英文学の書き出しその5:「クマのプーさん」
こんにちは。こんばんは。
今回はA・A・ミルンの児童小説「クマのプーさん」シリーズの第一話、「わたしたちが、クマのプーやミツバチとお友だちになり、さて、お話ははじまります(IN WHICH WE ARE INTRODUCED TO WINNIE-THE-POOH AND SOME BEES, AND THE STORIES BEGIN)」 について話します。世界的に有名で、日本でもアニメや映画の人気が高いと思いますが、実際に原作を手にとって読んだことのある人は少ないかもしれません。
第一話のタイトルを見ればわかりますが、ミルンはかなりユニークな文章を書く人で、だからこそ人々の印象に残り子ども人気も高いのかもしれません。こんな長いタイトルを使うなんて、ミルンは現代のラノベの流行を先駆けて取り入れたのかもしれませんね。
では早速「クマのプーさん」の物語の始まりを見ていきましょう。(補足:原作の文章は著作権が切れていて自由に使えるものの、挿絵は2024年現在自由に使えないので今回は本文だけ紹介しています)
注目の第一文ですが、ここでは「音」を強く意識しているのが分かります。具体的に言うと、bの音から始まる単語(Bear, bump, back, behind)を一つの文でいくつも並べています。詩ではこういう技法を頭韻と呼ぶらしく、読み手や聞き手にとって心地よいリズムを生み出します。例えば日本でも和歌の枕詞には頭韻の一種といえるものがあります(例:ひさかたの ひかり)
「クマのプーさん」はこどもに読み聞かせることも多い本ですから、そのぶん頭韻の効果も大きいでしょう。
そしてもう一つ気になるのが”Edward Bear”という名前です。これはクマのプーさん(Winnie the Pooh)の本名(という言い方が正確か分かりませんが)なので、クマが2ついると勘違いしないように注意してください。
2文目3文目はクマのプーさんの「プーのおバカさん(Silly Old Bear)」っぽさが伝わります。本にある挿絵を見ると分かりやすいですが、クマのぬいぐるみのプーはクリストファー・ロビンに片手で引きずられながら階段を下りています。ちょっと乱雑な扱いを受けたプーは「階段を下りるもっと良い方法はないのかなあ」と思いながら、結局下まで降りてこれてしまったので、「やっぱり他に降り方はないか」と納得してしまいます。階段ののぼりおりの仕方は子どもでも大方想像がつくでしょうから、このようなプーの良い意味での「馬鹿」さは子どもにもおもしろいと感じるでしょう。そして最後にこのぬいぐるみのクマの有名な名前が紹介されます。Winnie-the‐Pooh。Poohが何を意味するのか、諸説あって真相は分からないみたいですが、Winnieという名前はロンドン動物園にいたWinnipegという実在のクマから取られています。このWinnipegというクマは実は第一次世界大戦のときに飼い主とともに戦線までついていったという壮絶な過去も持っています。
ここの筆者とクリストファー・ロビンの会話は他愛のない可愛らしいやり取りですが、深堀りするとミルン本人とその息子の関係性が反映されているように感じ取れます。
まず、プーを持っているクリストファー・ロビンですが、実はミルンの息子の名前もクリストファー・ロビン・ミルンであり、「クマのプーさん」シリーズは父のA・A・ミルンが息子を題材に書いていると言われています。ここでのやり取りはもともとの名前がエドワードという男性名のぬいぐるみにWinnieという女性名をつけていることについて、クリストファー・ロビンが「『ウィニー・ザ・プー』じゃなくて『ウィニー・ザー・プー』だよ」と子どもらしい可愛い説明をしていますが、実際にミルンの息子も若いころは女の子らしい子どもだったとと回顧していたようで、この小説を通して我が子の個性を尊重しているように私には感じられます。
今日はここまで。
プーさんの話を読んだことがない人、子どものころ以来読んでいない人、大人になって読むと一人一人のキャラクターの個性が立ったより一層深くておもしろい話ですので、是非一度読んでみてください。
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