の恋心

夜、二人は庭で線香花火をする。縁側に座って二人を見ていた祖父の源治が「いいよなぁ。ダチって、いいよなぁ。」と声をかけた。
二人は線香花火のほのかな明かりに照らされながら互いを見つめた。「いいんだよな?俺たちはこのまま、友達のままで・・・」と太一は心の中で問いかけながら航平を見つめ、太一を見つめていた航平は寂しげに、小さな火花を散らす儚げな線香花火に視線を落とした。
美しくて、悲しげで、切ないシーンだった。線香花火の儚さと、航平の寂しい表情が重なって、見ていて辛い。太一は、「このまま、友達のままで」と心の中で問いかけながらも、違う答えを求めている気がする。でも、互いを大切に思うほど、別の答えを選ばなくてはいけなくなるような雰囲気が溢れていて、見ていて辛い。辛いけど、とてもいいシーン。

思えば5話で航平がお別れを決断してキスをした後、二人は改めて一緒にいることを選び、少しずつ心を通わせてきた。でもあれ以来、手をつなぐことも、抱きしめ合うこともなく、「好き」「愛してる」も言わない。それどころか触れ合うこと、近づきすぎることにすらに戸惑うこともある。
恋人同士のような言動はないけれど、航平は折にふれ太一を大切に思っている気持ちを伝え、太一は少しずつそれを受け入れながら自分の気持ちの変化にもだんだんと気付いてきた。
確かめ合ったわけではないけれど、おそらく二人は互いに同じ気持ちを持っている。それなのに、いつもどこか二人が悲しげなのが、切なくて、とても辛い。

やっと二人でゆっくり話して仲良くできたのに、見ていてこんなに悲しくなるなんて。でも、改めていい作品だと思う。
来週もいろいろありそうで、予告を見てまた辛かった・・・。