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東浩紀『訂正する力』を訂正する

 東浩紀が上梓した『訂正する力』(朝日新書 2023.10.30.)は語り下ろしということもあって読みやすいし、「じつは……だった」のダイナミズムという思想はとても説得力がある。

 ところで2022年7月の安部元首相銃撃事件の暗殺に関して、「テロは分が悪い賭けです。テロは必ず処罰される。そしてテロで社会が変わるかどうかは、結局のところ結果論でしかわからない。」としたうえで東は以下のように記している。

 実際、2023年4月に起きた岸田首相への爆発物投擲とうてき事件は、驚くほどすぐ忘れられてしまいました。山上被告が一部でヒーローになったからといって、似たことをやればヒーローになれるわけではない。

『訂正する力』p.95

 しかし銃撃事件で安部元首相は亡くなったが、爆発物投擲事件で岸田前首相はかすり傷さえ負っていないのだから、「驚くほどすぐ忘れられて」当然ではないだろうか。
 さて、この東の「誤解(あるいは無視?)」はとても興味深い。「訂正する力」はロジックとして正しいと思うのだが、日本にはびこっている思想は「訂正する力」ではなく「訂正させる力(つまり論破?)」の「濃度」であり、「訂正する力」など最初から眼中に無く、ジャック・デリダの「脱構築」をもってしてもこの「訂正させる力」から逃れることは難しいのではないかと思うのである。「批判を引き受ける力」など日本人に身につけられるだろうか?