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英文学の書き出しその9:シャーロック・ホームズ「花婿失踪事件」

こんにちは。こんばんは。
RAPSCALLI😊N です。

久しぶりに今回は英文学の書き出しシリーズを更新したいと思います。

「英文学の書き出し」シリーズはその10まで行ったら終了しようと思うのですが、今回その9まで来たのでもうすぐ到達できますね。

さて、今回の記事ではアーサー・コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズの冒険『花婿失踪事件』」の冒頭を取り上げます。


本日の文章

原文

"My dear fellow,” said Sherlock Holmes as we sat on either side of the fire in his lodgings at Baker Street,
“life is infinitely stranger than anything which the mind of man could invent. We would not dare to conceive the things which are really mere commonplaces of existence. If we could fly out of that window hand in hand, hover over this great city, gently remove the roofs, and peep in at the queer things which are going on, the strange coincidences, the plannings, the cross-purposes, the wonderful chains of events, working through generations, and leading to the most outre results, it would make all fiction with its con-ventionalities and foreseen conclusions most stale and unprofitable.”

A Case of Identity (The Adventures of Sherlock Holmes)|Sir Arthur Conan Doyle

重要表現・単語

My dear fellow:  友などに親しみを込めて呼びかける表現
conceive: 想像する・考える
commonplaces: 日常茶飯事
hand in hand: 手を取り合って
cross-purposes: 互いに誤解して
outre: 常軌を逸した
con-ventionalities: 因習[習慣]性
stale and unprofitable: 味気ない

日本語訳

「いいかね。」とシャーロック・ホームズは、ベイカー街の下宿でふたり暖炉を囲み、向き合っているときに言い出した。
「現実とは、人の頭の生み出す何物よりも、限りなく奇妙なものなのだ。我々は、ありようが実に普通極まりないものを、真面目に取り合おうとはしない。しかしその者たちが手を繋いで窓から飛び立ち、この大都会を旋回して、そっと屋根を外し、なかを覗いてみれば、起こっているのは奇怪なること――そう、妙に同時多発する事象、謀りごとにせめぎ合い、数々の出来事が不思議にもつながり合って、時を越えてうごめき、途轍もない決着を見せるとなれば、いかなる作り話も月並みなもので、見え透いた結びがあるだけの在り来たりの無益なものとなろう。」

花婿失踪事件|加藤朝鳥訳・大久保ゆう改訳

本日の文章は先ほども言ったように、「花婿失踪事件」の冒頭を扱います。

こちらの冒頭の文章、実際の事件とは直接関係はないものの、シャーロック・ホームズの世界に対する見方、哲学が垣間見える非常に興味深い文章となっております。

始めの文章から見ていくと、シャーロック・ホームズが相棒ワトソンに語りかける場面から始まります。

些細なことかもしれませんが、はじめの一文を会話文、特に語りかけから始めるのには読者をひきつける効果があります。

そして、そこからホームズの思想が語られます。

一言でいうならば、「事実は小説より奇なり(Fact is Stranger than Fiction)」ということでしょう。

ホームズの言葉でいうと、手を取り合って街(ロンドン)の上空に浮かび、家の屋根をゆっくり外し、中の様子を除けば、偶然の出来事、はかりごと、勘違いなどがあまりに予想外な結果につながり、フィクションを越える素晴らしいものが見えるということです。

ものすごい洞察力の持ち主のホームズからすれば、人の見た目や持ち物からこういうおもしろいストーリーを見抜くことが出来たのが楽しみだったのではないだろうか、とついつい考えてしまいます。

そして、最後にラストワンフレーズを見てみましょう。

"it would make all fiction with its con-ventionalities and foreseen conclusions most stale and unprofitable."

私の推測ではありますが、このフレーズはシェイクスピアのハムレットのフレーズを意識して書かれていると思われています。

How weary, stale, flat and unprofitable,
Seem to me all the uses of this world!

Hamlet, Prince of Denmark

ハムレットのこの一文の前半がホームズの発言”most stale and unprofitable”とよく似ていますね。

ハムレットでは”Seem to me all the uses of this world!”と言っているように、現実世界のことを憂いていますが、逆にホームズは、すなわち作者のコナン・ドイルは空想の世界・フィクションの世界をつまらないと書いているのが興味深いですね。

最後に

いかがだったでしょうか?

今回はシャーロック・ホームズ「花婿失踪事件」の冒頭を扱いました。

ハムレットの内容を踏まえるなど、詩的でエレガントなコナン・ドイルの文章を体感いただけたら幸いです。

次回は、つまり英文学の書き出し最終回ではジョージ・オーウェルの名作「1984年」を扱おうと思います。

興味のある方は是非楽しみにしていてください!

では、また次回の記事でお会いしましょう!

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