日米のデキる上司のちがい

私が出会った上司の中で唯一、「かっこいいなぁ~」・「自分もいつか、ああなりたいなぁ~」と思えたのは、社会人になって二人目のオーストラリア人でした。

振り返ってみると、彼の人材育成術は「教えない」ことでした。壁にぶち当たった部下に対して、「褒めて自信を持たせて」、「質問して考えさせて」、「アイデアを出させて」、「背中を押して」くれました。

たぶん彼のなかにはあったであろう答えを一方的に押しつけることをせずに、部下自身に「どうしたらいいと思う?」と投げかけるやり方です。もちろん、部下がすっとんきょうなアイデアを出してくる場合もありますよね。そんな時は他の選択肢について繰り返したずねてきました。

で、上司である彼の考えに近いアイデアが出てくると、「ビンゴ」とか「グーッ」とか言いながら、「何か自分にサポートできることはないか?」とか「それを実行する上でボトルネックになるのは何だ?」とか訊いてくる。部下自身に考えようとさせるわけです。

最悪、部下の答えにどうしてもピンと来ないときに限って、「ちょっと口を挟んでいいかな?」と断ってから、「いついつどこどこでこんなことがあってさ……」という具合に、参考になりそうなエピソードを話してくれたものです。

そして、そういう時は必ず、部下を見つめながらではなく、窓の外を見やったりしながら、ひとりつぶやいてるみたいな感じで語っていたものです。おそらくこれは、部下に直接的に「こうしたらどうだ!」と言ってプレッシャーを与えたくなかったのだと思います。あくまでも本人に考えさせて、本人に、「これは自分自身で出したことなんだ」という自覚と覚悟を持たせたかったのでしょう。

つくづく、欧米の管理職は部下の人心掌握に長けているなぁ~と感じずにはいられません。これが初等教育からコミュニケーションを学んできた欧米のすごいところです。それがそのまま、今日の米国大統領と日本の総理大臣のメッセージ力の差になって表われていると考えていいと思います。

かつて、アメリカンスクールの授業の様子を見学に行ったことがありました。100平米くらいの教室に30名ほどの子どもたち。3歳から12歳までだったと思います。まちまちに好きな遊びに夢中になっていた子どもたちが、ある曲が流れると、それを合図にキャスター付きの椅子を引きずりながら教師の周りに扇形状に集まってきます。そして3分間スピーチやプレゼンテーションやディベートの時間が始まるのです。例えば3分間スピーチでは、「週末をどのようにエンジョイしたか」というテーマが与えられ、5分間の作戦タイムが与えられます。5分経つと、指名された5人が順番に発表しコメントをもらいます。その後で立候補を募り、さらに5人が発表します。

すごいのは、友だちが発表しているとき、全員が発表者の顔をちゃんと見ているということ。日本だとこうはいきません。他者の発表を聞かずに自分の準備をしていたり、そもそも参加していなかったり。ほとんどの生徒は発表者と視線を合わせていない。保護者たちだって、廊下で飲み会の会場決めをしたりしていて授業の様子を観ていないことさえある。信じられません。ちなみに、話し手を萎えさせる聞き手の態度のトップは「話し手のほうを見ないこと」。これをやられると話し手は著しくモチベーションが下がります。まぁ、カラオケも一緒でしょう。

私が社会人デビューした軍隊教育の時代は、上司がマイクを握ろうものなら、上手かろうと下手だろうと、みんな立ち上がってスイングしたり手拍子したりしながら盛り上げたものでした。しかし、いまはちがいます。部下たちは耳栓こそしていませんが、誰ひとり上司の歌なんぞ聴いちゃいませんよね。スマホをいじったり、ピザをほおばったり、タッチパネルで選曲したり……。すでにお話しした通りです。そういう時代なのだと認識しましょう。

話し手(歌い手)のパフォーマンスを決めるのは聞き手の聴き方です。そのことを上に立つ者はしっかりとわきまえておきたいところです。部下の報告や相談に対して、人として礼のある真摯な態度で向き合っているかどうか。斜に構えたり、他のことをやりながら聞いたり、途中で遮ったり、「なんだ、そんなことか」と不用意な発言をしたりしていないかどうか。こうしたちょっとしたことの積み重ねが、部下の上司に対する信頼や人望に大きくかかわっているということを改めて認識したほうがいいでしょう。

もっとも重要なポイントをひとつ上げるとすれば、自分の話の伝え方や話の聴き方で、相手の心にどんな感情が湧き起こるかを考えて、そこから逆算して言葉や表現を紡ぐことです。中枢神経で喋ってはなりません。相手に好感を持ってもらうために、何をどのように伝えたらいいのか。不用意に言葉を吐く前に、そこを一旦吟味してからアウトプットするということです。これを逆算話法と言っています。是非、習慣づけてほしいものです。

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