挙式に天から音楽が鳴り響いた聖女
新婦が新郎をキリスト教に改宗し、結婚式にのぞんだ二人の心に天から祝福の美しい音楽が奏でられた。音楽の守護聖人となった聖チェチリア（Santa Cecilia）の墓の上に築かれたローマのトラステヴェレ地区の聖チェチリア教会（Basilica di Santa Cecilia in Trastevere）で、聖チェチリアの特別ミサが聖女の記念日（11月22日）に行われた。
ローマを流れるテヴェレ河の右岸にはヴァチカン市国、聖ペテロ大聖堂があり、その南の地区を「テヴェレ河の向こう」ということからトラステヴェレと呼んでいる。この地区もローマ帝国時代からの古い地域で、聖チェチリアの生家もトレステヴェレ地区にあった。現在は庶民の町で古き良きローマが残る地区として知られ、観光客からも人気のエリアだ。ローマ市内からも比較的容易に路線バスなどで行ける。
聖チェチリアの記念日の特別ミサは、記念日の前夜のイヴの晩の祈りから始まる。翌朝は、早朝の６時半の特別ミサから始まる。メインの荘厳ミサは二回目の晩の祈りの特別ミサ。グアティエロ・バセッティ（Gualtiero Bassetti） 枢機卿の司式により18時半から始まった。堂内がオルガンの大音響に包まれる中、司教団が入堂。
普段はヴァチカンのシスティーナ礼拝堂で合唱しているシスティーナ礼拝堂男性合唱団が音楽の守護聖人聖チェチリアの特別ミサで合唱。男性合唱団が歌うグロリアで特別ミサは始まった。
最初の教会が９世紀に教皇パスクァーレ（Pasquale）1世により築かれて以来、教会は度々修改築を重ねた。14世紀初頭に女子修道院が増築された際に、初期ルネサンスのパイオニアでもあったローマ、ナポリで活躍した画家ピエトロ・カヴァリーニ（Pietro Cavallini）が描いた貴重な壁画が残っている。カヴァリーニは教会内の主祭壇の上の内陣の天蓋下部に聖母マリアの生涯の連作もモザイク画を残している。カヴァリーニの壁画の観賞は、教会の入り口近くの修道院へ入り口で入場券を購入後訪問可能。
聖人録
聖チェチリア
Santa Cecilia
スペイン・マドリッド、ティッセン＆ボルミネッサ美術館 所蔵
聖チェチリアは3世紀初頭ローマのトラステヴェレ地区の貴族の娘として生まれた。両親に異教徒であった貴族との結婚を勧められたが、チェチリアは純潔を守るために結婚に否定的だった。結婚式で天使の奏でる音楽を心の中で聞き、純潔を守ることを新郎ヴァレリアーノに伝えたところ新郎も改宗し当時の教皇ウルバノ（Urbano）1世から洗礼を受けた。その後、軍人であった弟アンドレアもキリスト教に改宗し、チェチリアと共に貧者に施しを与え、殉教したキリスト教徒たちをカタコンベ（地下墓地）に葬っていた。
ヴァレリアーノ兄弟は、殉教者たちを葬っている時に捕らえられ斬首の刑に処された。チェチリアも後に捕らえられ、キリスト教の棄教を強要されたが
拒否し、蒸し風呂刑に処されたが、汗ひとつ掻かかなかったために斬首の刑に処された。
ドイツ・ドレスデン、アルテマイスター絵画館 所蔵
聖チェチリアの遺体はローマ郊外の聖カリストのカタコンベに葬られていたが、9世紀の教皇パスクァーレ1世が聖女の遺体を発掘し、現在のトラステヴェレの聖チェチリア教会に移葬した。
1599年、翌年の聖年の準備のために聖チェチリア教会を修築していた際に、聖チェチリアの石棺を開けたところ、聖女の遺体は腐敗せず生きたままのように発見され、その石棺からは薔薇を百合の香りが立ち上ったといわれる。その姿を当時の彫刻界の巨匠ステファノ・マデルノが教会の主祭壇の下に顕示する聖女の墓標として作った。
聖女は、右わき腹を下にして、右手の指三本と左手の指で三位一体の神に自らを捧げたことを示していたという。
チェチリアはイタリア語、フランス語はセシール、英語はセシリア。
聖チェチリアは音楽、楽器職人、盲人などの守護聖人。
ローマにある国立音楽院は、正式名称サンタ・チェチリア国立学院（Accademia Nazionale di Santa Cecilia）と呼ばれている。
ローマでは「サンタ・チェチリア」というと、主に音楽院のことを指す。